OSGi Allianceのボードメンバーによるワークショップを開催
5月29日に開催された「OSGiユーザフォーラムJapan 第7回ワークショップ」は、通常の定例ミーティングを東京で開催することにあわせて、OSGi Allianceのボードメンバーによって行われた。このため従来のワークショップとは異なり、
- OSGi Allianceの最新の検討状況
- ドイツテレコムが中心に取り組んでいるスマートハウス向けHomeICT基盤である「QIVICON」注3の内容
- クラウド市場を想定したOSGiの製品化を手掛けている米国Parmus社の事業戦略
など、国際的な事例も紹介された。
また、日本企業からはOSGiを搭載した製品活用事例などが紹介され、ここ数年、日本でもOSGiを利用できる環境が徐々に整っていることを確認することができた。同セミナーの概要は以下の通り。
【1】NTT東日本:フレッツ・ジョイントというHomeICT基盤のビジネス展開を行っている。この基盤では、NTTが開発したOSGiフレームワーク「OSAP」(OSGi Service Applica-tion Platform)を、NTT東日本が提供するフレッツ光向けのブロードバンドルータへ搭載することで、マルチサービスを実現する環境を用意する。
【2】住友電工ネットワークス:OSGiを実現するためのサービスプラットフォームとして、宅内のブロードバンドルータに接続するサービスゲートウェイ注4というコンセプトで製品開発し、ドイツテレコムの「QIVICON」向けに製品提供を行い、現在も継続して製品開発中。このサービスゲートウェイの主な機能としては、
- ネットワークに接続される機器を認識する機能
- 接続された各機器に搭載されているアプリケーションを管理し、制御する機能
- 遠隔からの制御や、更新を可能とする機能
などがあり、これらの機能を実現するプラットフォームを構築する場合の標準技術として、OSGiが期待されている。
【3】日立製作所:日本企業では、唯一OSGiフレームワークソフトウェアの製品化を行っている同社は、スマートコミュニティ市場全般でのOSGiフレームワークソフトウェアを搭載したホームゲートウェイについて紹介し、スマートハウスや電気自動車の充電ステーションを管理するプラットフォームにおける同社製品の導入事例も紹介した。
【4】イーフロー:スティックタイプPC(USBアダプタ)を製品化し、端末に依存せずにこのスティックへOSGiを搭載することで、例えばホテルやネットカフェのPCからでもさまざまなサービスを利用できる活用例を提案。このスティックは、過去にブームとなったネットワークコンピュータやシンクライアント端末をUSBアダプタのハードウェア上で実現している。
【5】ブロードリーフ:ECHONET Lite接続機器の連携や、スマートフォンとサービスゲートウェイとの連携など、マルチ機器とマルチサービスとの連携に必要なプラットフォームの必然性を、マンションディベロッパーなどの視点からユースケースの紹介を行った。同社は、MakewaveAB(本社:スウェーデン)のOSGiフレームワークソフトウェアの日本市場における代理店。
スマートコミュニティを支えるプラットフォーム:OSGiの役割と展望
今回のワークショップでは、OSGiにおける技術の検討状況や各種製品への搭載状況を確認できた。また、OSGiがM2M(Machine to Machine)市場を含めたスマートコミュニティ市場において、そのプラットフォームとして定着していくためには、まだ時間を要することも確認できた。
結論から言うと、個々の技術要件やOSGiフレームワークという部品、ECHONET Liteという部品としての仕様策定や実現へ向けたソフトウェアなどが各社より提供されているが、実際のビジネス面においてはこれらの「横連携」や「縦連携」を行うことが求められている。そこで図1に、OSGiを活用したサービスゲートウェイの相関図を示す。
図1 OSGiを活用したサービスゲートウェイの相関図
図1の主な課題解決事項をまとめると、次の通りである。
- 課題解決1:OSGiを搭載したサービスゲートウェイの仕様策定
- 課題解決2:サービスゲートウェイとECHONET Lite機器の相互接続性
- 課題解決3:ECHONET Liteミドルウェアアダプタとターゲット機器の仕様策定
今後は、これらの課題解決へ向けた異業種での企業連携、必要な技術を検討している標準化団体間での連携、そして両方を並行して推進する事業母体を国主導のプロジェクトとして推進することなどが求められる。具体的には、スマートハウス内に設置されたサービスゲートウェイと住宅設備機器や創エネ/蓄エネ機器などの接続が容易で、かつ、接続状態を管理する環境の整備を行うことで、サービス提供側と機器提供側の仲介を行うためのプラットフォーム基準が整備されることが重要である。
Profile
織田 淳(おだ じゅん)
xEMSインテグレータ研究会
1986年から大手半導体ベンダにて通信プロトコルLSI(ISDN、Ethernet、ATMネットワーク)の商品企画、営業技術を担当。2000年から通信ソフトベンダにて自動車メーカー向け車載端末用ブラウザの商品企画と事業推進を担当。2004年からオーバーレイネットワーク技術の研究開発を行い、2008年からホームICT向けのプラットフォーム事業やHEMSゲートウェイを含めたクラウド連携ビジネスの事業推進を担当。標準化組織でネットワークミドルウェアの研究にも従事。
▼ 注3
以前は「Smart Connect」と呼ばれていたが、2011年9月に公開したプレスリリースからは新しいブランド名「QIVICON」という名称で呼ばれている。QIVICONは、T-Systemsのスマートハウス構想を実現するためのサービスで、QIVICON HomeBaseというホームゲートウェイを中心として、さまざまな機能を実現していく予定としている。http://www.qivicon.com/、またはhttp://www.telekom.com/media/media-kits/ifa-2012/152154 を参照。
▼ 注4
サービスゲートウェイ:Service Gateway。従来、インターネット通信(IP通信)の世界におけるゲートウェイ機器(相互接続機器)とは、ルータと呼ばれるIPパケットを転送するだけの「ネットワークゲートウェイ」であった。その後さまざまな機器がIP化され、インターネット回線のブロードバンド化が進展するに伴い、「サービスゲートウェイ」が求められるようになってきている。このようにサービスゲートウェイという場合には、OSGiフレームワークソフトウェアが搭載されている。