[特別レポート]

5G時代に実現されるエッジ・コンピューティングとIoTシステム

― エッジ・クラウドへAT&T、マイクロソフトも参戦 ―
2018/08/01
(水)
安田 豊 京都産業大学 情報理工学部 准教授

IoTは、その発展によってビジネスや生活が大きく変わると期待され、注目されている。しかし、実際にIoTに用いるさまざまな機器群を各所に大量に設置するのは容易ではない。そのため、実用化されたIoTプラットフォームとしては、3G/LTE網などを使い、少量の通信量でかつ間欠通信(注1)を前提とするサービスが提供され、普及してきている(注2)。
しかし、IoTが本来の力を発揮してビジネスや生活を変えるには、エッジ・コンピューティングを含めたIoT環境の実現が必要である。この突破口になりうるものが、5Gを用いた新しい通信サービスのために登場してきたエッジ・クラウド(小規模クラウドシステム)である。ここでは、5G技術の立ち上がりとIoTのためのエッジ・コンピューティングの将来について展望する。

5Gにおける1msの掛け声

〔1〕強くアピールされた「低遅延」

 5G注3の特徴は、従来とは桁違いの「広帯域」「低遅延」「接続数」にある。具体的には、10Gbps以上の伝送速度、エンドツーエンド(端末間)で数ミリ秒(ms)レベルの遅延、1平方キロメートル(km2)あたり100万個以上の端末(デバイス)を同時接続することが可能(4Gの10倍以上)、と謳われている。

 なかでも筆者がこの半年ほどで強くアピールされるようになったと感じているのは、その遅延注4の短さだ。5Gそのものは、2016年にはすでにCES注5やMWC注6などでデモが行われるようになっていたが、特に2018年に入って、エンドツーエンドでの低遅延を実現するために必要となる、無線区間での1msという数字が強調されるようになった。

 この遅延に関する強いアピールとして、筆者が直接見た最初の例は2018年1月のCES 2018だ。1年前のCES 2017でも5Gについては多くのブースが取り上げていた。しかしそこでは、主に帯域が広がる(伝送速度が高速になる)ことが前面に出されており、遅延についてはあまり取り上げられていなかった。ところが、CES 2018では、5G関連のプログラムはどれも1msという低遅延を大きく前面に押し出していた。

〔2〕CES 2018のキーノートセッションでも強調された「低遅延」

 CES 2018におけるキーノートのセッションの1つでは、“Mobile Innovation: How 5G will Enable the Future”(モバイルイノベーション:5Gはどのように未来を可能にするか)を掲げていた(写真1)。

写真1 CES 2018での5Gに関するパネル(キーノートセッション)

写真1 CES 2018での5Gに関するパネル(キーノートセッション)

出所 筆者撮影

 パネリストは、クアルコム(Qualcomm)社長 クリスティアーノ・R.アモン(Cristiano R. Amon)氏、ベライゾン(Verizon)のCEO ハンス・ベストバーグ(Hans Vestberg)氏、中国バイドゥ(Baidu、百度)のチー・リュウ博士(Dr. Qi Lu)であった。前2者は当事者である通信半導体・通信キャリア系の企業である。バイドゥはユーザー、つまり自動運転・AIなどの応用側の企業であるが、実は中国の大手モバイル通信キャリアであるチャイナ・ユニコム(China Unicom)の最大出資者でもある。

 ここでベストバーグ氏は、ストレートに「今までの2、3、4Gへの変化は帯域だったが、5Gはそれだけでなく遅延とセキュリティだ」と発言し、リュウ博士は、自動運転などミッション・クリティカル(高い信頼性や耐障害性が要求される技術分野)でリアルタイム性を要求する用途にも5G(つまり無線接続)が用いられる、と語った。

 アモン氏も「5Gで遅延が短くなれば、アプリケーションのデザインが変わる」とアピールした。同氏は、これとは別のクアルコム自身のプレスコンファレンスにおいて、「低遅延にデータが得られれば携帯電話は(大きな)ストレージをもたなくてよくなる」と、わかりやすい例を挙げて説明していた(写真2)。もちろん、これは携帯電話に内蔵されたフラッシュメモリ注7の搭載容量に限定される話ではなく、ありとあらゆるデバイスがクラウドベースになることを意味している。

写真2 CES 2018でのクアルコムのプレスコンファレンスで語るR.アモン(Cristiano R. Amon)氏

写真2 CES 2018でのクアルコムのプレスコンファレンスで語るR.アモン(Cristiano R. Amon)氏

出所 筆者撮影

 ここで、この5Gキーノートセッションのモデレータ(司会)のスー・マレック(Sue Marek)氏が、SDN注8(Software Defined Network)専門メディアであるSDxCentral注9の編集長であることに注目したい。つまり5Gは、SDN技術と強く結びついているのだ。これについては後述する。


▼ 注1
間欠通信:音声や映像のデータのように連続的にデータを送る通信方式ではなく、低消費電力を実現するために、必要なデータを必要なときにのみ送信する(間欠的に送信する)ような通信方式。

▼ 注2
例えばSORACOMsakura.ioなどのサービス。

▼ 注3
2018年6月14日、5G Phase 1の仕様標準化が完了した。

▼ 注4
A端末から発したデータが、B端末に到着するためにかかる片方向通信の時間。A端末(エンド)からネットワークを経由してB端末(エンド)に届く時間のため、エンドツーエンド(端末間)通信と言われる。

▼ 注5
CES:Consumer Electronics Show、世界最大規模の家電関連技術の見本市。毎年1月に米国ラスベガスで開催される。

▼ 注6
MWC:Mobile World Congress、世界最大規模の携帯電話関連技術の見本市。毎年2月または3月に、スペインのバルセロナで開催される。

▼ 注7
フラッシュメモリ:端末の電源をオフにしてもデータが保存される、データの書き換え可能な半導体メモリ(不揮発性メモリ)の一種。

▼ 注8
SDN:Software Defined Network、ネットワーク機器をオペレータの手作業ではなくソフトウェアによる操作で行うことで、自動化や全体最適化を行う運用管理技術。

▼ 注9
https://www.sdxcentral.com

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