[特集]

「最新バージョン1.0.2」に基づくLoRaWANのプロトコル構成とケーススタディ

― いよいよ日本でもLPWA「LoRaWANサービス」が開始へ ―
2017/01/06
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

LoRaWAN(通信システム規格)仕様とそのプロフィール

 国際的にLPWAへの関心が高まるなか、LoRaアライアンスは、2016年11月15日に、LoRaWAN仕様バージョン1.0.2(全70頁)とLoRaWANリージョナルパラメータバージョン1.0(全45頁)という、2つの重要なドキュメントを公開した注6

 その内容を要約すると、表4のようになる。

表4 LoRaWAN(通信システム規格)の内容

表4 LoRaWAN(通信システム規格)の内容

FSK:Frequency Shift Keying、周波数変調方式
出所 各種資料をもとに編集部作成

〔1〕LoRaWANのプロトコル構成

 LoRaアライアンスが今回公開した、「LoRaWAN仕様:バージョン1.0.2」における、LoRaWANのプロトコル構成図を図3に示す。

図3 LoRaWANのプロトコル構成

図3 LoRaWANのプロトコル構成

LoRa仕様のFigure 1: LoRaWAN Classes
出所 LoRaWAN Specification V1.0.2

 図3に示す最上位のアプリケーションは、各ユーザー(あるいはベンダ)が必要に応じて開発するものである。例えば、電力・ガス・水道スマートメーター管理、街灯コントロール、駐車スペース管理などである。

 また、図3の最下位の物理層に位置する、LoRaWANが通信に利用可能な、各国・地域の電波の周波数帯(ISMバンド)は、LoRaアライアンスが2016年7月に策定し、同年11月15日に公開した、「LoRaWAN Regional Parameters:バージョン 1.0」に掲載されている。これをまとめたものを表5に示す。

表5 LoRaWANで利用できる各国・地域の周波数帯〔LoRa Alliance、Regional Parameters Version: V1.0(2016年11月公開)〕

表5 LoRaWANで利用できる各国・地域の周波数帯〔LoRa Alliance、Regional Parameters Version: V1.0(2016年11月公開)〕

ISMバンド:Industry-Science-Medical band、産業科学医療用の周波数帯(バンド)。ITU(国際電気通信連合)によって、電波を無線通信以外の産業・科学・医療に高周波エネルギー源(電子レンジや無線LAN、医療用電気メス等)として利用するために割り当てられた周波数帯
SRRC :State Radio Regulatory Commission、中国の無線管理局
日本の920MHz帯:ARIB STD-T108で規定されている。
出所 https://www.lora-alliance.org/kbdetail/Contenttype/ArticleDet/moduleId/583/Aid/141/PR/PR の「Download」部分に所定の項目を記入するとダウンロードができる。

 図3に示したLoRaWANのプロトコル構成においては、

(1)物理層におけるLoRa変調(LoRa Modulation)

(2)MAC層におけるLoRa MAC

の2つが重要なプロトコルとなる。

〔2〕LoRaWANの物理層①:変調方式

 LoRaWAN仕様バージョン1.0.2を見ると、LoRaの変調方式として、地域によって、LoRa変調とFSK(GFSK)変調注7が利用可能であり、データ伝送速度は、変調方式や各国の規制などによって異なるが、基本的に0.3k〜50kbpsとなっている。

 LoRa変調方式は、前述したように、LoRaWANの商標をもつSemtechが開発した方式で、CSSという変調方式をベースに開発されたものである。このCSS変調方式は、1940年代にレーダーアプリケーション向けに開発された変調方式であるが、伝送速度は遅いものの、送信電力が少なくて済む(低消費電力)ことや、他の通信からの干渉に対する耐性(ロバスト性)をもっていたことから、多数のデータ通信アプリケーションで使用されてきた。

