IECの組織と会長としての役割
─IECの会長職とは、どのようなお仕事なのでしょうか?
野村:私が会長として動くというのは、実際には任期の3年間(2014年〜2016年)だけでなく、次期会長としての1年(2013年)と前会長としてフォローする2年間(2017年〜2018年)という合計6年間になります。その間に、私自身が実現したいと考えているテーマ(直流と交流を使い分けるフェーズへ:後述)を完成させるというのではなく、それが実現するような方向にもっていきたいと考えています。
─具体的にはIECの会長として野村さんはどのようなことをお考えでしょうか?
野村:IECの会長になる前に面接のようなものがあるのですが、その際IECの事務局長に、あなたはIECの会長となって何をしたいか、と質問されました。それに対して私は、「直流に関して電気安全を確立しないと、エネルギーマネジメントもうまくいかないし、IECがこれを実現していかないと、他に誰も実現できる人(組織)はいない」と答えました。
私が会長に就任した際に今後の方向性をまとめた文書もありますが、(後述する)マスタープランのシステムズ・アプローチの実行や電気安全に関する標準の再整備、そして安全・安心をベースにしながら、そのうえの快適・便利な暮らしをどうやって標準化が推進、整備していくのかということを述べています。それが技術屋としての私が、一番実現したいことです。
─日本としては、1906年のIEC発足以来第34代目として3人目注3の会長選出ということになりますね?
野村:そうですね。IECの会長をどういうローテンションで選ぶのかというルールはありませんが、基本的には何代かに一度は欧州勢が会長職に就いております。それ以外は、アメリカ・カナダ圏とアジア圏からになります。暗黙のルールとして交代でやっていくというのはあるようです。
やはり欧州の力というのはそれなりに強いのです。2代連続で欧州以外の地域から会長が選出されると、その次は確実に欧州ということになるという風です。
ここでIECの現在の主要メンバーを見てみますと、Jacques Régis(ジャック・レジス)氏がカナダ出身の前会長(Immediate Past President)で、シーメンス出身のKlaus Wucherer(クラウス・ブヘラ)氏が今年(2013年)までの会長(President)になります。
そして私は、次期会長(President-Elect)ということで、現在、主要メンバー(IEC Officers)の1人となっているわけです。先ほど申しました次期会長としての1年間、会長としての任期が3年間、そして前会長として2年間という任期になります。
─会長の任期が終わって、すぐに役割が終わるというわけではないのですね?
野村:はい。任期が終わっても2年間はすべての会合に参加します。電気安全規定は、会長の任期の3年間という時間でそう簡単に変えられるものでもありません。そのため実務については会長が行いますが、前会長として方向性のフォローをしていきます。副会長としては、現在は、日立製作所の藤澤浩道氏をはじめとする3人が就任しています。そのほか、事務局長(General Secretary)は基本的にIECに常勤している立場の人になります。
IECの組織は、株式会社と同じように、基本的には総会で議決をすることになります(図2)。執行委員会(ExCo:Executive Committee)は、株式会社の代表取締役会に相当します。また、取締役会に相当する評議会(CB:Council Board)があります。
図2 IECの運営組織
〔出所 IEC各種資料より〕
会長としての役割としては、まず評議会、そして執行役員会において議長を務めます。
具体的には、IECの総会が10月か11月に、年1回開催されます。それに加えて評議会が2月、6月、10月の年3回開催されます。ここで大きな方向を決めて、最終的に総会で大きな決め事をするというのがIECの基本的なワークフローです。それを中央事務局(CO:Central Office)と方向付けを決めながら推進していくというのがベースの活動になると考えています。実際の標準規格を決める活動は専門委員会(TC:Technical Committees)が120ほどありまして、そこで具体的な活動が行われています。ただし、そのひとつひとつを逐次見ていくというのではなく、あくまでも大きな方向性を決めていくのが、会長としての役割になります。
─大変なお仕事ですね。
野村:基本的にはIECというのはルールを定めるだけではなくて、認証も行っている機関です。IECではCAB(Conformity Assessment Board、適合性評価評議会)と呼んでいますが、評価する組織を国で作ることができないとその国では認証できなくなってしまいます。そこでルールとしてはIECが作り、作ったルールを国際上の貿易の障害にならないようにCABで認証して、認証されたものに関してはIECのマークを貼るので、それに関しては世界のどこの地域であろうとも受け容れるということになっています。このような認証プロセスを、これから産業が興ってくる国でどうやって進めていくのかを考えるという点に、一番力を入れているところです。
─IECとして新しいテーマは、どのように検討するのでしょうか?
野村:そうですね。次の新しい方向性をどうするのかという、マーケットに関する内容は市場戦略評議会(MSB:Market Strategy Board)で検討されるのですが、この委員会は会長マター(管理すべき問題)の部分で、どのようなところにIECの力を注ぐのかということを考えていきます。
これまでは、産業界がデファクトの標準を主導していくような流れがありましたが、今はそうではなく、デジュールが最初にあるようにしないといけないと考えています。また、デジュールはデジュールの手続きがあるので、そこをきっちりしないといけないと考えています。
▼ 注3
第22代:高木昇氏(当時:東大名誉教授)1977年〜1979年、第30代:高柳 誠一氏(当時東芝技術顧問)2002年〜2004年。