[特集]

M2M/IoT時代に対応するWi-Fiファミリーの新規格「IEEE 802.11ah」(Wi-Fi HaLow)標準とそのユースケース

2016/12/13
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

IEEE 802.11ah規格のプロフィール

 次に、IEEE 802.11ah規格(HaLow)の主なプロフィールを見てみよう。

〔1〕IEEE 802.11ah規格の主な仕様

 表2に、IEEE 802.11ah規格(HaLow)の主な仕様を示す。

表2 IEEE 802.11ah HaLow規格のプロフィール

表2 IEEE 802.11ah HaLow規格のプロフィール

出所 各種資料をもとに編集部作成

 IEEE 802.11ah規格は、6年前の2010年10月に、無線LANの標準化を推進するIEEE 802.11WG(ワーキンググループ)内に設立された作業グループ「TGah」(Task Group ah、作業グループah)で標準化の審議が開始され、2016年12月に、間もなく完了する予定注4である。

 表2に示すように、物理層における伝送速度は、150kbps〜4Mbps(チャネル帯域幅:1MHz時)、最大通信距離は1㎞、変調方式はOFDM(後述)である。MAC層注5には、CAMA/CA+RID注6が採用され、基地局(アクセスポイント)当たりの端末収容数は、最大8,191(センサー、ウェアラブルなどの端末)となっている注7

〔2〕IEEE 802.11ahとWi-SUNの違いと共存

 IEEE 802.11ahは、よくスマートメーター用の通信規格とし標準化されたIEEE 802.15.4g(SUN:Smart Utility Networks)と関連して語られることがあるので、表3で簡単に整理しておこう。

表3 IEEE 802.15.4g(SUN)とIEEE 802.11ah(HaLow)の違い

表3 IEEE 802.15.4g(SUN)とIEEE 802.11ah(HaLow)の違い

WECA:Wireless Ethernet Compatibility Alliance
出所 各種資料をもとに編集部作成

 2008年12月、IEEE 802.15WG注8内にTG 4gが設置され、審議が開始された。これは、ZigBeeなどに使用されている2.4GHz帯を使用する近距離無線通信規格「IEEE 802.15.4」(通信距離100m、伝送速度250kbps)をベースに、サブギガ帯(日本は920MHz帯)を使用し、広く屋外でも使用可能な無線通信規格を目指したものである。このTG 4gは、IEEE 802.15.4g(SUN)規格注9を2012年3月に完了したが、変調方式としてFSK注10方式を必須実装とし、OFDM方式やQPSK方式などをオプションとして採用した。

 このような背景から、TG 4gでOFDM方式を推進したグループは、「IEEE 802.15WG」とは異なる無線LANの標準化を推進する「IEEE 802.11WG」に、改めてM2M/IoT向けに、よりマルチパス環境注11にも強いOFDM方式を、オプションではなく必須の変調方式とすることを目指してTG ahを設立(2010年10月)した。その審議に際しては、IEEE 802.15.4g(SUN)の標準化スコープをベースにしていることもあったことから、IEEE 802.15.4gと競合するのではなく「共存無線通信システム」とすることが、IEEE 802.11ah規格の要求仕様項目となった。

〔3〕802.11acの信号生成回路を有効活用

 一方、前出の表1に示すように、当時IEEE 802.11WGのTGacでは、OFDMを採用した超高速なIEEE 802.11ac〔5GHz帯、伝送速度:ストリーム当たり867Mbps(80MHz幅)〕の標準化が推進されていた(標準化は2013年12月完了)。

 そこでTGah(IEEE 802.11ah)では、このIEEE 802.11acの動作周波数(表1に示す20MHz幅、40MHz幅、80MHz幅、160MHz幅)を10分の1にダウンクロッキング(動作周波数を下げること注12)し、IEEE 802.11ah規格に採用することになった。これによって802.11acで開発された信号生成回路を、ほとんどそのままIEEE 802.11ahに使えるなど有効活用することができ、回路技術の開発期間も短縮されたのである。


▼ 注4
September 2016, Warsaw, Poland。IEEE 802.11ah Timeline Projection

▼ 注5
MAC層:Medium Access Control Layer、媒体アクセス制御層。端末が空間に飛び交う電波〔キャリア(媒体)。伝送路〕にどのようなタイミングで信号を送信する(アクセスする)か等を制御する層で、無線LANではCAMA/CA方式が使用されている。CAMA/CAとはCarrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance(搬送波感知多元接続/衝突回避方式)の略。
CAMA/CAではキャリアセンスを行うため、NAV〔Network Alocation Vector、フレームの送信期間(仮想キャリアセンス)〕が設けられている。IEEE 802.11ahでは、これに加えて第2の仮想キャリアセンスであるRID(Response Indication Deferral)が用意された。

▼ 注6
RID:Response Indication Deferral、第2の仮想キャリアセンス

▼ 注7
従来のWi-Fi規格では、基地局当たり最大2,007ノードである。

▼ 注8
IEEE 802.15WG:以前の名称は「Wireless Personal Area Network (WPAN) Working Group」(近距離無線通信ネットワーク・ワーキンググループ)であった。
現在もカバータイトルは同じであるが、そこをクリックすると、最近は「Working Group for Wireless Specialty Networks (WSN)」(無線専門ネットワーク・ワーキンググループ)と名称を変更している。

▼ 注9
IEEE 802.15.4g(SUN)規格:Wi-SUNアライアンスが推進。通信距離:1km、伝送速度:1Mbps。

▼ 注10
FSK:Frequency Shift Keying、周波数変調。電波の周波数(搬送波:キャリア)にデジタル信号を乗せて送受信する方式

▼ 注11
マルチパス:送信側(例:パソコン)から送出される電波は、直進したり、ビルなどに反射したりしていろいろな経路を経て、相手方の受信機に到達する。この「いろいろな経路」のことを「マルチパス」(Multipath)と言う。このため、あるパソコンから発した電波は受信側に複数届いてしまうことになり、通信障害の原因の1つになる。

▼ 注12
ダウンクロッキング(Down Clocking):ここでは、IEEE 802.11acの動作周波数を2MHz幅、4MHz幅、8MHz幅、16MHz幅に下げて利用すること。日本で使用可能な1MHz幅は追加された仕様となった。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...