[特別レポート]

岡谷鋼機がスマートタウンエネルギー管理のための「smart fasaboプラットフォーム」を提供開始

― マルチベンダ機器に対応した消費量データの活用が実現 ―
2015/07/01
(水)
奥瀬 俊哉 コントリビューティングエディター/インプレスSmartGridニューズレター編集部

2016年度以降の電力やガスなどのエネルギーの自由化に向けて、居住者が快適性や利便性を意識できるようなスマートハウスやスマートマンション、さらにはこれらを包含するスマートタウン注1の導入の検討が各地で進んでいる。このような動きのなかで岡谷鋼機では、スマートタウン向けに必要な「smart fasaboプラットフォーム」(スマートファサボ プラットフォーム)を市場展開するために製品化を進めている。
ここでは、同プラットフォームの機能と、それによって実現できるスマートタウンの将来像について解説する。

smart fasaboプラットフォームとは

〔1〕smart fasaboプラットフォームの概要

 smart fasaboプラットフォーム注2は、図1に示すように、「サービスゲートウェイ」と「データ管理/収集/制御を含むライフログ収集を行うプラットフォーム」から構成される。

図1 smart fasaboプラットフォームの概念図

図1 smart fasaboプラットフォームの概念図

〔出所 岡谷鋼機資料より〕

 スマートタウンを管理する各事業者やサービス提供事業者は、スマートハウスやスマートマンションに設置されている住宅設備機器や家電機器、HEMS機器からの、機器メーカーに依存しない各種利用データをもとにした居住者へのサービス提供を模索している。

 このような需要に応えるため、smart fasaboプラットフォームでは、機器メーカーに依存しない「データ管理」「収集」「制御」を行い、さらに蓄積/整理をしたビッグデータを軸にしたサービスモデルを展開することが可能になる。

〔2〕smart fasaboプラットフォームの特徴

 smart fasaboプラットフォームはECHONET Liteプロトコルを搭載し、経済産業省が選定している同プロトコルで接続する重点8機器注3に加え、電気錠や電動シャッター、開閉センサー、温度・湿度センサーなどマルチベンダ接続が可能となっている。そのほかの機能として、表1のようなものがある。

表1 smart fasaboプラットフォームの機能

表1 smart fasaboプラットフォームの機能

〔出所 著者作成〕

 また、同プラットフォームでは、図1に示すように、例えば、スマートタウンの管理事業者が、街全体のエネルギー管理を行ったり、日常において、適宜、居住者に有益となる情報を配信したりすることもできる。さらに、各家庭のサービスゲートウェイに接続された機器の利用データを統合して各家庭のログ(記録)を収集することで、スマートタウン全体のエネルギー利用の見直しなどを行うことが可能となる。

 現在(2015年6月現在)、smart fasaboプラットフォームは、サービスゲートウェイの開発環境が完成し、スマートタウン事業者向けにシステム要件を精査しながら、スマートハウスやスマートマンションに設置される機器をサービスゲートウェイへ接続して、その動作検証を行っている。サービスの提供は、2017年秋を予定している。

smart fasaboプラットフォーム導入のスマートハウスで何が可能になるか

〔1〕外出先からスマートフォンで家庭内の機器を制御

 ここで、smart fasaboプラットフォームが実現する具体的な例を挙げて見ていこう。

 図2は、同プラットフォームのシステム構成例である(写真1参照)。スマートハウスへの導入を想定して、サービスゲートウェイに、エアコンやエコキュート(写真2参照)、エネルギーセンサーアダプタ、電気錠、照明器具などを接続している。

図2 smart fasaboプラットフォームを用いたシステム構成の例

図2 smart fasaboプラットフォームを用いたシステム構成の例

〔出所 岡谷鋼機資料より〕

写真1 展示会でのsmart fasaboプラットフォームのデモの様子

写真1 展示会でのsmart fasaboプラットフォームのデモの様子

写真2 smart fasaboプラットフォームに接続したエコキュートのリモコン(サンデン製)

写真2 smart fasaboプラットフォームに接続したエコキュートのリモコン(サンデン製)

写真3 smart fasaboプラットフォームに接続した電動カーテン

写真3 smart fasaboプラットフォームに接続した電動カーテン
〔写真提供 第1回 岡谷鋼機・岡谷鋼機九州 展示会デモより、2015年4月17日〕

 例えば、自宅へ帰宅する際、スマートフォンからエアコンの電源やエコキュートの追い炊き機能を「ON」にすることで、帰宅後に快適な環境を実現できる。あるいは、外出時に家の鍵を閉めたかどうか不安になった際には、スマートフォンから「電気錠の施錠確認」を行えば、施錠されているかどうかをサービスゲートウェイが判断して、スマートフォンへメールにて通知する。また、帰宅が予定時間より遅くなり、日没時間になる場合には、電動カーテンを外出先のスマートフォンから制御して閉めることができる(写真3参照)。

 さらに、窓に開閉センサーが設置されているので、鍵を閉め忘れた窓を不審者が開けた場合にも、通知することができる。実際には、イベントアクション機能で電気錠が設定されている場合には、窓の開閉センサーと連携して、開いている窓についてあらかじめ通知できる。

