[急展開するエネルギー分野のブロックチェーン]

急展開するエネルギー分野のブロックチェーン

― 第1回 世界の事例から見るエネルギー+ブロックチェーンの全体像 ―
2018/04/01
(日)
大串 康彦 株式会社エポカ 代表取締役

なぜブロックチェーンなのか、ブロックチェーンでなければできないのか

 それでは、なぜブロックチェーンが使われるのか、また、従来の技術ではこれらのサービスは提供できなかったのか、という疑問が生じる。各用途でのブロックチェーンの詳しい利用方法は第2回以降の記事で触れるが、共通している事項として次のことが挙げられる。

〔1〕不正改ざんなく保存・流通・移転する仕組みであること

 ブロックチェーン技術は、コンピュータネットワークを使い、デジタル化した価値や資産(アセット)を不正改ざんなく保存・流通・移転する仕組みであり、その応用が開発されている。信頼できる計測器で計測したデータを記録すれば、不正改ざんされることなくデータを保存することができる。

 例えば、前述のカウラ株式会社の事例では、EVバッテリーの状態データをブロックチェーンに書き込むことで記録が保存され、そのデータに基づいて行った残存価値の把握や予測の信頼性を向上させることができる。

 各電力取引プラットフォームでは、信頼できる計測器で計測した電力データをもとに取引を行うが、取引記録は改ざんできず、検証可能である。

〔2〕電力取引を効率的・経済的に行うことが可能

 P2P電力取引(トランザクティブ・エネルギー)はブロックチェーンを使わなくても原理的には可能である。日本では、一般送配電事業者が、スマートメーターおよび従来のアナログメーターから需要家の電力消費量データおよび太陽光発電の発電電力量データを収集し、課金請求のために各顧客が契約する小売事業者に送る仕組みになっている。

 このシステムの中で発電と消費をマッチングさせ取引する仕組みを作ることは不可能ではないだろう。しかし、LO3 Energy社(米国)、Power Ledger社(オーストラリア)、Grid+社(米国)の資料を読む限り、ブロックチェーンを使用することによって、取引を効率的・経済的に行うことができると考えられていることがわかる注18

 再エネ発電所の資金調達も従来のクラウドファンディングで行うことができる。しかし、資金調達時に投資家が提供した資金と引換に発行したトークンを、のちに電力取引に使うなどの仕組みは、仮想通貨と同じくブロックチェーンならではのものである。

ICOとエネルギー分野のブロックチェーン・プロジェクト

 最後に、昨年(2017年)から話題になっているICO(Initial Coin Offering、ブロックチェーンを用いた資金調達法)とエネルギー分野のブロックチェーン関連プロジェクトの関連性に関して述べる。

〔1〕ICOとは?

 ICOとは、企業や事業家が、投資家の提供する資金(イーサリアムやビットコインなどの仮想通貨で支払われることが多い)と引き換えに、仮想通貨やトークンを発行し資金調達をすることをいう。トークンセールともトークンジェネレーションイベントとも呼ばれる。

 発行した仮想通貨は、エクイティ型、デット型、サービス利用権との引換券型、リソースを区分所有する権利を証券化する型などに分かれるが(杉井、前掲書、p212)、エネルギー分野のサービスでは、このうちサービス利用権引換券型が多く、例えばPower Ledger社の事例では電力取引の参加権を得るために使われる。

〔2〕ICOで資金調達を実施済み/実施予定のプロジェクト

 表2に、ICOで資金調達を実施済みまたは実施予定のプロジェクトを示す。

 2017年はエネルギー関連のプロジェクトでは少なくとも4件のICOが行われたが、2018年はさらに多くのICOが予定されている。ベンチャー企業の資金調達は簡単ではないはずだが、エストニアのWePower社が42億円(4,000万米ドル)もの資金をICOで調達したのは驚くべきことである。

表2 エネルギー分野でICOで資金調達を実施済または実施予定のプロジェクト

表2 エネルギー分野でICOで資金調達を実施済または実施予定のプロジェクト

※金額は概算、法定通貨に換算した金額はニュースリリースなどの値を引用したため現在の換算レートと違う可能性がある。
出所 https://www.greentechmedia.com/articles/read/power-ledger-blockchain-energy-trading-startup-raises-17-cryptocurrency,  https://blog.gridplus.io/pre-sale-recap-v2-5c46702e5bf3、各社Webサイトなどをもとに筆者作成

 エネルギー分野でのブロックチェーンを使ったビジネスはまだ実証段階のものが多く、ビジネスモデルも明確とは言いがたい。ブロックチェーンの真価が発揮されるのはこれからといった印象を受けた。

 次回では、エネルギー分野のブロックチェーンを使ったビジネスで最も多い、電力取引プラットフォームについて詳しく見ていく。

(第2回へ続く)

◎プロフィール(敬称略)

大串 康彦(おおぐし やすひこ)

株式会社エポカ 代表取締役

1992年荏原製作所入社、環境プラントや燃料電池発電システムの開発を担当。2006年から2010年までカナダの電力会社BC Hydro社に在籍し、スマートグリッドの事業企画担当・スマートメータインフラ入札プロジェクトチームに参加。その後、日本の外資系企業で燃料電池・系統要蓄電池等のエネルギー技術の事業開発を担当。
yasuhiko.ogushi@epoka.jp


▼ 注18
https://exergy.energy/wp-content/uploads/2018/02/Exergy-BIZWhitepaper-v9.pdf
https://powerledger.io/media/Power-Ledger-Whitepaper-v8.pdf, https://blog.gridplus.io/the-p2p-grid-we-all-want-d7b1b923f02c

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