3GPPにおけるセルラーIoT (セルラーLPWA)の動向
一方、国際標準化団体の3GPPでは、セルラーIoTとして、図4に示すEC-GSM-IoT、NB-IoT、Cat-M1という3つの方式が標準化されたが、日本においては、GSMの流れを汲むEC-GSM-IoT注15はサービスされないので、ここでは省略する。
図4 3GPPにおけるIoT(セルラーIoT)の標準化
Rel:Release(リリース)のこと。Rel-12とはリリース12という意味
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
〔1〕LTEをベースにしたCat-1、Cat-0(20MHz幅を使用)
表2に示すように、歴史的に見ると3GPPでは、当初、最大20MHz幅をフルに使用するLTE仕様で最も低速な端末(UE:User Equipment)向けの仕様として、LTE Cat-1(LTEカテゴリー1)という端末仕様が規定(リリース8注16)された。さらに、LTEベースの低コストなIoTデバイス実現の検討が開始され、同じく最大20MHz幅を使用して、LTE端末をさらに簡素化した、単一のアンテナ受信、半二重通信(片方向通信)を可能とするLTE Cat-0(カテゴリー0)という端末仕様が標準化された(リリース12)。
表2 LTEベースIoT無線技術(セルラーIoT)の比較
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
〔2〕LTEをベースのCat-M1、NB-IoT
さらに、IoT時代の本格的な到来と、前述した非セルラー系の活発なLPWAの動きを背景に、3GPPでは、端末が使用する20MHz幅の周波数帯を大幅に縮小し(20MHzの1/100の200kHz幅や、1/10弱の1.4MHz幅に縮小)、低速で低価格、低消費電力で、しかもカバレッジ(通信範囲)も十分なセルラーIoT(CIoT:Celler IoT)仕様の検討が、MTC(エム・テーシー。Machine Type Communications、3GPPにおけるM2Mの表現)という名称で開始された。これは「LTE-M」とも呼ばれる。
このような流れの中で実現されたのが、表2に示す、LTEをベースにしたLTE Cat-M1(1.4MHz幅)、NB-IoT(200kHz幅)などの仕様である。
表2からわかるように、LTEベースのIoT対応規格は、
(1)LTEベースのCat-1、Cat-0の流れを汲むCat-M1(LTE-M)注17
(2)LTEベースのNB-IoT(狭帯域通信)
の2つの仕様が策定されたのである。
〔3〕Cat-M1は移動向け用途、NB-IoTは固定向け用途
(1)移動向け用途:Cat-M1
両者の違いを、図5に示す。Cat-M1は、旧Cat-1と多少重複するところもあるが、ある程度移動があるケースの規格であり、またデータ量が多い(表2に示す1Mbps程度)スマートグリッド管理や、リストバンドなどのウェアラブル端末による健康管理や医療・スポーツ分野、子供・高齢者などの追跡、環境モニタリングなどが想定されている。
図5 いろいろなLPWA技術とそのアプリケーション適用分野の例
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
(2)固定向け用途:NB-IoT
NB-IoTは、基本的に静止しているスマートメーター(電気メーター、ガスメーター、水道メーター)をはじめ、スマートシティの照明や廃棄物管理、農業やホームオートメーションなどの用途が想定されている。このNB-IoTは、図5に示すように、前述した非セルラー系のLPWAと競合あるいは共存する領域となっており、今後の展開が注目されている。
(3)Cat-M1とNB-IoTの端末用モジュール・コスト
図5に示すように、大量生産を前提としてCat-M1の端末用モジュールコストは10ドル/個(約1,000円/個)以下、NB-IoTは5ドル/個(約500円/個)以下になると見られている。
〔4〕すでに開始されているCat-M1、NB-IoTなどのフィールド試験
(1)エリクソンの例
現在、Cat-M1やNB-IoTのサービスはフィールド試験中であるが、エリクソンの場合は、基地局のソフトを変更するだけでCat-M1やNB-IoTに対応できる。現在、米国のAT&Tやベライゾン(Verizon)、北欧のテリアソネラ(TeliaSonera)、中国のチャイナモバイル(中国移動)などでフィールド試験が行われている。
また、KDDIは、エリクソンの3GPPリリース13に基づくCat-M1とNB-IoTの両方に対応するセルラーLPWA装置を使用して、セルラーLPWAテクノロジーの検証に成功したと発表している(2016年6月)注18。
(2)ファーウェイの例
中国のファーウェイ(HUAWEI、華為技術)は、NB-IoTに準じた世界初の商用チップ「Boudica」(ブーディカ。古代ケルトの女王の名に由来)をリリースした(2016年9月注19)。中国・深圳(しんせん)で、チャイナ・テレコム(中国電信)、深圳水務集団(深圳の水道会社)とともに、中国で初めてNB-IoTを活用した水道メーター(スマートメーター)の読み取りに関するフィールド試験を実施している。大規模な商用展開は、2017年となる見込みである。
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以上、セルラーIoT、非セルラーIoTの両面からLPWAの最新動向を見てきたが、後編は、セルラーLPWA(セルラーIoT)がどのようにして低価格・低消費電力を実現したのか、各国のCat-M1、NB-IoTの取り組みや今後の課題などを解説する。(次号に続く)
▼ 注15
EC-GSM-IoT:Extended Coverage GSM IoT、3GPPのリリース13で標準化されるGSM(2G)の通信距離を拡張(Extended Coverage)によるセルラーIoT向け規格。IoTサポートのためのGSM/EDGEネットワーク用規格。EDGEとはEnhanced Data rates for Global Evolutionの略で、GSMの拡張規格の意味。
▼ 注16
3GPPでは、標準技術仕様がグループ化されており、リリース(Release)と呼ばれる機能セット単位でリリース番号を付与(一定期間)して標準技術書を発行している(図4参照)。例えば、EC-GSM-IoT、NB-IoT、Cat-M1は、リリース13(2014〜2016年)で標準化され、基本的に新しいリリースは、古いリリースの機能を包含している。
▼ 注17
Cat-M1:Category M1。LTEベースのIoT端末向け無線技術という意味で「LTE-M」(LTE-Machine Type Communications)とも言われる。M1の「1」は、Cat-M1がCat-M2(バージョン2)へ進化する可能性を含めて、いわゆるバージョン1という意味である。
▼ 注18
http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2016/06/29/1885.html