[直流時代の到来!]

直流時代の到来!<前編>さくらインターネットの直流給電システム(HVDC)

― 北海道胆振(いぶり)東部地震のブラックアウトにも60時間稼働し続けた「北海道・石狩データセンター」の教訓 ―
2019/07/01
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

北海道・東京・大阪の3都市にデータセンターを設置

〔1〕石狩データセンター:ラック数3,350、顧客数44万

 現在、さくらインターネットは、北海道(石狩市)、東京都(西新宿、東新宿、代官山)、大阪府(大阪市堂島)の3都道府に計5つのデータセンターを保有している。同データセンターのラック数は合計3,350、顧客数は44万アカウント以上にも上っている。ここでは、上記のデータセンターのうち、北海道の石狩データセンターを中心に見ていく。

 石狩データセンターは、2011年の3月に着工され、同年11月に1号棟と2号棟が、2016年12月に3号棟が完成し、オープンした。

〔2〕石狩データセンターの特徴

 石狩データセンターの特徴は、まず、土地が安く、かつエネルギー効率が良いことである。北海道は冷涼な気候のため、データセンターの冷房費が削減できることや、後述するHVDC効果などによって、国際的にも先進レベルのPUE注5 1.0台(1.0X)を実現している。

 2つ目の特徴は、広大な土地(5万1,488㎡。東京ドームの約1.1倍の広さ)があるので、十分なフレキシビリティ(柔軟性)とスケーラビリティ(拡張性)があることだ。

 3つ目の特徴は、地震が本州より少ないことである。「特に北海道は地震が非常に少なく、データセンターの設置には適した場所であると、そのときは思っていました」(さくらインターネット 社長 田中 邦裕氏)。

 写真2と写真3に、石狩データセンターの外観および全景を示す。現在、写真3に示す3つ(1号棟〜3号棟)のビルが稼働している。各棟のラック数は約900〜1,900であり、空調設備および電力設備は最適化されている。

写真2 石狩データセンターの外観(正面が3号棟、左側が1、2号棟)

写真2 石狩データセンターの外観(正面が3号棟、左側が1、2号棟)

出所 https://www.sakura.ad.jp/information/pressreleases/2019/06/18/1968200452/

写真3 石狩データセンターの全景(1号棟〜3号棟が稼働)

写真3 石狩データセンターの全景(1号棟〜3号棟が稼働)

全5号棟まで建設が予定されており、ラック数は最大6,800まで拡張される予定。
出所 田中 邦裕、「第3回 IEEE ICDCM(国際直流会議)」(Plenary/ Keynote Speech)講演資料より、2019年5月21日、編集部撮影

 同データセンターには、5号棟まで建設される計画となっており、その時点のラック数は合計6,800になる予定である。

石狩データセンターの高電圧直流(HVDC)給電方式

 また、この石狩データセンターの重要な特徴として、開所当時からHVDC(High Voltage Direct Current、高電圧直流)による給電方式が採用されていることが挙げられる。直流給電とは、屋内のデータセンター用通信機器やサーバなどへの電力の供給を、交流ではなく、直流によって行うことである。

 具体的には、データセンターのサーバなどの情報通信機器への給電を、380V程度に高電圧直流(HVDC)化し、システム全体の電力損失を低減させて、より効率化し、省エネを実現する。

 従来の情報通信機器への直流給電は、国際的にDC48Vで(例えば、電話局の交換機用など)、これと比較して高い電圧であることから一般的に「HVDC」と呼称され、標準化されている〔注:電力系統の直流送電分野においても「HVDC(High Voltage Direct Current Transmission)」 というように、同じ略語で呼ばれる数十万V級(例:20万V〜50万V)の大容量・長距離の直流送電方式があるが、これとは異なるので混同しないよう留意する必要がある〕。

〔1〕従来のUPS給電方式からHVDC給電方式の採用へ

 図3は、上側に従来のUPS給電方式によるデータセンター、下側に新しいHVDC給電方式注6を採用したデータセンターの特徴を示している。

図3 石狩データセンターが採用しているHVDC(高電圧直流)給電方式(図下部)

図3 石狩データセンターが採用しているHVDC(高電圧直流)給電方式(図下部)

UPS:Uninterruptible Power Supply、無停電電源装置。蓄電池を内蔵し、停電時でも一定時間決められた出力で電力を供給できる電源装置。停電時に非常用発電機が立ち上がり、非常用発電機からの電力給電に切り替わるまでの間の給電を行うための設備。
STS:Static Transfer Switch、スタティックトランスファースイッチ。超高速で回路切り替えが可能なスイッチ。
PDU:Power Distribution Unit、データセンターのラック(棚)に収納するサーバや通信機器に電力を供給するためのユニット。多数の電源コンセントを備えており、電源スイッチでオン・オフができる。
整流器:交流を直流に変換するユニット。
POL:Point of Load(コンバータ)。CPUやメモリ、HDD(ハードディスク)などの近くに配置するDC/DC(直流/直流)コンバータのこと。
出所 田中 邦裕、「第3回 IEEE ICDCM(国際直流会議)」(Plenary/ Keynote Speech)講演資料(2019年5月21日)および http://ishikari.sakura.ad.jp/をもとに編集部加筆修正

 図3の上側の従来型のデータセンターは、電力会社からの交流(AC)電力を1度直流(DC)に変換(1回目AC⇒DC変換)してバッテリー(非常電池)に蓄電し、さらに再びこの直流を交流に変換(2回目DC⇒AC変換)して配電を行う。サーバ(コンピュータ)は半導体でできているため直流(DC)でしか動かない。このためDCサーバで、この交流(AC200V)を再度、直流(DC12V)に変換(3回目:AC⇒DC変換)し、使用している。

〔2〕高電圧直流(HVDC)給電方式の採用へ

 一方、図3の下側のHVDC給電方式(HVDC+12V)では、交流(AC)を整流器(Rectifier、交流を直流に変換する装置)によって直流(DC)に変換してバッテリー(非常電池)に蓄電し、(交流には変換せず)HVDC(直流380V)によって、集中電源供給装置(Intensive Power Supply)を通してサーバ(DCサーバ)へ給電する。サーバには、DC12V(サーバ駆動用の電圧)に降圧されて供給される。このようにHVDC給電方式では、交流と直流の変換は1回しか行われていないのだ。

 これによって、データセンターの電力効率は、従来型のデータセンター(UPS方式)が70〜80%の電力効率であったのに対し、HVDC給電方式では、90%以上の電力効率を実現できるよう大幅に改善された。

 このように、HVDC給電方式では、系統からデータセンターへの入力電力は交流である(現状は交流しかない)が、図3に示すように、バッテリー以降はすべて直流にして交流から直流への変換損失をなくし、電力効率を向上させるという仕組みとなっている。


▼ 注5
PUE:Power Usage Effectiveness、データセンターにおける電気効率を示す指標の1つ。計算式「PUE=データセンター全体の消費電力÷IT機器による消費電力」で算出し、1.0に近いほど電気効率が良い。

▼ 注6
HVDC給電方式:HVDC給電方式が一般的な交流給電方式(UPS方式)よりも高効率となる理由はいくつかある。データセンターへの電力を系統から取り込み、データセンター内のサーバに送るまでの電力変換の回数が、3回から1回に減ること、などである。

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