[特集]

M2M/IoT時代に対応するWi-Fiファミリーの新規格「IEEE 802.11ah」(Wi-Fi HaLow)標準とそのユースケース

2016/12/13
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

省電力化を重視したIEEE 802.11ah規格の特徴

 これまで述べてきたように、IEEE 802.11ahは、センサーネットワークへの適用などを重視した、M2M/IoT時代に向けた新しいWi-Fiグループの規格であるため、省電力化や通信距離の拡張などに向けて新しい機能が開発され、規定されている。

 次に、その主な内容を列記する。

〔1〕互換性の必要がないこと

 前述したように、新しくサブギガ帯を使用するため、従来の2.4GHzや5GHzを使用する無線LAN(Wi-Fi)などとの互換性の必要がない。

〔2〕NDP Ackの追加

 通信においては、データを正常に受信したことを相手に伝えるAck(アック。Acknowledgement、確認応答)が必要となるが、従来の標準Ackに加えて、新規にNDP Ack(Null Data Packet Ack、パケットデータをもたないAck)が追加された。このNDP Ackは、送受信するフレーム(パケット)の内容を示すヘッダだけ(送受信データを乗せないで)で確認を行うため、送受信するデータ分だけフレームの長さが短くできる。これによって送受信の時間が短縮され、低消費電力化を可能としている。

〔3〕S1Gビーコンの追加

 無線LANでは、端末とアクセスポイント(AP)間の通信を制御するために、ビーコンという制御信号が定期的に送信されている。IEEE 802.11ahでは、従来のビーコンに加えて、特有のS1Gビーコン(S1G:Sub 1Giga)が追加され、省電力化と端末の送信機会の改善が図られている。

〔4〕TWT機能の追加

 M2M/IoT環境で動作する端末(デバイス)は、電池で駆動させる場合が多いため、連続的な稼働ではなく間欠的に稼働させるケースが多い。これをさらに省電力化するためには、端末を周期的に間欠作動させるのではなく、通信が必要なときだけ起動してAP(アクセスポイント)と通信するようにすれば、省電力化に加えて、周波数も効率的に利用ができる。このため、IEEE 802.11ahでは、TWA(Target Wake Time、ターゲット起動時間)という機能が追加された。

 このTWAは、APと端末間で、事前に通信するタイミングを設定して通信を行う機能である。

〔5〕新プロトコルバージョン

 前述したように、これまでの無線LAN規格では、相互の互換性を保つため、基本的に共通したフレーム構成となっており、すべて「プロトコルバージョン0」のMACフレームが使用されてきた。

 しかし、IEEE 802.11ahでは、サブギガ帯で動作するため従来の規格と互換性の必要がないことや、IEEE 802.11ah特有の短縮したMACフレームなどが追加されている。そのため、使用環境において、その両者(従来の無線LAN MACフレームとIEEE 802.11ah MACフレーム)の違いを明確にするため、初めて「プロトコルバージョン1」のMACフレームが追加され、体系化された。

〔6〕リレー(中継)機能

 無線通信環境では、家庭内やオフィス内などで、障害物などによってAP(アクセスポイント)と端末が見通し環境とならず「通信がしにくくなる」、あるいは伝搬損失のため信号電力が小さくなり「電波が受信しにくくなる」ケースがある。このような障害を除去するため、オプションとしてリレー(中継)機能が追加された。これによって、

端末⇒ リレー ⇒ AP

というように、リレー(中継器)を端末とAPの中間に設置して、信号を中継することによって、通信距離を短くして伝搬損失を防ぐことができるように改善された。

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