燃料電池自動車「MIRAI」は家庭の発電所
〔1〕MIRAIは9kWの発電所
燃料電池自動車「MIRAI」は、燃料電池能力は最大114kW(新型FCスタック)の出力であるが、災害時などにMIRAIから一般家庭へ電力給電能力は、最大9kWの電力の供給が可能であり、その供給可能電力量は約60kWhである。これは一般家庭の消費電力量の6日分に相当する電力量となっている注6。
すなわち、MIRAIに水素をフル充填(水素5kgを充填)した場合、MIRAIは、災害時などにおいて一般家庭に「家庭発電所」として電力供給ができるため、まさに燃料電池発電所付きのスマートハウスとなる。
〔2〕MIRAI発電所の仕組み
MIRAI発電所の仕組みを、図8に示す。
図8 MIRAIから住宅や電気製品へDC(直流)給電の仕組み
〔出所 トヨタ自動車「大容量外部電源供給システム」より、http://www.tcmit.org/information/docs/20141118_01_FCV_Panel.pdf〕
MIRAIから供給される最大9kWの直流(DC)電力は、別売のV2H用給電器注7によって、一般家庭で使用できる交流(AC)電力に変換され、利用可能となる。
また、別売のV2L用給電器注8によって、テレビや空調機器などへの給電も可能となる。さらに、アクセサリーコンセント(AC100V-1500W)から、直接パソコンなどの電気製品をつないで、車内で使用することも可能となっている。
なぜ「5,680件ものMIRAIの特許」を無償で提供したのか?
〔1〕初期段階における普及が優先課題
トヨタは、燃料電池自動車「MIRAI」(ミライ)の発売に続いて、2015年1月6日、燃料電池自動車の普及に向けて、国際的にトヨタが単独で保有している約5,680件(表5参照)の燃料電池関連の特許(審査継続中を含む)の実施権を無償で提供すると発表した。これは、米国ラスベガスで開催中のCES2015(コンシューマエレクトロニクスショー、2015年1月5日現地時間)においても発表されたが、異例な特許公開とあって、世界的に大きな注目を集めた。
表5 トヨタの特許実施権の無償提供の具体的な内容
〔出所 トヨタ自動車2015年01月06日付ニュースリリース、 http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/4663446/〕
今回の発表は、トヨタとして燃料電池自動車の導入初期段階においてその普及を最優先課題とし、今後、開発や市場導入を進める自動車メーカーや水素ステーション整備を進めるエネルギー会社などと協調し、新市場を早急に創出する戦略に基づいたものとなっている。
〔2〕海外も含めて数十社からの問い合わせ
特許は、特許庁によって特許申請注9が認められた時点から1年半経つと、自動的に公開されるため、トヨタがどのような特許をもっているのか、特許自体は閲覧できるようになる。
通常、特許を使う際には、特許保有企業(あるいは個人)と交渉して特許使用料を支払うことになる。しかしトヨタは、前述のように燃料電池関連の特許に関しては、特許料は無償とするという方針を決め、広く世界に発表した。この発表に対するメディアの反響は、トヨタのオープンマインドへの評価も含めて、新聞やテレビをはじめとする各メディアでの報道量は、2014年末のMIRAIの発表時と同等レベルの大変大きなものであった。
反響は多く、これまでに海外も含めて数十社からの問い合わせがあったということである。
▼ 注6
車両(MIRAI)のCHAdeMO(チャデモ)端子に、DC→AC(直流/交流変換)の給電器(別売)を接続することによって、住宅や家電製品に給電可能となる。
1kWh:1 kilo Watt hour、1kW時。1kWの電気製品を1時間使用すると、1kWhの電力が消費されるという意味。一般家庭の消費電力を1日10kWhとすると、60kWhは6日分に相当する。
▼ 注7
V2H:Power Supply from Vehicle to Home、MIRAIから住宅への電力供給。
▼ 注8
V2L:Power Supply from Vehicle to Load、MIRAIから電気製品(負荷)への電力供給。
▼ 注9
特許出願:特許権を得るため、特許庁に対して行う出願(申請)のことを法律的に特許出願という。特許出願では、発明の内容を記載した明細書や発明の中で権利を要求する範囲を記載した内容を簡潔に記載した要約書を提出する。出願日から1年6カ月までの期間は、出願内容が公開されることなく秘密にされるが、出願から1年半が経過すると、特許庁によって自動的に出願内容が公開される。日本の特許法は「先願主義」(先に出願した人に権利が与えらる)という考えに基づいて制定されている。