スマートグリッドやデマンドレスポンスにおける「弾力性」の意味
ダイナミックプライシングの社会実証では、スマートグリッドの構成要素のひとつであるスマートメーターが導入され、時間帯ごとの電力料金に対する電力消費の計量が可能である。そのため、これまで推計が困難であった電力需要の価格弾力性を詳細に調べることが可能となった。では、この弾力性がスマートグリッドやデマンドレスポンスにおいてどのように活用されるのであろうか。
弾力性を計測できることは、「ある料金水準からこれだけ料金を変化させれば、どれだけ電力の使用量が変化するか」を把握できるので、電力利用のピーク時に、電力需給の逼迫を解消するための最適な電気料金の設定が可能となる。特に、原発停止による電力不足が懸念される現在、電気料金を変動させるタイプのデマンドレスポンスは有効な手段として期待される。
しかし、一方で、電気料金の変動は電力消費を変化させるため、消費者の電気代の支払額が変化して経済的負担が増加する可能性がある。先に述べたように電力需要の価格弾力性は小さいため、電気料金の上昇は電気代の支払額が増加する可能性がある(図参照)。
ところで、ダイナミックプライシングが社会に浸透するためには、消費者の負担がダイナミックプライシング導入前後と比較して大きく変化しないことが望ましい。弾力性の情報をもとに、電気料金変動による電気代の支払額の増減を推計できることから、消費者の負担を最小限に抑えた電気料金の設定が可能となる。
これまで電力需要に合わせて電力供給が調整されてきたが、電力不足の懸念がある今の日本の電力供給の状況では、電力供給に合わせて電力需要を調整する必要がある。デマンドレスポンスは電力需要の調整方法として有効な手段として期待できるが、その効果を知る際に、需要の価格弾力性は重要な役割を果たすものと考えられる。
Profile
牛房 義明(うしふさ よしあき)
2001年9月、中央大学大学院経済学研究科博士後期課程満期退学。2001年10月に北九州市立大学に赴任。専門は環境経済学。現在はスマートグリッドやデマンドレスポンスに関する経済分析を行っている。