インターネットを使った新サービスを創出した「通信の自由化」のインパクト
今回の電力自由化を、1985年に行われた電電公社の民営化、すなわち「通信の自由化」から考えてみようと思います。
「通信の自由化」とは、政府の専売事業であった国際通信事業と国内通信事業を民営化したことでした。この時に、第二電電注1と呼ばれる新しい民間の通信事業者が多数創設されました。巨大組織であるNTTの事業規模の大きさとそのブランド力がもっている市場独占性に対処するために、NTTへユニバーサルサービス義務注2を課すなど、さまざまな「非対称規制」注3が適用され、新規事業者が市場へ参入しやすくなるように支援されました。
それでも、本格的で本質的な業界再編は、それから12年後の1997年のNTT法の改正による、NTTの分割化注4以降となりました。
また、1997年頃は、ちょうど旧来の電話インフラを用いたインターネットサービスやビジネスが起動・普及しつつある時期にあたっていました。このため、1997年のNTT分割化以降は、電話インフラがインターネットインフラへと進化、すなわち市場が大きく進化した時期であり、一時期、インターネットサービスプロバイダ(ISP)は、1,000社以上登場したこともありました。これは業界の再編であったと捉えることができるのではないでしょうか。
既存インフラや事業の融合を超えた大革命の「準備」の時
これに対して、2016年4月から、発電業務と送配電業務を地域独占注5していた電力会社が従来のような限定された地域でのビジネスを、全国展開できるようになり、電力以外のガスなどのエネルギー事業やその他の事業との融合が可能になる、すなわち事業の自由化が可能となります。
現在は、1997年の時とは、市場環境や技術は大きく異なりますので、電力の自由化が、通信の自由化(1985年が第1段階、97年が第2段階)と同じような経緯をたどるということはないかもしれません。しかし、通信の自由化の時の経験は、今回の「電力の自由化」の大きな参考になるもののように思えます。
今は、ちょうど通信の自由化における1997年の頃のように思えます。すなわち、電力業界の再編の入口に立ったところであり、新しい技術とサービスが市場に投入され、現在のエネルギーサービスとは異なるサービスが創造され、新しい事業を形成していき、その新しい事業に適した業界構造に変化して行くのではないでしょうか。
再生可能エネルギーの登場、原子力エネルギーの事業性・必要性、分散協調型エネルギーエコシステムの登場など、単なる既存インフラや事業の融合を超えた大革命の「準備」が、「これからの約10年」注6で進行し、約10年後に「第2次の」電力(+エネルギー)の自由化(=大革命)が行われるのではないでしょうか。
Profile
江崎 浩(えさき ひろし)
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授。
1987年九州大学 工学部電子工学科 修士課程修了後、(株)東芝入社。1990年米国ベルコア社、1994年米国コロンビア大学 客員研究員。1998年東京大学大型計算機センター助教授、2005年より現職。WIDEプロジェクト代表、日本データセンター協会 理事・運営委員長、電力広域的運営推進機関 評議員。工学博士(東京大学)。
▼ 注1
第二電電:1985年(昭和60)の通信自由化政策によって設立された日本電信電話(NTT)以外の長距離系の国内通信事業者の総称。また、同年に、「第二電電株式会社」という第一種通信事業者も設立された。
▼ 注2
緊急通報(110番、119番)など国民生活に不可欠な通信サービスを義務付けたこと。
▼ 注3
非対称規制:市場競争を促進するため、市場を支配する大手事業者への規制に比べ、新規参入者への規制を大幅に緩和することを非対称規制という。
▼ 注4
1997年に改正NTT法が国会で成立し、4社分割による再編成が決定した。
1999年に固定電話事業はNTT東日本、NTT西日本に分割された。また長距離部門はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が設立された。そしてNTT自身はNTT東日本、NTT西日本、NTTコムに加え、NTTドコモとNTTデータを傘下に置く持ち株会社となった。
▼ 注5
電電公社とは異なり、地域的に独占的なビジネスを行う10社から構成。
▼ 注6
これからの約10年:「10年」は、短くなるかもしれませんし、長くなるかもしれません。