〔3〕LoRaWANの物理層②:伝送速度

 伝送速度については、LoRaWAN仕様バージョン1.0.2では「FSK Bitrate またはLoRa DR/Bitrate」(DR:Data Rate)という表現で、各国・各地域の伝送速度が規定されている。

 例えば、チャネル帯域幅について「125MHz幅あるいは250MHz幅」を使用して出せる最大の伝送速度は、次の通りである。

(1)欧州(863〜870MHz帯)や中国(779〜787MHz)の場合

 LoRa変調における最大伝送速度は11kbpsであるが、FSK変調を用いると最大50kbpsまで可能となっている。

(2)米国(902〜928MHz)の場合

 LoRa変調における伝送速度は最大21.9kbpsである。FSK変調についてはFCC(米国連邦通信委員会)から規制されていて使用できないため、LoRaWANでも米国ではFSKは規定されていない。

(3)日本などを含むアジア-パシフィック(923MHzISMバンド)の場合

 (1)の欧州の例と同じように、LoRa変調における最大伝送速度は11kbpsであるが、FSK変調を用いると最大50kbpsまで可能となっている。

 以上は一例であるが、各国・地域の伝送速度についての詳細は、前述した「LoRaWAN Regional Parameters:バージョン 1.0」を参照することをお勧めする。

〔4〕LoRaWANのMAC層プロトコル構成:LoRa MAC

 次に、前述した図3に示すLoRaWANの3つのMAC層プロトコルを見てみよう。

(1)3つのMAC層プロトコルの役割

 MAC(Medium Access Control、媒体アクセス制御)とは、デバイス(例:センサー)がどのようなタイミングで、空間(媒体)に送信データ(スロット)を送出するか、あるいは空間から受信データ(スロット)を受信するかを制御する機能をもつ重要な層である。

 LoRaWANの場合、前出の図3に示すように、必須となるクラスAとオプションとなるクラスB、クラスCの3つのプロトコルが規定されている(表6)。

表6 LoRaWANのMAC層におけるクラスA、クラスB、クラスCの機能

表6 LoRaWANのMAC層におけるクラスA、クラスB、クラスCの機能

出所 “LoRaWAN仕様:バージョン1.0.2”をもとに編集部作成

(2)クラスA(必須)の送受信のメカニズム

 クラスA(表6参照)は、省電力型のエンドデバイス(例:センサー)向けの通信が考慮されており、エンドデバイスが送信スロットを1回送信する(Transmit)と、その後に短い2つの受信スロット(RX1、RX2。RX:Receive)を受信するという組み合わせになっている(図4)。

図4 エンドデバイス(例:センサー)のスロットの送信と受信のタイミング

図4 エンドデバイス(例:センサー)のスロットの送信と受信のタイミング

出所 LoRaWAN Specification V1.0.2

 送信と受信のタイミングは、時間軸の乱数ベース(Random Time Base、ALOHA-type of protocol注8)で決定される仕組みとなっている。ただし、図4に示すように、受信スロットは送信スロットを送出した直後だけの期間に設定されており、常時、受信スロットが受信できるような仕組みにはなっていない。


▼ 注6
https://www.lora-alliance.org/kbdetail/Contenttype/ArticleDet/moduleId/583/Aid/141/PR/PR

▼ 注7
FSK:Frequency Shift Keying、周波数変調方式
GFSK:Gaussian Frequency Shift Keying、ガウス周波数変調。FSKで使用する帯域幅をさらに狭くして効率的なデータ伝送を行う方式。Bluetoothで採用されている方式

▼ 注8
ALOHA-type of protocol :ALOHAタイプのプロトコル。有名なALOHAネットワーク(ALOHAnet)は、ハワイ大学の エイブラムソン博士(Norman Abramson) らによって1970年に開発された無線ネットワーク。LoRaWANの乱数ベースは、このALOHAネットワークのプロトコルを基本としている。このALOHAネットワークのプロトコルは、EthernetやWi-Fi(無線LAN)などの基盤プロトコルともなった。

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