[特集]

セルラー系LPWA ‘Cat-M1’と‘NB-IoT’を実現する要求条件と最新動向

2016/12/13
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

大量なデバイス同士がIoT通信を行うための、次世代無線通信規格「LPWA」(Low Power Wide Area、省電力型広域無線網)が普及しつつある。前編(本誌11月号)では「2つのLPWAの動向:非セルラー系とセルラー系」など全体像を解説したが、ここでは、特に「セルラー系LPWA:Cat-M1とNB-IoT」を実現する4つの要求条件や事例、国際動向、今後の展開などについて、エリクソン・ジャパン CTO 藤岡 雅宣氏への取材をもとに、解説する。

セルラー系IoT/非セルラー系IoTデバイスの出荷数予測

 前編(本誌11月号)では、セルラーIoTや非セルラーIoT対応デバイスから、タブレット、携帯電話、固定電話に至るまで、世界で通信接続されるデバイス数の推移を紹介した。また、2G/3G/4G(LTE)をはじめ、LPWAも含めた各種IoTデバイス接続数の推移についても紹介した。

 後編では、さらに具体化して、非セルラー系IoT(LPWA)デバイスの出荷数予測(図1)や、セルラー系IoT(LPWA)デバイスの出荷数予測(図2)を見てみよう。

図1 非セルラー系IoTデバイス出荷数予測(2016年6月時点)

図1 非セルラー系IoTデバイス出荷数予測(2016年6月時点)

出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日

図2 セルラー系IoT(LPWA)デバイス出荷数予測(2016年6月時点)

図2 セルラー系IoT(LPWA)デバイス出荷数予測(2016年6月時点)

出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日

〔1〕非セルラー系IoTデバイス出荷数予測

 図1は、2015年と6年後の2021年における非セルラー系IoTデバイスの出荷数の比較を示しているが、次のような特徴が見られる。

  1. 近距離無線通信(Bluetooth、ZigBeeなど)はこの期間に6.6倍に増加する。
  2. Ingenu(アンジェヌ)、LoRa、SIGFOXなどLPWAを含めると、非セルラー系IoTデバイス出荷数は10.9倍に増大する。
  3. 2021年には、ユーティリティ(電気、ガス、水道メーター)向けや産業向けが60%以上の出荷数となっており、2番手がスマートシティ分野となっている。

〔2〕セルラー系IoT(LPWA)デバイス出荷数予測

 図2は、セルラー系IoT(LPWA)デバイス出荷数について、前出の図1と同じく2015年と6年後の2021年の比較を示している。図2からは次のような特徴が見られる。

  1. レガシー(既存の2G/3G)は、2.4倍に増加する。
  2. LTEベースのCat-1(最大20MHz幅を使うカテゴリー1の端末仕様)が19.3倍に増加する。
  3. LTEベースのLPWAであるNB-IoTはCat-M(Cat-M1)の倍以上の伸びを示している。
  4. トータルで7.4倍に伸びる。自動車とユーティリティ(電気、ガス、水道メーター)/産業向けが、拮抗して大きなシェア(それぞれ25%程度)となっている。

〔3〕セルラー系LPWA:Cat-M1とNB-IoTのまとめ

 図3に、セルラー系LPWAであるCat-M1とNB-IoTの特徴を、それぞれ整理して示している。

図3 セルラー系LPWA:Cat-M1とNB-IoTの特徴のまとめ

図3 セルラー系LPWA:Cat-M1とNB-IoTの特徴のまとめ

UE:User Equipment、ユーザー端末  SW:Software  15dB:5.6倍、20dB:10倍
ベースバンド処理:無線基地局は通常、BBU(Base Band Unit、ベースバンド装置)とRRH(Remote Radio Head)によって構成される。RRHは、BBUから受信したベースバンド信号をRF(無線)信号に変換(処理)しUE(ユーザー端末)に送信する。
ベースバンド:無線通信などで、搬送波へ乗せる変調前の元の信号の帯域のこと
キャリア(Carrier):搬送波のことで、情報(信号)を搬送する(送る)ための電波の周波数帯のこと。例えば、Cat-M1であれば1.4MHz幅、NB-IoTであれば200kHz幅の無線リソースを意味する。また、NB-IoTで200kHzのキャリアを2つ使えば収容できるデバイス数は2倍になる。なお、「セル」とは、ここではこの「キャリア」と同義で使っている。
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日

 今後の検証が必要であるが、現状では、大きく分けて、

  1. NB-IoTは、ユーティリティ系(固定系:スマートメーターなど)向け用途
  2. CAT-M1(移動系)は、ウェアラブルやクルマ分野向け用途

と言われている。しかし今後の展開によって、その棲み分けは変化すると見られている。また、セルラー系と非セルラー系のLPWA市場は、ある分野では重複する場合もあるため、今後、激しい市場競争が発生することも予測されている(後述)。

〔4〕LTEベースのLPWAモジュールのコスト

 図4は、標準的なLTE端末〔最大20MHz幅使用の端末カテゴリー4(Cat-4)〕のモジュール価格を100%(35〜50ドル)とした場合の、Cat-M1およびNB-IoTモジュールの価格を示したものである。

図4 LTEベースのLPWAモジュールのコスト削減

図4 LTEベースのLPWAモジュールのコスト削減

出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日

 図4から、Cat-M1およびNB-IoTは、現状ではほぼCat-4モジュール価格の10〜20%程度の価格と見られているが、今後の市場展開によっては、さらに低価格化することも予想されている。

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