各アライアンスの非セルラー系LPWAの動向
表1に、SIGFOX(仏)やLoRa(米国)、Ingenu(アンジェヌ、米国)、IEEE 802.11ahなど、IoT機器向けの低価格・低消費電力で長距離通信を実現する主な非セルラー系LPWA技術の比較を示す。
表1 主要な非セルラー系LPWA技術の比較
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
〔1〕SIGFOX
SIGFOXとは、フランスの新興企業「SIGFOX」(シグフォックス。創業2009年、本社はフランス南西部のラベージュ)が、IoT時代に向けて開発したUNB(Ultra Narrow Band、超狭帯域)と呼ばれる、100Hz幅というわずかな周波数帯を使用したLPWAで、2012年から100bps(上り)という超低速に特化したサービスを開始した注1。これは、「LPWA」(Low Power Wide Area、省電力型広域網)ネットワークのけん引役となった注目される規格である。
このSIGFOXにはNTTドコモも出資注2しているが、サブギガ帯の免許不要帯(アンライセンス帯。日本は920MHz帯注3)を使用して、すでに、フランスやスペイン全土を含む世界20カ国を超える国注4で商用サービスを開始している。
〔2〕LoRa
(1)LoRaアライアンス
また、LoRa(ローラ。Long Rangeの略)を推進するLoRaアライアンス(2015年1月設立、本部は米国カリフォルニア州)には、LoRaを開発したファブレス半導体メーカーである米セムテック(Semtech、1960年設立注5)をはじめ、IBM、ZTE(中国)、オレンジ(仏)、ブイグテレコム(仏)、オランダKPNなど約400社が参加して、LoRaWANと呼ばれるLoRa技術を利用した通信システムの仕様を策定している注6。
すでに、日本のLINEとも提携しているフランスのブイグテレコムをはじめ、10社を超える通信企業が、商用サービスを開始している。
図1に、LoRaWANの実際の導入事例として、フランスで最初に稼働(2015年3月)したブイグテレコム(Bouygues Telecom)の例を示す。
図1 LoRaWANの事例〔フランス・ブイグテレコム(Bouygues Telecom)〕
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日(原典 LoRa Alliance「Bouygues Telecom, 1st LoRa Network in France」、https://www.lora-alliance.org/News-Events/Event-Presentations)
(2)活発化する日本の動き
日本でも、LoRaWANの取り組みが活発化しているが、その主な動きを列挙する。
①日本でも積極的な展開を行う新興企業のM2Bコミュニケーションズ(2015年10月設立、東京都八王子市。以下、M2B。M2BとはMachine to Businessの意味)は、「LoRaWAN」を推進する「LoRaアライアンス」において、日本初のコントリビュータとして「LoRaWAN」の日本規格の策定に関わっている。
このM2Bは、IoT通信プラットフォームを提供するソラコム(SORACOM。2015年3月設立、東京都世田谷区)と戦略的業務提携(http://m2b.jp/news/)を行い、すでに「LoRaWAN」を利用したLPWAネットワークの実証実験を開始し、商用利用に向けた取り組みを進めている注7。
②M2Bと、システムインテグレーションやコンサルティングを行うウフル(uhuru。2006年2月設立、東京都港区)は、2016年9月、「LoRaWAN」を活用した独自ソリューションを共同開発することに合意した注8。その第1弾として、BeaconとLoRaWANを組み合わせた建物内の物品管理ソリューションの開発を開始している。
③NTT西日本は、IoT向けLPWAネットワークのフィールドトライアル(2016年6月29日〜2017年2月末日)をスタートさせており、LoRaWANを活用したIoTサービスに求められる機能、運用稼働などの検証や、IoTサービスの利用シーン創出とビジネス性の検証が行われている注9。
④ソフトバンクは、「LoRaWAN」を2016年度中に提供し、デバイスからアプリケーション、コンサルティングに至るまで、エンド・ツー・エンドでのIoTソリューションを提供開始すると発表した(2016年9月)注10。
〔3〕米国Ingenu(アンジェヌ)
また、IoT向けパブリックネットワークの構築を進める、米国Ingenu(アンジェヌ。旧On-Ramp Wireless注11)は、同社が開発した、IoT向け通信規格であるCDMA注12ベースのRPMA(Random Phase Multiple Access)方式のIoT向け通信規格を開発した。この規格は、電子レンジや電気メスに使われている産業科学医療用の周波数帯「ISMバンド」の2.4GHz帯を使用し、伝送速度が60bps〜3.8kbpsと超低速のLPWAであるが、通信距離は30㎞もカバーし、電池寿命も15〜20年と長い、ユニークなネットワークである。
