日本の先駆的事例
〔1〕エナリス
日本でも2017年からいくつかのプロジェクトが始まっている。
株式会社エナリス(東京都千代田区)は、2017年5月にブロックチェーン技術を活用した電力取引サービス等の商用化に向けた検討を開始した注11。
その後、同社は同年6月に株式会社会津ラボとともに福島県が実施する「再エネ関連技術実証研究支援事業」に採択され、福島県の200〜400世帯を対象に、会津ラボが開発したコンセント型のスマートメーター「スマートプラグ」を使い、電力データをブロックチェーン上に記録してモニタリングを行う実証事業を行った(図2)。
図2 ブロックチェーンを活用したデマンドレスポンス実証
出所 株式会社エナリス提供
さらに2018年1月に、高齢者の見守りサービスの実証試験も開始した注12。
〔2〕東京大学と立山科学工業など
東京大学と立山科学工業などパートナー会社8社は、デジタルグリッドルータ注13というハードウェアと組み合わせたブロックチェーンを用いた電力融通決済システムを開発している。
これにより、電圧の高低ではなく価格の高低に基づく電力制御を目指す。
環境省の「平成29年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発委託業務」を受託し、さいたま市浦和美園地区において実証事業を行う注14。
〔3〕カウラ
カウラ株式会社(東京都千代田区)は、EVバッテリーライフサイクル管理プラットフォームを提案している。このプラットフォームは、EVバッテリーのリコール対応への活用およびEVバッテリーの二次利用市場への活用が期待される。
前者の事例では、バッテリーメーカー、所有者・利用者、行政機関、EV完成車メーカー、ディーラー間で製品の所在や不具合情報を共有することで透明性を確保し対応を迅速化する。
後者の事例では、ブロックチェーンを用いてEVバッテリー(リチウムイオン電池)の残存価値を適正に把握・共有することによって、安心・安全にEVバッテリーの再利用を可能とする。
〔4〕みんな電力
みんな電力株式会社(東京都世田谷区)は、2018年2月にブロックチェーンを活用したP2P電力取引プラットフォームの開発を発表した。
ブロックチェーンによって信頼性の高い電源のトラッキング(追跡)が可能になり、同社は電源由来の証明、個人・企業間での直接電力取引、電源価値の売買といったサービスを予定している注15。
〔5〕東京電力ホールディングス
東京電力ホールディングス株式会社では、2017年7月にドイツの電力会社innogy(イノジー)社(本社:ドイツ・エッセン)との共同出資により、電力直接取引プラットフォーム事業を推進するConjoule(コンジュール)社を設立した(図3)注16。また同社は、2017年に国際コンソーシアムEnergy Web Foundation(EWF)注17に参画、2018年1月には英国のElectron(エレクトロン)社にも出資をしている(2018年3月現在、Energy Web Foundationに参画している日本企業は同社とSBエナジー社の2社である)。
図3 Conjoule社の電力取引プラットフォームの概要図
出所 http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/pdf2/170710j0101.pdf
▼ 注11
https://www.eneres.co.jp/news/release/20170531.html
▼ 注12
https://www.eneres.co.jp/news/release/20180116.html
▼ 注13
デジタルグリッドルータ:東京大学大学院 工学系研究科の阿部力也特任教授が開発を進めているセル間を相互接続する新しい機器。セル間〔セル:太陽電池パネルなどの分散電源を備えた最小の電力系統(グリッド)の単位〕を相互接続するデジタルグリッドルータは、交流電力をいったん直流電力に変換するコンバーターと、この直流電力を交流電力に変換するインバーターで構成されている。なお、デジタルグリッドとは、スマートグリッドの進化・発展形と言われ、電力のインターネットとも言われている。スマートグリッドでは受動的な制御であったが、デジタルグリッドでは、送配電系統を能動的に制御可能と言われている。
http://www.digitalgrid.t.u-tokyo.ac.jp/
▼ 注14
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cpttv_funds/ongoing.html
▼ 注15
http://corp.minden.co.jp/wp-content/uploads/2018/02/20180228_release.pdf
▼ 注16
http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/1443908_8706.html
▼ 注17
Energy Web Foundation(EWF):2017年8月設立。本部:スイスのツーク、加盟数:37社(2018年2月5日)。