〔2〕家庭内の各種機器とホームゲートウェイの連携動作:4つのイベントアクション機能

 先に述べたイベントアクション機能は、Home Modeボタンとして「在宅」「外出」「おやすみ」「長期外出」の4つの機器連携パターンを搭載している(図3)。いずれの場合にも、家庭内に設置されたインホームディスプレイのHome Mode(在宅モード/外出モード/おやすみモード/長期外出モード)を押すことで、サービスゲートウェイに接続されている機器が連携し、所定の動作モードに対応する。システム検証においては、表2の内容で各機器が連携している。

表2 4つのイベントアクション機能と連携の内容

表2 4つのイベントアクション機能と連携の内容

〔出所 著者作成〕

図3 Home Modeのイベントアクションボタン

図3 Home Modeのイベントアクションボタン

〔出所 岡谷鋼機資料より〕

〔3〕停電時でも蓄電池から給電が可能

 また、スマートマンションやスマートタウンにおいては、電源関係の点検などで一時的に停電となるケースが考えられる。このような場合でも、smart fasaboプラットフォームを利用すれば、例えば3時間程度、冷蔵庫やリビングの照明器具などの生活に必要となる住宅設備機器や家電機器を、蓄電池経由で利用する電源を構成することができる。

 これによって、一時的な停電時においても居住者の生活に支障が出ないようにすることができる。

今後の課題と目指すもの

 巷では、「エネルギーの見える化=スマートハウス」であるかのような構図が印象付けられている。しかし、今後は、エネルギーの自由化と並行して、系統電力以外にも太陽電池や燃料電池での「創エネ」や、必要以上に創ったエネルギーを蓄電池で蓄える「蓄エネ」などの利用とともに、大量にエネルギーを利用しなくてもスマートハウスやスマートマンションの居住空間の快適性や利便性をどう実現できるか、ということが大きなテーマになると考えられる。

 その1つとして、経済産業省で、スマートハウス向けにネット・ゼロ・エネルギー・ハウス注4という定義がなされており、2020年以降、この定義に則したスマートハウスが標準仕様になると言われている。

 ハードウェア指向でこれらの組み立てを行うことは、コストアップや特定の製品でしか実現できないなどの課題もあるが、建物を建てる際には、住宅設備機器として、分電盤や玄関扉、窓などは必要となる。そのため、これらの設備とHEMSで製品化されているプラットフォームやサービスゲートウェイをマルチベンダ対応することは、これからのスマートハウスやスマートマンションの建設、さらには、街づくりを行ううえで、底辺の支えとして、確実にそのモデルケースを用意することが求められる。

 一方、クラウドを含めたサービス事業者の視点では、「サスティナブル」(持続可能)な対応が将来的な検討要素となっている。ハードウェアに依存しない形での機器利用は無理があると考えられるので、このサスティナブルに対応したサービスゲートウェイにOSGiフレームワークを搭載することで、スマートフォンと人間、スマートフォンと各家庭、人間と各家庭の関係性を精査し、何を具現化するかを、IT業界や建設業界、エネルギー事業者、通信事業者などが横断的に協議することが重要であると考える。


◎Profile
奥瀬 俊哉(おくせ としや)
株式会社UMA総合研究所 執行役員 CTO

1986年〜富士通(株)にてISDN-TAやISDN、パソコンLAN(IEEE 802.3)向けの通信カード、通信モジュールの商品企画、営業技術を担当。1999年〜(株)ACCESS にてNTT Lモード端末向けブラウザの商品企画、事業 推進を担当。2005年〜(株)フラクタリストを経て、2008年〜(株)メイクウェーブ・ジャパン 代表取締役に就任。OSGi、TR-069などのソフトウェアライ センスやサポート、OSGiバンドルソフト開発、サービスプラットフォームの支援やPaaS、SaaSに求められるプラットフォームを構築。2015年7月より現職。

主な著書に、『世界の スマートメーター/AMIとデマンドレスポンス最新動向2012』『事業化フェーズに突入したHEMS/BEMS/MEMS最新技術動向2014』(共著、インプレスR&D)などがある。


▼ 注1
スマートタウン:100〜300戸程度の宅地分譲の範囲をイメージしている。

▼ 注2
smart fasaboプラットフォームのfasaboとは、仏語で「famille=家庭」「sante=健康」「bonheur=幸せ」の3つのを統合した言葉である。

▼ 注3
重点8機器:経済産業省がHEMSと接続する可能性が高いエネルギー関連機器として選定したもの。①スマートメーター、②太陽光発電、③蓄電池、④燃料電池、⑤電気自動車/プラグインハイブリッド自動車、⑥エアコン、⑦照明機器、⑧給湯器の8機器。

▼ 注4
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス:省エネ機器の導入や外壁や窓の高断熱化、ソーラーパネルや蓄電池の設置などを活用して、年間の一次エネルギー消費量を削減し、正味(ネット)でおおむねゼロとなる住宅。一次エネルギーとは、石油、石炭、天然ガスや水力、太陽光など、自然界に存在している形そのままのエネルギー源を言う。

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