IEEE 802.11ah準拠の半導体チップや評価ボードも登場
このような動きを背景に、IEEE 802.11ahを推進する企業から、IEEE 802.11ah準拠の半導体チップや評価ボードなども発表され、IEEE 802.11ahが実用期を迎えてきていることをうかがわせる(いずれもドラフト5.0対応)。
次に、Newracom(ニューラコム)とIMEC(アイメック)の例を簡単に紹介する。
〔1〕Newracom:IEEE 802.11ah準拠のトランシーバ等
M2M/IoT通信に関するエレクトロクス企業「Newracom Inc」(本部:米国カリフォルニア)は、韓国のETRI注15の研究員・技術者らによって、2014年設立された新進気鋭のスタートアップ企業である。また、IEEE 802.11ahを推進するTGah(Task Group ah)の議長を務めるなど、IEEE 802.11ahに関するリーダー的企業でもある。
Newracomは、すでに、後述する(1)〜(3)に示すような、IEEE 802.11ah準拠のサブギガ帯をサポートする関連製品を発表している。具体的には、伝送速度2Mbpsの半導体チップをはじめ、ベースバンドプロセッサやトランシーバ(無線信号の送受信機)などの製品であり、8,191個/基地局のデバイス接続も可能になっている注16。
- NRC7191:IEEE 802.11ah RF/Baseband/CPU 40nm LP-CMOS SoC
- NRC7271:IEEE 802.11ah AP Baseband/MAC IP
- NRC7141:Sub 1GHz 40nm LP-CMOS RF Transceiver
〔2〕IMEC:IEEE 802.11ah 評価ボード等
一方、ベルギーのルーヴェン市に本部を置く独立系半導体・エレクトロニクス研究機関であるIMEC注17(アイメック)は、IEEE 802.11ah HaLow対応のULPWIFI RADIOチップ「TSMC 40NM CMOS」を搭載したIEEE 802.11ah評価ボード(図4)を発表している。
図4 IMECの802.11ah評価ボード(ULPWIFI IEEE 802.11ah radio)の回路構成と外観
出所 http://www2.imec.be/content/user/File/Brochures/ip2016/7_ULP%20WIFI%20RADIO_mail.pdf
TSMC 40NM CMOSの主な仕様は、次のとおりである。
- チャネル帯域幅:1MHz/2MHz
- 変調方式:OFDM BPSK、QPSK & QAM16
- 伝送速度(PHY):150kbps〜3.9Mbps PHY data rates
- 周波数帯域:863〜930MHz
2017〜2018年にIEEE 802.11ah準拠の製品
以上、間もなく標準化が完了するWi-Fi HaLowのベースとなっているIEEE 802.11ah規格の概要を見てきた。今後、この規格を普及させていくうえでは、利用するサブギガ帯である920MHz帯の国際的な制度の整備、および日本における法制度の整備なども求められている。
2017〜2018年にかけて、これらのチップやモジュールが搭載された、IEEE 802.11ah規格対応製品が登場すると見られている。これらの製品が相互接続を保証され、セキュリティ機能を強化して、M2M/IoT時代のLPWA市場を加速させていくことに期待したい。
◎取材協力(敬称略)
島田修作(しまだ しゅうさく)
シュビキスト・テクノロジーズ・ギルド代表
1975年電通大卒業。横河電機で、多目的計測用LSI、高速AD変換LSI、デジタルオシロ、μ波サンプリングシステム、通信ネットワーク試験装置の開発に従事。その後、IEEE 802.15、IEEE 802.11などの無線標準化と920MHz帯の利用制度の整備に注力し、現在、シュビキスト・テクノロジーズ・ギルド代表。
無線技術、その産業分野応用、世界各国の無線規制の戦略コンサルタント。IEEE 802.11ahの国内導入と普及に向け、Wi-Fi Allianceほかでも活動中。
▼ 注15
ETRI:Electronics and Telecommunications Research Institute、韓国電子通信研究所
▼ 注16
http://newracom.com/products/
▼ 注17
IMEC:Interuniversity Microelectronics Centre、アイメック。日本からの参加企業も多い。