5Gにおける1msの掛け声
〔1〕強くアピールされた「低遅延」
5G注3の特徴は、従来とは桁違いの「広帯域」「低遅延」「接続数」にある。具体的には、10Gbps以上の伝送速度、エンドツーエンド(端末間)で数ミリ秒(ms)レベルの遅延、1平方キロメートル(km2)あたり100万個以上の端末(デバイス)を同時接続することが可能(4Gの10倍以上)、と謳われている。
なかでも筆者がこの半年ほどで強くアピールされるようになったと感じているのは、その遅延注4の短さだ。5Gそのものは、2016年にはすでにCES注5やMWC注6などでデモが行われるようになっていたが、特に2018年に入って、エンドツーエンドでの低遅延を実現するために必要となる、無線区間での1msという数字が強調されるようになった。
この遅延に関する強いアピールとして、筆者が直接見た最初の例は2018年1月のCES 2018だ。1年前のCES 2017でも5Gについては多くのブースが取り上げていた。しかしそこでは、主に帯域が広がる(伝送速度が高速になる)ことが前面に出されており、遅延についてはあまり取り上げられていなかった。ところが、CES 2018では、5G関連のプログラムはどれも1msという低遅延を大きく前面に押し出していた。
〔2〕CES 2018のキーノートセッションでも強調された「低遅延」
CES 2018におけるキーノートのセッションの1つでは、“Mobile Innovation: How 5G will Enable the Future”(モバイルイノベーション:5Gはどのように未来を可能にするか)を掲げていた(写真1)。
写真1 CES 2018での5Gに関するパネル(キーノートセッション)
出所 筆者撮影
パネリストは、クアルコム(Qualcomm)社長 クリスティアーノ・R.アモン(Cristiano R. Amon)氏、ベライゾン(Verizon)のCEO ハンス・ベストバーグ(Hans Vestberg)氏、中国バイドゥ(Baidu、百度)のチー・リュウ博士(Dr. Qi Lu)であった。前2者は当事者である通信半導体・通信キャリア系の企業である。バイドゥはユーザー、つまり自動運転・AIなどの応用側の企業であるが、実は中国の大手モバイル通信キャリアであるチャイナ・ユニコム(China Unicom)の最大出資者でもある。
ここでベストバーグ氏は、ストレートに「今までの2、3、4Gへの変化は帯域だったが、5Gはそれだけでなく遅延とセキュリティだ」と発言し、リュウ博士は、自動運転などミッション・クリティカル(高い信頼性や耐障害性が要求される技術分野)でリアルタイム性を要求する用途にも5G(つまり無線接続)が用いられる、と語った。
アモン氏も「5Gで遅延が短くなれば、アプリケーションのデザインが変わる」とアピールした。同氏は、これとは別のクアルコム自身のプレスコンファレンスにおいて、「低遅延にデータが得られれば携帯電話は(大きな)ストレージをもたなくてよくなる」と、わかりやすい例を挙げて説明していた(写真2)。もちろん、これは携帯電話に内蔵されたフラッシュメモリ注7の搭載容量に限定される話ではなく、ありとあらゆるデバイスがクラウドベースになることを意味している。
写真2 CES 2018でのクアルコムのプレスコンファレンスで語るR.アモン(Cristiano R. Amon)氏
出所 筆者撮影
ここで、この5Gキーノートセッションのモデレータ(司会)のスー・マレック(Sue Marek)氏が、SDN注8(Software Defined Network)専門メディアであるSDxCentral注9の編集長であることに注目したい。つまり5Gは、SDN技術と強く結びついているのだ。これについては後述する。
▼ 注1
間欠通信:音声や映像のデータのように連続的にデータを送る通信方式ではなく、低消費電力を実現するために、必要なデータを必要なときにのみ送信する(間欠的に送信する)ような通信方式。
▼ 注2
例えばSORACOMやsakura.ioなどのサービス。
▼ 注3
2018年6月14日、5G Phase 1の仕様標準化が完了した。
▼ 注4
A端末から発したデータが、B端末に到着するためにかかる片方向通信の時間。A端末(エンド)からネットワークを経由してB端末(エンド)に届く時間のため、エンドツーエンド(端末間)通信と言われる。
▼ 注5
CES:Consumer Electronics Show、世界最大規模の家電関連技術の見本市。毎年1月に米国ラスベガスで開催される。
▼ 注6
MWC:Mobile World Congress、世界最大規模の携帯電話関連技術の見本市。毎年2月または3月に、スペインのバルセロナで開催される。
▼ 注7
フラッシュメモリ:端末の電源をオフにしてもデータが保存される、データの書き換え可能な半導体メモリ(不揮発性メモリ)の一種。
▼ 注8
SDN:Software Defined Network、ネットワーク機器をオペレータの手作業ではなくソフトウェアによる操作で行うことで、自動化や全体最適化を行う運用管理技術。