最優秀賞:災害時の避難所用モデルの提案
〔1〕災害時の避難所の状況を可視化
今回、応募者からの多くの提案は、LoRaWANによるスマートシティの構築を推進するうえで参考となるものが多数あったが、ここでは、最優秀賞「柏の葉まちづくり賞」に輝いた下川典子氏(東京大学 人間環境学専攻、技術補佐員)の「地域IoT実装を推進する教育×避難所用モデルの提案」を紹介しよう。
下川氏の提案は、災害時の避難所の水・食料不足、電気・トイレ・湿温度管理、運営側の人手不足、収容人数過多などの状況を可視化し、柏市役所と連携して、避難所運営をサポートするIoTのエンドデバイスを開発することであった。
具体的には、柏市内の各避難所の資材や、運営状況についてリアルタイムにデータ収集し、ネットで公開することにより、物資やボランティアの適切な配分につなげていく。また、データ収集をするエンドデバイスの制作を、市内の学校の学生・生徒に依頼することで、プログラミングなどを体験できる教育の機会も提供する、という内容である。
〔2〕避難所用エンドデバイスの機能
写真2、写真3は、柏市内の各避難所に設置される避難所用エンドデバイスである。上部にLoRaWANモジュールをセットしたマイコンボードを配置し、下部左に収容人数のカウンター用トグルスイッチ、下部右に水・食料・電気・トイレのトグルスイッチを配置した構成である(いずれも左に倒すとON)。
写真2 柏市内の各避難所に設置される避難所用エンドデバイス
出所 編集部撮影
写真3 避難所用エンドデバイスあの各機能の説明
出所 編集部撮影
写真4は、避難先に置かれたパソコンの画面例であり、①市内の避難場所全体の表示、②男女別収容人数、③温湿度表示、④各種SOS情報などが表示されている。写真4では、水はSOS、食料もSOS、電気は使用可、トイレも使用可となっている。避難住民は、自分の避難所の状況も他の避難所の情報も得ることができる仕組みとなっている。
写真4 避難先のパソコンに表示される可視化された各避難所の混雑状況・SOS情報
出所 編集部撮影
避難所の混雑状況やSOS情報をリアルタイムにネット上に公開するツールには、ウイングアーク1stから提供された、「モーションボード」注5が使用されている。
下川氏の災害時の避難所用モデルの提案は、自治体が安価なIoTデバイスを使用して市民の命を守る避難所用モデルとして、実用化が期待されている。
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最後に、主催者側を代表して、柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)のディレクターである後藤良子氏が、今回のハッカソンについて、次のような5つの成果があったと報告した。
- まちづくりのメンバーからの課題をシェアし、それに対してIoTを用いて解決する多くの提案があったこと。
- ハッカソンの開催をきっかけに、つくばエクスプレス沿線エリア一帯にLoRaWANの環境が構築できたこと。
- 技術セミナーや講演を通じて、LoRaWANに関する情報、技術、ノウハウを普及させ、シェアできたこと。
- ハッカソンを通じて、総勢200名を超える参加者が技術を教え合ったりする交流の機会をもてたこと。
- 今回のまちづくりに関する提案・応募内容をもとに、今後、実証実験などを行うベースができたこと。
同氏は、さらに、今回できたハッカソンのコミュニティを発展させ、この近隣に設立が予定されているAIセンターとも連携し、次のステップを目指したい、と締めくくった。
▼ 注5
モーションボード(Motion Board):企業を取り巻くさまざまなデータを価値ある情報に変える、表現力や分析力を兼ね備えた情報活用ダッシュボード。ダッシュボードとはBI(Business Intelligence、ビジネスインテリジェンス)におけるレポート機能の1つであり、加工されたさまざまなデータをグラフィカルに表示することによって、経営状態を可視化し、スピーディな意思決定を支援する。