[特集]

首都圏において電力供給サービスを開始した「関電エネルギーソリューション」のビジネスモデル ─ 前編 ─

2014/05/01
(木)

関電エネルギーソリューション(Kenes)のビジネス

次に、「関電エネルギーソリューション」(Kenes:Kanden Energy Solution、以下Kenes)のビジネス展開について、同社営業本部 ユーティリティ営業部長 田宮久史氏、総務部 広報グループ部長 小田敏広氏への取材をベースにまとめたので紹介しよう。

〔1〕Kenesのプロフィール

Kenesは、電気・ガス・熱・水関連のユーティリティサービス注2)、ESCOサービス注3、発電事業、電力供給サービスなどを主な事業内容として、関西電力が100%出資した会社である(表1)。

表1 関電エネルギーソリューションのプロフィール表1 関電エネルギーソリューションのプロフィール
〔出所 http://www.kenes.jp/company/outline.htmlhttp://www.kenes.jp/img/topics/018.pdf

〔2〕Kenesは関西電力の戦略的な企業

Kenesの今日に至るまでの経緯を簡単に紹介しておこう。

関西電力は、100%の出資会社として、

(1)2001年4月、ガスの販売などを行う「関電ガス・アンド・コージェネレーション」を設立。その後、

(2)2004年1月、電気保安整備などの管理運営を行う「関電ファシリティマネジメント」を設立。さらに、

(3)2007年8月、「関電ガス・アンド・コージェネレーション」と「関電ファシリティマネジメント」が合併し、「関電エネルギーソリューション」に商号を変更、

してきた経緯がある。

2001年に関電ガス・アンド・コージェネレーションを設立した際には、ガス販売に加え、分散型電源(コージェネレーション)のサービスを行ってきた。このガス販売では、2000年にガス事業を開始した関西電力の販売代行を行い、既存のガス事業者のパイプ(導管)を使用して、顧客まで届ける託送供給サービスをはじめ、LNGをタンクローリーで顧客の工場の構内などに設置されたサテライト設備まで運搬し販売している。

その後2008年に、大阪府堺市のシャープ(グリーンフロント堺:液晶パネルおよび太陽電池の工場)の電気設備・受電設備などをユーティリティサービスという形で受託し、サービスを開始した。さらに2010年2月、兵庫県姫路市のパナソニック液晶ディスプレイにも同様のユーティリティサービスを開始した。

〔3〕関西電力は電力供給、Kenesはユーティリティサービスを

これによって、通常の一般家庭や一般企業のオフィス、工場への電力供給サービス(電力販売)は、関西電力が提供する一方、顧客の受電設備や冷熱・温熱供給設備などに対するユーティリティサービスなどを、「関電エネルギーソリューション」(Kenes)が担う(詳しくは後述)という役割分担が明確となった。

Kenesの事業の機軸となるユーティリティサービスでは、表2に示すように、

  1. 受変電サービス
  2. 停電対策・瞬低対策サービス
  3. 太陽光発電サービス
  4. 冷熱・温熱供給サービス
  5. 24時間常時監視サービス

などを提供している。

表2 関電エネルギーソリューションのユーティリティサービス表2 関電エネルギーソリューションのユーティリティサービス

ユーティリティサービスは図4に示すように、顧客へのコンサルティングを行い、ユーティリティ設備の最適な設備設計から調達、建設保有、運用、保守までを一括して管理し、「ライフサイクルコストの削減」と「環境負荷の低減」の両立を図るサービスである。

これによって、顧客は本業に集中した経営を推進することができることになる。

図4 Kenesが提供するユーティリティサービスの流れ図4 Kenesが提供するユーティリティサービスの流れ

また、KenesはESCOサービスもビジネス展開している。ESCOとは、ビル・工場などのエネルギー診断から省エネ実施計画の立案、設備機器の提供・改修から運転管理・メンテナンスに至るまで、エネルギーに関する効率改善・コスト削減のすべてをサポートするサービスである。

このESCOサービスは、図5の左側に示すような、顧客への予備診断から運転管理に至る流れに従って行われる。省エネ効果の検証の結果、エネルギーの削減量が、契約時に約束した保証値に達しない場合は、その不足分をKenesが補てんする。

このESCO契約には、Kenesが初期費用を負担する「シェアードセイビングス契約」があり、この契約の場合、図5の左に示す、改修前(契約前)の電気・ガスなどのエネルギーコスト(A)と、図5の右に示す改修後(契約期間中)のエネルギーコスト(B)の関係は、

改修前エネルギーコスト(A)=改修後エネルギーコスト(B)+ESCOサービス料(C)+顧客のメリット(D)

という関係になる。

たとえば改修後(契約期間中)エネルギーコスト(B)が30%程度でESCOサービス料(C)が60〜65%程度の場合は、顧客のコストメリット(D)は改修前エネルギーコストの5〜10%程度となる。

一方、初期費用を顧客が負担する「ギャランティードセイビングス契約」は、顧客が省エネルギー効果によるコストメリットを原資として資金回収を行い、ESCOサービス料をKenesに支払うというものである。

図5 ESCOサービスの基本的な流れと顧客のメリット図5 ESCOサービスの基本的な流れと顧客のメリット

〔4〕2012年7月から首都圏の営業力強化

Kenesは、首都圏の営業を強化するため、2012年7月に東京事務所を開設した。その後、2013年9月特定規模電気事業(PPS)開始届出書を経済産業省資源エネルギー庁に提出した。

そして同年12月、特定規模電気事業の活動拠点として、また総合エネルギーサービス会社として経済規模の大きな首都圏での地位の確立と、トップライン(売上高)の向上を図ることを目的に、東京事務所を東京支社に昇格させた。

〔5〕首都圏で電力供給事業を開始へ

さらに、Kenesは、電力の買取や卸電力取引所(JEPX:Japan Electric Power Ex-change、表3)からの調達によって、当面の電力の供給力を確保したことから、2014年4月1日より首都圏において電力供給を開始した。

表3 日本卸電力取引所(JEPX)のプロフィール表3 日本卸電力取引所(JEPX)のプロフィール
〔出所 http://www.jepx.org/

(後編につづく)

◎取材協力

田宮 久史(たみや ひさし)

田宮 久史(たみや ひさし)
株式会社関電エネルギーソリューション
営業本部 ユーティリティ営業部長

小田 敏広(おだ としひろ)

小田 敏広(おだ としひろ)
株式会社関電エネルギーソリューション
総務部 広報グループ部長


▼ 注2
ユーティリティサービス:顧客の施設の運営のために必要となる電気、ガス、熱、冷水などを供給するための設備について、Kenesが設計、施工して設備を保有し、運転・保守・運用管理に至るまでの全部または一部の業務を、顧客に代わって一括して実施するサービス。

▼ 注3
ESCO(Energy Service Company)サービス:各企業のビル・工場などのエネルギー診断から省エネ実施計画の立案、設備機器の提供・改修、運転管理・メンテナンスまで、エネルギーに関する効率改善やコスト削減のすべてをトータルにサポートするサービス。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...