[特別レポート]

【IAjapan IoT推進委員会 第4回シンポジウム・レポート】IVIのプラットフォーム戦略と期待されるインダストリアルIoTのグローバルスタンダード

― 連携を始めたIVI・IIC・プラットフォームIndustrie 4.0 ―
2016/10/13
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

国際的に進むオープンイノベーションの流れ

 図5に、「工場を起点」とするドイツのプラットフォームIndustrie 4.0と、「データを起点」とする米国のIICと、「現場を起点」とする日本のIVIの三者の立ち位置を示す。

図5 ビッグウェーブ(Industrie 4.0、IIC等)と日本のIVIの立ち位置

図5 ビッグウェーブ(Industrie 4.0、IIC等)と日本のIVIの立ち位置

出所 西岡 靖之、「IVIのプラットフォーム戦略と海外との連携」、2016年9月9日

 日本の製造業が非常に優秀であることは世界中から認められているところであるが、しかしこれまでのような日本の企業の自前主義では、今後、国際的に急速に進むオープンイノベーションの流れの中では戦っていけない。最近、このような理解が浸透してきていることもあり、IVIに参加する企業会員が増加してきている(現在:総会員数500メンバー)。

 また、IVIに参加するマネージャクラスの人々が、IVIでのオープンな議論(これまではそのような機会は少なかったが)を通して、これまで自前主義であったため秘密裡にしてきたが、オープンイノベーションなどの議論を通して、隠す必要がない当たり前のことであったことに気づき始めたのである。

 また議論を通して、IVIにおける「ゆるやかな標準」注5というコンセプトが会員の中で浸透してきた。一般に標準というと、最初にきちんと標準規格を決めて、それに各企業が従うというのが標準の考え方である。しかし、そうすると、最初に標準を決めるときに利害関係が出てきたり、あるいは標準に合わせるために自分の企業の強みを出せないなどの問題が起こってしまう。

 そこでIVIでは最初は厳しく決めないで、共通のルールを策定し、その場その場で柔軟に決めてその都度合わせていく「ゆるやかな標準」でシステムを構築してきた。

 表1に示すIVIにおける20の業務シナリオは、昨年(2015)度のIVIへの参加企業約200社が、20個のワーキングに分かれて「ゆるやかな標準」をベースに、システムを構築した実践例である注6

表1 IVIにおける20の業務シナリオWG(2015年度)

表1 IVIにおける20の業務シナリオWG(2015年度)

出所 西岡 靖之、「IVIのプラットフォーム戦略と海外との連携」、2016年9月9日

 現在のIVIのシステムの構築方法は、ドイツのIndustrie 4.0や米国のIICなどのアプローチとは異なり、現場のニーズを重視し、それに対応してボトムアップに構築したシステムとなっている。

 表1に示した20の業務シナリオWG(ワーキンググループ)の活動内容は、「IVI公開シンポジウム2016 ―Spring― 日本のものづくりの未来を拓く!」(2016年3月10日開催)のURL注7から見ることができる。URLにアクセスして、セッション1、2、3,4注8をクリックすると20個の業務シナリオWGへ参加した約200社(199社)におよぶ企業名とそれぞれのプレゼンテーションの内容が具体的に表示されるので参照されたい。

IVIが目指すプラットフォームとその特徴

〔1〕プラットフォームの整理

 このような現場のシステム構築の体験を通して、今後、製造用システムを構築するうえで、きちんとした共通基盤「プラットフォーム」を策定する必要があることへの関心が、IVIの参加企業において高まってきた。

 しかし、現実を見ると「プラットフォーム」という用語は、分野によってさまざまな解釈(例:駅のプラットフォームからコンピュータのOSやミドルウェアなどの中立的な実行環境、クラウド上で行う多様な処理を統合的に行う環境など)があり、氾濫気味である。まず、IVIではそれらを整理し、整理したプラットフォームをベースに、今年(2016)度の取り組みを開始し始めている。今年度は、前年度を上回る200社以上の25の業務シナリオ(25WG)が参加して、取り組む計画だ。

〔2〕IVIプラットフォームの特徴

 IVIが目指すプラットフォームとは、これまでIVIが提唱してきた「つながる工場」注9のための仕組みであり、後述するインフラ、アプリ、デバイス、ツールといった複数のコンポーネントによって構成される。それらのコンポーネントのハードウェアおよびソフトウェアを相互に連携させる(つなげる)ことで、価値を提供する仕組みである。

 この仕組みは、製品を販売するのではなくサービスとして提供することをプラットフォームとして位置づけている。特に、海外との差別化については、モノづくりを支援する企業に有用なプラットフォームで、次のような目的をもっている。

  1. ものづくりを実践する企業にとっての価値を、最大化することを第一の目的とする。
  2. 構成するコンポーネントについては、オープンな仕様にもとづき参加することを妨げない。
  3. 企業データの所有者は企業自身とし、プラットフォームがもつ共通データとは分離して管理する。

〔3〕IVIプラットフォームを構成するコンポーネントの種類

 前述したように、IVIプラットフォームは、次に示すデバイス、アプリ、インフラ、ツールという4つのコンポーネントによって構成されている。

  1. デバイス:センサーをはじめ端末機器、コントローラ、制御機器など、物理的な振る舞いをするハードをともなった構成要素。データを直接物理世界との間でやり取りする。
  2. アプリ:プラットフォームによって、データを交換する必要がある個々の業務を実行または支援するソフトウェア。単体でも機能するが、プラットフォームを介して他のアプリやデバイスとデータを交換する。
  3. インフラ:通信回線、データベース、回線制御装置、およびこれらのソフトウェアやソフトウェア管理システムなど、データの移動、蓄積のために必要となる構成要素。
  4. ツール:データのフォーマット変換、通信のプロトコル変換、コンポーネントのインテグレーション、プラットフォームの運用管理など、プラットフォームにとって共通に必要となる機能を提供する構成要素。

 表2に、このようなコンポーネントを用いて構築されるIVIプラットフォーム(PF)の8つのカテゴリーを示す。

表2 IVIプラットフォーム(PF:Platform)カテゴリー

表2 IVIプラットフォーム(PF:Platform)カテゴリー

出所 https://iv-i.org/docs/doc_160910_pfapplication-01.pdf


▼ 注5
ゆるやかな標準でつながる方法:<参考>IVI Webサイト

▼ 注6
本誌インプレスSmartGridニューズレター2016年4月号:「IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ)が次世代工場(ものづくり)の公開シンポジウム2016-Spring-を開催!―20個のワーキンググループから製造業200社が発表―」に詳細がレポートされている。

▼ 注7
https://www.iv-i.org/events/160310.html

▼ 注8
セッション1、2、3,4の内容
【セッション1】:つながる工場のネットワークによる企業間連携(延べ44社)
【セッション2】:IoT活用による新たな生産ラインマネジメント(延べ55社)
【セッション3】:設計、製造、そして顧客をつなぐプラットフォーム(延べ53社)
【セッション4】:IoTによる現場起点、人が中心のものづくり革新(延べ47社)

▼ 注9
提言1「つながる工場」、https://iv-i.org/articles/connectablefactory1.html

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