すでにGEのスマートメーター(図2)に搭載されるなど広く普及しており、日本では同スマートメーターを使用した長谷工コーポレーションのマンション各戸の電力メーターの管理などに使用されている。
図2 Ingenu(アンジェヌ)によるGEのスマートグリッドソリューションの例:「Grid IQ AMI P2MP」ソリューションアーキテクチャ -AMI with Optional MDS Mercury Backhaul
P2MP:Point-to-Multipoint、1対多接続
AMI:Advanced Metering Infrastructure、スマートメーター用のネットワーク基盤
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日(原典 http://www.gegridsolutions.com/smartmetering/catalog/p2mp.htm)
〔4〕IEEE 802.11ah:HaLow(ヘイロー)
前出の表1に示すサブギガ帯(アンライセンス帯)を使用し、IoT分野をターゲットにしたIEEE 802.11ahもほぼ標準化を完了している(2016年11月完了予定)。このIEEE 802.11ahは、Wi-Fiアライアンスによってニックネームを「HaLow」(ヘイロー)注13と命名され、OFDM注14という変調方式を使用して、通信距離1km、伝送速度100kbps〜40Mbpsを実現している。従来のWi-Fiファミリーの用途の拡張であるセンサーやアクチュエータ向けネットワークとして、あるいはセンサーやスマートメーターなどから集まったデータを、基幹網(バックボーン網)に転送するバックホール回線(中継回線)などの用途が期待されている。
図3に、IEEE 802.11ahの例として、3バンドのアクセスポイントを用いた、家庭におけるセンサーネットワークと拡張された無線LANの例を示す。
図3 IEEE 802.11ahの事例:家庭におけるセンサーネットワークと拡張された無線LAN
出所 IEEE 802.11ah Benefits and Use Cases
http://www.comsocscv.org/docs/IEEE%20ComSoc_11ah_Opportunity_V6_0715.pdf
▼ 注1
https://www.sigfox.com/en/coverage
▼ 注2
https://www.nttdocomo-v.com/p1858/
▼ 注3
各国で使用できるサブギガ帯(アンライセンス帯)。
①日本:920MHz帯(915〜928MHz)、②北米:915MHz帯(902〜928MHz)、③欧州:866MHz帯(868〜870MHz)
▼ 注4
オーストラリア、ベルギー、ブラジル、コロンビア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、モーリシャス、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、オマーン、ポルトガル、シンガポール、スペイン、台湾、英国、米国など。
▼ 注5
Semtech(セムテック)は、2012年3月に無線長距離IPプロバイダ(Wireless Long Range IP Provider)であるCycleo(シークレオ)社を買収。「LoRaWAN」はこのCycleo社が開発した無線通信技術「LoRa」をベースにして開発された規格。
▼ 注6
LoRaWANは、Semtechの商標となっている。
▼ 注7
ソラコムは、M2Bと共同で、2016年7月13日からLoRaWANの実証実験キット「SORACOM LoRaWAN PoCキット」の販売を開始した。PoC(Proof of Concept、概念実証)とは、新しい概念や技術がビジネスに利用可能かどうかを、実際にデモを行い実証すること。https://soracom.jp/press/2016071302/
▼ 注8
http://uhuru.co.jp/information/20160921/
▼ 注9
https://www.ntt-west.co.jp/news/1606/160629a.html
https://www.ntt-west.co.jp/news/1606/160629a_2.html
▼ 注10
http://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2016/20160912_01/
▼ 注12
WCDMAなどの3Gモバイルに採用されている通信技術。
▼ 注13
HaLow(ヘイロー):月や太陽に雲が薄くかかった場合に、周囲に光の輪が現れる後光のような大気現象のこと。Wi-Fiの電波が広く伝わっていくイメージの表現。
▼ 注14
OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波数分割多重。直交とは、信号がお互いに干渉し合わないようにする仕組みで、これによって高速化を実現する。