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実証から商用化に向かうエネルギー分野のブロックチェーン技術

― ブロックチェーンの国際会議「Event Horizon 2019」レポート ―
2019/07/01
(月)
大串 康彦 株式会社エポカ 代表取締役

エネルギー分野でのブロックチェーンに特化した国際会議「Event Horizon 2019」(The Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector)が、2019年6月19日〜20日にドイツ・ベルリンで開催された。本会議は、2017年に初開催され今年(2019年)が第3回になる。国際的にブロックチェーンへの関心が高まってきていることもあり、参加者数は第1回の550人から今回の1,000人以上と大幅に増加し、活況を呈した。
本記事では、同会議で報告された最新の情報や、そこから見て取れる業界や技術のトレンドをレポートする。

Event Horizonのプロフィール

写真1 今回の会議会場となったKraftwerk Berlin

写真1 今回の会議会場となったKraftwerk Berlin

Kraftwerk Berlinは、巨大な工場を改装したような建物である。

〔1〕EWF(Energy Web Foundation)を設立

 Event Horizon(イベント・ホライゾン)を主催しているのは、オーストリアのGrid Singularity(GSy、グリッド・シンギュラリティ)というスタートアップ企業で、2017年に、米国の有名なRocky Mountain Institute(RMI、ロッキーマウンテン研究所)と共同で、Energy Web Foundation(エネルギー・ウェブ・ファウンデーション。以下、EWF)というコンソーシアムを設立した(詳細は後述)。

 EWFのメンバー会議もEvent Horizonの前日に行われたこともあり、今回の会議も、EWFの成果発表やEWFの基盤技術を使った事例発表の色合いが濃い(写真1、写真2)。

写真2 独特の照明が施された会場内に並ぶ多くの企業ブース

写真2 独特の照明が施された会場内に並ぶ多くの企業ブース

出所 著者撮影

〔2〕ブロックチェーン基盤技術「EW Chain」の運用開始

 特に今回は、EWFが2年がかりで開発した、エネルギー分野での使用を目的としたブロックチェーン基盤技術の「Energy Web Chain(エネルギー・ウェブ・チェーン。以下、EW Chain)」の運用開始や、「D3A」というエネルギー市場モデリング・シミュレーションソフトウェアの公開が行われた。

 会議の参加者は75%が欧州、10%がアジア、15%がその他(北米・南米・オーストラリアなど)と、欧州からの参加者が中心である。参加者の所属組織の種別を見ると、スタートアップ以外の企業が40%、スタートアップ企業が31%であるが、次いで多いのが規制当局の14%であり、規制当局の代表者がさまざまな規制を最新技術にも対応できるようにするため、情報収集する場であることも伺えた注1

評価選定が難しいブロックチェーン基盤技術

図1 EWFのメンバー企業一覧(2019年6月現在)

図1 EWFのメンバー企業一覧(2019年6月現在)

出所 https://www.energyweb.org/work-with-us/our-affiliate-ecosystem/

〔1〕2種類のブロックチェーン基盤技術

 ブロックチェーン技術注2を利用したアプリケーションを構築する場合、ブロックチェーン基盤技術の選定が問題となる。

 この基盤技術には、大きく分けると、

  1. 誰でも参加可能なパブリック型基盤
  2. 認証局の許可を得た者のみが参加できるプライベート/コンソーシアム型基盤

の2種類がある。それぞれの技術は処理性能、拡張性(スケーラビリティ)や取引コストなどの特徴が異なり、用途に適合した基盤技術を選定する必要がある。さらに、ブロックチェーン技術は比較的新しい技術であるため、どの基盤技術も開発途上である。そのため、将来を見据えて最適な技術を選定するのは簡単ではない。

 2017年に設立したEWFが目指したことの1つは、エネルギー分野で汎用的に使用できるブロックチェーン基盤技術を開発することであった。EWFは、大手電力会社などからなるコンソーシアム(図1)を組織し、ユーザーの意見を取り入れながらこれを達成した。2017年秋には「Tobalaba(トバラバ)」としてテストネットを公開し、今回、実運用のための基盤技術「EW Chain」を公開した。

 このEW Chainは、パブリック型(ただし、取引承認ノードになるためには許可が必要)で、オープンソースである。

〔2〕EW Chainは電力取引に適合するように設計

 EW Chainは、今後分散型エネルギーリソースが増大したときに想定される電力取引に適合するように設計されている。Ethereum(イーサリアム)のコードをもとにしているが、Ethereumの承認方式がProof of Work(今後Proof of Stakeに移行予定)であるのに対し、Proof of Authorityを採用している。EW Chainのホワイトペーパー注3(Versin 1.0、2018年10月発行)によると、テストネットの段階で、Ethereumを利用したものと比較して処理性能は30倍、消費電力は2〜3桁少ないと報告されている。

 EW Chainは、オープンソースであるため誰でもアクセス可能だが、取引承認を行うノード「バリデータノード」は許可制で、現状はフランスのengie(エンジー)社や英国のShell(Royal Dutch Shell)社など初期から参加しているメンバー企業が担当している。

 EW Chainは、EWトークン(EWT)というネイティブトークン(EW Chain独自のトークン)をもち、不正防止を担保するために取引承認のために支払うEthereumと同様な「Gas」(ガソリンのこと)の取引手数料や、バリデータ(取引承認に関わるノード)の報酬の支払いなど内部的な用途のほか、今後10年間にわたりソフトウェアの開発に使われる「EW Community Fund」として使われる外部的な用途が提案されている。


▼ 注1
https://eventhorizonsummit.com/about/

▼ 注2
分散型台帳技術を意味することもあるが、本記事では便宜上「ブロックチェーン技術」に統一する。

▼ 注3
https://energyweb.org/reports/the-energy-web-chain/

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