積極的な海外ビジネスを展開
ヤンマーは、広く知られているように、これまで小型ディーゼルエンジン事業を核に、小型エンジンを搭載したトラクターなどのアグリ事業(農業事業)やマリン事業(舶用システム事業)、建機事業(土木・建築工事に使用される機械事業)をはじめ、クラッチ(動力伝達装置)などのコンポーネント事業などを展開してきた。
このような背景のもと、2003年に設立されたヤンマー(YES)は、発電事業と空調事業(ガスエンジンによるヒートポンプ)の2つの柱を軸に、国内を中心にビジネスを推進してきた(表1)。
表1 ヤンマーエネルギーシステム株式会社のプロフィール(敬称略)
出所 ヤンマーエネルギーソリューション事業説明会資料(2019年8月8日)をもとに編集部で作成
また近年、国際的なエネルギー市場の活性化が進展する中で、海外のエネルギー市場の拡大を目指して、
- 2015年4月:スペインのヒモインサ(HIMOINSA)注1
- 2015年12月:ドイツのRME注2
- 2019年3月:ドイツのKKUグループ注3
を傘下に収めるなど、海外ビジネスを加速させている。
国内では3つのビジネスでSDGsを推進
国内のビジネスに目を向けると、ヤンマー(YES)は図1に示すように、
- 発電と廃熱を有効利用する「コージェネレーションシステム」注4
- 社会インフラ/BCP(事業継続計画)対策として重要な「非常用電源」
- 再生可能エネルギー(再エネ)を拡大する「バイオガス・BDF」(バイオディーゼル燃料)
を中心にビジネスを展開し、世界的な取り組みとなっているSDGsの達成を目指して、全社的な取り組みを強化している。
図1 ヤンマー(YES)のSDGsを推進する国内ビジネス
BDF:Bio Diesel Fuel、バイオディーゼル燃料
SDGsの17の目標(ゴール)のうち、ヤンマー(YES)では、【目標7】:クリーンなエネルギー、【目標8】:働きがいも経済成長も、【目標9】:産業と技術革新の基盤づくり、
【目標11】:住み続けられるまちづくり、【目標13】:気候変動対策、【目標17】:パートナーシップで目標達成、という6個の目標の実現が関連している。
出所 ヤンマーエネルギーソリューション事業説明会資料(2019年8月8日)
ヤンマー(YES)のエネルギーソリューション事業
ヤンマー(YES)のエネルギーソリューション事業を具体的に見てみよう。
図2は、同社のエネルギーソリューション事業の展開を示したものである。同事業は、5年後に100億円規模のビジネスに拡大させることを目標にしている。
この目標を実現するため、図2と表2に示すように、3つのソリューションが定義された。
- 創エネソリューション:エネルギーをかしこく創る。すなわち、天然ガスや石油などのエネルギーを高効率に変換し、電力や熱を創る。
- 再エネソリューション:今まで廃棄していたバイオガスや廃食油、食品残渣、もみ殻(もみがら)をエネルギー変換し、電力や熱を創る。
- 熱電ソリューション:(1)(2)で創られたエネルギーを、ヤンマーのエネルギー管理システム(Y-EMS)や未利用熱を活用して最適制御することによって、無駄のない省エネシステムを実現する。
図2 ヤンマー(YES)の3つのエネルギーソリューション事業
出所 ヤンマーエネルギーソリューション事業説明会資料(2019年8月8日)
表2 ヤンマー(YES)が推進する創エネ・再エネ・熱電ソリューション
GHP:Gas engine driven Heat Pump、ガスヒートポンプ方式。空調機による冷暖房は、冷媒をコンプレッサ(圧縮機)によって循環させることによって行われるが、GHPは圧縮機の駆動にガスエンジンを使用する方式。これに対し、圧縮機の駆動にモーターを使用する方式はEHP(Electric Heat Pump、電気式ヒートポンプ方式)と呼ばれる。GHPのほうが、電力消費量が少なく省エネが可能になる。
コージェネレーション:Cogeneration。天然ガスや石油、LPガス等を燃料として使用し、エンジンやタービン、燃料電池等の方式によって発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムのこと。回収した廃熱は、工場における熱源や、家庭やオフィス等の生活の場における冷暖房、給湯設備などに利用できる。「コージェネ(コジェネ)」あるいは「熱電併給」と呼ばれる。
カーボンニュートラル:直訳すると「炭素中立」。植物由来の原料を燃やしても、排出されるCO2は植物の光合成で再び取り込まれるので、CO2の増減に影響を与えない状態のこと。
出所 ヤンマーエネルギーソリューション事業説明会資料(2019年8月8日)をもとに編集部で作成
これらのソリューションを提供する場合、ヤンマー(YES)は、メーカーとして単に機器の販売をするのではなく、トータルな観点で、施工や顧客課題に応じた改善策を提案し、省エネや省CO2、省コストを実現するなど、諸課題を解決していく。さらに、同ソリューションを通して、低炭素から脱炭素への実現を図り、室温効果ガスの排出量を低減させていくとしている。
▼ 注1
スペインのヒモインサ(HIMOINSA):欧州を中心にグローバルにオンサイト型発電システムと、そのトータルソリューションを提供する企業。
オンサイト型発電とは、事業活動を行う者が発電設備を自社(団体)が保有・管理する敷地内(オンサイト)へ設置し、事業活動や事業継続に必要なエネルギーを自給すること。通常は発電システムだけでなく、効率的な排熱利用を目的としたコージェネレーションシステムなどの導入も含む。
https://www.yanmar.com/jp/news/2015/04/27/1012.html
▼ 注2
ドイツのRME:ドイツのマイクロコージェネレーションシステム(マイクロコージェネ)の開発・製造・販売会社。その子会社RME/ENERGIEとマイクロコージェネの共同開発を行っている。
https://www.yanmar.com/jp/news/2015/11/26/1237.html
▼ 注3
ドイツのKKUグループ。ドイツ企業向けに空調・冷蔵機器の販売、エンジニアリング、施工、サービス、周辺機器の製造・販売を行っている。
▼ 注4
コージェネレーション(Cogeneration)。天然ガスや石油、LPガス等を燃料として使用し、エンジンやタービン、燃料電池等の方式によって発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムのこと。回収した廃熱は、工場における熱源や、家庭やオフィス等の生活の場における冷暖房、給湯設備などに利用できる。「コージェネ(コジェネ)」または「熱電併給」とも呼ばれる。