[[創刊4周年記念:特集2]台頭するIoT時代の次世代無線通信規格LPWAの全貌[前編]ー 「低価格」「省電力」「長距離通信」3つの壁を突き破るイノベーション ー]

IoT時代を迎えた無線通信規格のパラダイムシフト

2016/11/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

IoT時代に明確となった2つの市場セグメント

 IoT通信の応用分野は、図3に示すように、

(1)ミッションクリティカルIoTの分野(企業の基幹業務や重要通信向けIoT)

(2)大量(マッシブ)IoTの分野(センサーやスマートメーター向けIoT)

という2つのセグメント(分野)に大別され、利用するニーズが高まってきている。

図3 IoT応用の2つの市場セグメント

図3 IoT応用の2つの市場セグメント

キャピラリー(Capillary)ネットワーク:多くのセンサーなどが狭いエリアに張り巡らされて、セルラー接続を持つゲートウェイを介して広域ネットワークに接続される形態。キャピラリーとはもともと毛細血管の意味をもち、人体の血管のようなネットワークを意味する。
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日

 まず、企業などのミッションクリティカルIoTでは、多少コストがかかっても、高信頼性や低遅延、高アベイラビリティ(可用性注5)を重視したIoTシステムが求められる。

 一方、扱う情報量が少ない膨大な数のセンサーやスマートメーターなどを接続する環境においては、低価格かつ低消費電力(電池寿命10年以上)で、さらに通信距離も数km以上が可能となる大量IoT(LPWA)が求められるようになってきている。

〔1〕ライセンス帯とアンライセンス帯

 このような流れをもう少し詳しく見てみよう。

 現在、3GPPという国際標準化組織では、4G(LTE)の進化・発展と同時に5G(第5世代)の標準化が開始され進んでいる注6が、LPWAに関して、

(1)通信事業者に割り当てられた周波数帯を利用してモバイル通信サービスを提供するライセンス帯(免許必要帯)

(2)免許を必要としない周波数帯を利用してWi-Fiサービスなどを提供するアンライセンス帯(免許不要帯)

による通信の棲み分けを整理したものが図4である。

図4 ライセンス帯のLPWA(セルラーLPWA)と非ライセンス帯のLPWA

図4 ライセンス帯のLPWA(セルラーLPWA)と非ライセンス帯のLPWA

出所 Cellular Networks for Massive IoT(大量IoT向けのセルラーネットワーク)https://www.ericsson.com/res/docs/whitepapers/wp_iot.pdf

〔1〕ライセンス帯(免許必要帯)

 図4に示すライセンス帯では、従来のセルラー(モバイル)とセルラーLPWAの両者が共存(同一の基地局を使用)して提供されるようになる。具体的には、次の2つの領域となる。

①セルラー(2G/3G/4G)は、図4右の上部に位置する。

②セルラーLPWAは、セルラーIoTとも言われ、図4右の下部に示すEC-GSM-IoT、Cat-M1、NB-IoTなどが位置づけられる。

〔2〕アンライセンス帯(免許不要帯)

 アンライセンス帯(非セルラー系)は、従来の非セルラー(近距離無線通信)と非セルラーLPWAの両者が共存して提供されるようになる。具体的には、次の2つの領域となる。

①図4左下部の①に示す既存の非セルラー系には、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBee、Z-Waveほかがある。

②図4中央の②に示す非セルラーLPWAは、非セルラーIoTとも呼ばれ、SIGFOX、LoRa、IEEE 802.11ah注7などが位置づけられる。

 表1に、セルラー系LPWAと非セルラー系LPWAの特徴の比較を示す。

表1 セルラー系LPWAと非セルラー系LPWAの特徴の比較

表1 セルラー系LPWAと非セルラー系LPWAの特徴の比較

出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日

◎取材協力(敬称略)

藤岡 雅宣(ふじおか まさのぶ)

藤岡 雅宣(ふじおか まさのぶ)

現職:エリクソン・ジャパン株式会社CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)

1998年に日本エリクソン(現エリクソン・ジャパン)入社。IMT2000プロダクト・マネージメント部長や事業開発本部長として新規事業の開拓、新技術分野に関わる研究開発を総括。2005年2月より現職。エリクソン入社以前は、KDDにてネットワーク技術の研究や新規サービス用システムの開発を担当。

著書として『ISDN絵とき読本』『ワイヤレスブロードバンド教科書』『IMS入門』『ワイヤレス・ブロードバンドHSPA+/LTE/SAE 教科書』(いずれも共著)など。


▼ 注5
可用性(アベイラビリティ。Availability):ネットワークシステムなどの障害が発生しにくいように設計し、使用できる状態を長く維持できるようにする能力のこと。

▼ 注6
2015年9月に「3GPP Workshop on 5G」会合が開催され、3GPPにおける5Gの標準化が開始された。2020年の5Gサービス実現を目指して、3GPP Release 13、14、15、16(2019年)で順次、仕様化され、2019年に標準化を完了する予定。

▼ 注7
IEEE 802.11ahについては、カバレッジ(通信範囲)よりも通信速度を上げることに重点が置かれているため、LPWAに分類されないという見方もある。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...