[特別レポート]

エッジ・コンピューティングを加速するクアルコムのIoTプラットフォーム戦略

― 世界初の30億個のトランジスタを搭載したSnapdragon 835を核に ―
2017/10/17
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

IoTを加速させるSnapdragon 385

〔1〕世界初! 30億個のトランジスタを集積

 Snapdragon 835は、表1に示すように、サムスン電子の10nm FinFET(フィンフェット)という、超微細な10nm(10ナノメータ)の製造プロセス注7と立体構造化によって、世界初の30億個のトランジスタを集積することに成功した。

表1 Snapdragonシリーズの最上位「Snapdragon 835」の主な仕様

表1 Snapdragonシリーズの最上位「Snapdragon 835」の主な仕様

「Kryo 280」(クライオ280):2016年11月にSnapdragon 835チップセットとともに発表された自社開発の新世代マイクロアーキテクチャ〔プロセッサの構造(回路の設計)を定めたもの〕。CPUはQualcommが開発した「Kryo 280」を搭載しており、最大2.45GHz駆動のパフォーマンスコア(4コア)と最大1.9GHz駆動の高効率コア(4コア)の計8コア(オクタコア)で構成される。
出所 https://www.qualcomm.com/products/snapdragon/processors/comparison

〔2〕Snapdragon 835の代表的な要素と集積されている回路例

 Snapdragon 835に集積された30億個のトランジスタには、前出の図1に示す多彩な各種の機能(要素)が搭載されたSoCとなっている。例えば、図1に示すSnapdragon 835の代表的な要素の機能例として、

  1. 4G/LTE:Qualcomm Snapdragon X16 LTEモデム
    〔下り:最大1Gbps (LTEカテゴリ16)、上り:最大150Mbps (LTEカテゴリ13)〕
  2. Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n〜IEEE 802.11ac(最大:867Mbps)
    〔使用周波数帯:2.4 GHz、5 GHz 、60 GHz〕
  3. ビデオ処理:画像コーデック:H.264(AVC)、H.265(HEVC)
  4. ディスプレイ処理:4K超高精細画面(HD:High Definition)

などの多彩な回路が、30億個のトランジスタ中に集積され組み込まれている注8

 このような高機能をもつSnapdragon 835は、ハイエンド向けスマートフォンとして、すでにサムスン電子の「Galaxy S」シリーズの2017年モデル「Galaxy S8」と「Galaxy S8+ (Plus)」を皮切りに、2017年夏モデル機種(Android 7.1搭載)として、NTTドコモからソニーモバイルコミュニケーションズ製「Xperia XZ Premium SO-04J」、KDDI auからシャープ製「AQUOS R SHV39」、ソフトバンク:シャープ製「AQUOS R」などに搭載され、発売されている。

SnapdragonでIoTを加速させる体制

 クアルコムでは、今後、IoT市場に新規参入する、IoTデバイス(スマートデバイス)開発の経験のない企業が、多種多様な製品開発を容易に行えるように、製品開発のサポート体制を提供している注9

 具体的には、図2に示すような体制である。特にリファレンス・デザインは、IoT製品開発を行ううえで具体的に参照(リファレンス)できる設計図のようなものであり、短期的に製品を開発し商用化するうえで重要な要素となっている。

図2 IoTの製品化を加速する体制

図2 IoTの製品化を加速する体制

出所 Qualcomm:「SnapdragonをIoTへ〜IoTの製品化を加速〜」、2017年8月24日

 すでに、表2に示すように、クアルコムのプラットフォームによるウェアラブルからIPカメラ、ドローン、VR開発キット〔最新のSnapdragon 835(APQ8098)を使用〕など、個別のIoTデバイスに対応した25種類以上のリファレンス・デザイン・プラットフォームが提供されている。

表2 クアルコムのプラットフォームを使用したIoT製品の例

表2 クアルコムのプラットフォームを使用したIoT製品の例

CSRMesh:英国のCSR社が2014年に発表した、Bluetooth Smartプロトコルを使用したメッシュネットワークに接続された無数のIoT機器(例:LEDランプや家電機器等)を、スマートフォン(Bluetooth Smart機能搭載)などから制御できるようにする技術。
出所 Qualcomm:「SnapdragonをIoTへ〜IoTの製品化を加速〜」、2017年8月24日


▼ 注7
製造プロセス:半導体の製造工程のことで、製造する半導体回路を作成する際の線幅を指す。半導体の回路線幅が微細であるほど(細いほど)半導体チップの集積度を向上でき、小型化や速度の向上が実現しやすくなる。製造プロセスは、半導体の性能レベルの目安の1つとなっている。
10nmとは、人間の髪の毛の太さ(直径約70μm=70,000nm)の7,000分の1という驚異的な細さの線幅となる。原子の大きさは0.1nmである(nm:ナノメートルは10億分の1メートル)。

▼ 注8
詳細参照

▼ 注9
モバイル業界においては、開発力があるため、Snapdragonチップセット(モデム)のみを提供し、そのメーカーが独自に機器を開発し発売する仕組みとなっている。

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