LoRa/LoRaWAN誕生の背景とそのプロフィール
〔1〕LoRaとLoRaWANの違い
まず、誤解のないように「LoRa」と「LoRaWAN」の違いをLoRaアライアンスの定義に従って、明確にしておこう。
(1)LoRaは「変調方式」のこと
LoRaとは、Long Range(長距離通信)の略であり、正確には「変調方式」(Long Range modulation technique)を指す用語である。歴史的には、フランスのグルノーブルにある無線長距離IPプロバイダ(Wireless Long Range IP Provider)であるCycleo(シークレオ)社を、米国のファブレス半導体ベンダであるSemtech(セムテック)注2が買収(2012年3月)したことが始まりである(現在、LoRaというと「LoRa変調」のことを指すが、LoRaWANの意味で使用されているケースもある)。
このLoRa変調は、SemtechがCSS(Chirp Spread Spectrum)注3という変調方式をベースに開発した変調方式である(後述)。
(2)LoRaWANは「通信システム規格」
一方、LoRaWAN(LoRaWide Area Network)とは、このLoRa変調をベースにして、Semtechなどが開発した「通信システム規格」である。通信距離が長く広域的に利用できることから、WAN(Wide Area Network、広域通信網)という名称が付けられている。
図2に、LoRaWANシステムの通信範囲(LoRaWANデバイス〜LoRaWANネットワークサーバ)の規定を示す。なお、「LoRaWAN」という名称はSemtechの商標となっている。
図2 LoRaWANシステムの通信区間の定義
出所 M2Bコミュニケーションズ「日本でのLoRaWANの展開」、2016年10月
〔2〕LoRaアライアンスのプロフィールと最新動向
2015年2月、IoTソリューションベンダであるシスコやIBM、Semtechをはじめ、通信事業者(テレコムオペレータ)である、フランスのブイグテレコム、オランダのKPN、シンガポールのSingTelなどによって、LoRaアライアンス(表2)が設立され、現在、約400社が会員となっている(2016年12月)注4。
表2 LoRaアライアンスのプロフィール(敬称略)
出所 各資料をもとに編集部作成
また、このLoRaWANシステムは、2016年9月現在、すでに40カ国以上に導入され稼働しており、LPWA時代が加速して進展していることが見て取れる。
〔3〕M2BがLoRaWANの日本規格作成へ
このような動きをとらえた(株)エイビット(ABIT。1986年設立。東京都八王子市)は、2015年10月にM2Bコミュニケーションズ(略称:M2B。前身はM2B通信企画)を立ち上げた(表3)。同社は、日本企業としては早くからLoRaアライアンスに参加していたこともあり、LoRaアライアンスにおいて日本初のコントリビュータ注5としてLoRaWANの日本規格策定に関与している。
現在、M2Bは、LoRaWANによるIoTプラットフォームの提供および製品開発を、積極的に展開している。
▼ 注2
Semtech:Semtech Corporation。本社:米国カリフォルニア、1960年設立。現在14カ国に31オフィスを設置している。
▼ 注3
CSS:Chirp Spread Spectrum。チャープ周波数拡散変調方式。Semtechの「AN1200.22 LoRa Modulation Basics Revision 2」(2015年5月)によれば、CSSは、周波数ホッピング(FHSS。Bluetoothで採用)方式と直接拡散方式(DSSS。無線LANのIEEE 802.11bで採用)の両方の特長を取り入れた、低速で長距離通信ができる変調方式となっている。
▼ 注4
https://www.lora-alliance.org/kbdetail/Contenttype/ArticleDet/moduleId/583/Aid/9/PR/PR