[連載]

欧州の風力発電最前線

─ 第1回 なぜ欧州で風力発電が成功しているのか ─
2014/11/01
(土)
辻 隆男

風力発電と「安定供給」に向けた3つの技術課題

次に、電力系統の運用制御に焦点をあて、供給支障を生じずに電力供給を続ける「安定供給」の技術課題と、風力発電との関係を述べる。

【技術課題1】需給バランスの制御

 (1)需給バランスの維持

電力貯蔵は一般に高価であるため、変動す る電力需要(ここに再生可能エネルギーの 出力変動も含む)に対して、制御可能な電 源群の出力を適切に調整して、需給バラン スを常時維持することが必要となる。需給 バランスが維持できない場合は、その大小 に応じて、電力システムの周波数(東日本 であれば通常は50Hz)が変動する問題が 生じる(図3)。周波数変動がある一定以上 になると、負荷や電源が保護装置の働きに よって電力系統から切り離されるため、電 力の供給に支障が生じることになる。

図3 需給バランスと周波数変動

図3 需給バランスと周波数変動

※風力発電の連系量増加に伴い、発電総量が不確実に変動すると、需要と供給のバランスが崩れやすくなる。供給量が多いと周波数は増加し、需要量が多いと周波数は減少する。
〔出所 http://www.yonden.co.jp/energy/n_ene_kounyu/furyoku_renkei/page_80b.html

 (2)風力発電の影響

風力発電の不確実な変動は時として非常 に急峻であるため、大量に風力発電が導入 されると、制御可能な電源群の調整が追い 付かず、周波数が変動する可能性がある。

【技術課題2】電力潮流および電圧の管理

 (1)電圧降下を補償する無効電力の供給

電力系統では、送配電のネットワークを介 して電源と負荷が接続されている。各発電 機からネットワークへと供給された電力 は、各負荷へ向けてネットワーク上を流れ ていくが、その経路は交流回路理論によっ て自動的に定まる。さらにこのとき、電力 潮流(電力の流れのこと)に沿った電圧降 下が生じるため、これを補償するように無 効電力注3の供給が必要である。

 (2)風力発電の影響

風力発電の出力変動は、送電線の電力潮流 および電圧の大きな変動をもたらすため、 適切な管理が重要な課題になる。また風力 発電が偏在して長距離送電が必要な場合、 送電線のインピーダンス(抵抗成分)が大 きくなるため、この電圧変動の影響が一層 厳しいものとなる(図4)。

図4 風力発電出力変動に伴う電圧変動の問題

図4 風力発電出力変動に伴う電圧変動の問題

【技術課題3】同期安定度の維持

 (1)重要な同期運転

在来の電力系統の主要な供給力である同 期発電機注4は、常時同じ周波数(東日本の 場合は50Hz)で回転し、同期を維持し続 ける必要がある。電力系統に事故が発生す ると一時的に同期が乱れるが、この際、電 力系統の特性(同期化力)や、これを強化 する発電機制御系の機能によって、再度同 期運転が維持される。この働きの強さを

“同期安定度”と呼ぶ。

 (2)風力発電の影響

風力発電が、需要地から遠方に大量に導入 されると、長距離の大容量送電となり、こ の場合は同期安定度の減少が深刻になる 可能性が知られている。また、風車の導入 による慣性力注5の変化や、事故時におけ る風車の一斉解列問題注6も検討する必要 がある(この詳細は次回以降に説明する)。

余裕をもった運用が重要

 ここまで3つの技術的課題を挙げたが、電力系統は常に外乱の危険にさらされているため、いずれも雷撃などの系統故障が生じた場合にも顕在化しないように、十分な余裕をもって運用されている必要がある。

 このように、風力発電の導入が進展するとさまざまな面で安定供給の信頼性、すなわち電力品質を低下させるような影響が現れてくる。

 一方、風力発電にもさまざまな制御性が存在するため、その活用によって電力系統への影響を緩和することが重要な課題となる。なお、現実の電力系統は国ごとに大きく特徴が異なるため、風力発電の導入により顕在化しやすい課題も、必ずしも同じではない。先に述べた系統容量に対して高い導入比率を擁するデンマーク、ポルトガル、アイルランドなどにおいても、風力発電を取り巻く環境にはそれぞれ特徴がある。

 これら国ごとの差異については、以降、本連載の中で少しずつ述べていくことにしよう。

(第2回に続く)

Profile

辻 隆男(つじ たかお)

辻 隆男(つじ たかお)

横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授

1977年11月22日生まれ
2006年3月 横浜国立大学 大学院工学府物理情報工学専攻 博士課程後期修了
同年4月     九州大学 大学院システム情報科学研究院 電気電子システム工学部門 
                寄附講座(九州電力)教員
2007年4月 横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 助教に着任
2011年4月 同准教授、現在に至る
                博士(工学)
                主として、電力システムの運用・制御・解析に関する研究に従事

▼ 注3
交流電力(皮相電力)は、有効電力と無効電力の2つで構成されている。有効電力とは電気でモーターを回す場合に仕事をする電力(負荷で実際に消費される電力)で、無効電力とは仕事をせずにそのまま帰ってしまう電力(一般の消費者には見えない)のこと。しかし、この無効電力は系統(電力システム)内の電圧を一定に保つために必要な電力となっているがこの無効電力は電力系統の至るころで消費されてしまう。その結果、無効電力が不足すると電力を何百㎞先に送ることができない。このため、無効電力を適切に供給しないと停電につながる可能性もある。
なお、「有効電力÷皮相電力」のことを力率と呼ぶ。

▼ 注4
同期発電機:交流電圧の位相差を電源間で同期させながら、商用周波数の電力を生み出す交流発電機。

▼ 注5
慣性力:在来の同期発電機は、回転子が運動エネルギーを蓄えており、系統故障時に瞬時的に発生する電力の過不足分を、吸収・放出するエネルギーのバッファとして働く。この機能を慣性力と呼ぶ。風力発電もこの慣性力を有するが、一般的に在来電源に比較するとバッファとしての容量が小さいと考えられ、事故時の安定度が問題になりやすい懸念がある。

▼ 注6
一斉解列問題:電力系統で故障が発生すると瞬時的に電圧が低下し、ある地域内の風力発電機群が、自らの設備保護のために一斉に運転を停止して電力系統から切り離される場合がある。

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