[直流時代の到来!]

直流時代の到来!<前編>さくらインターネットの直流給電システム(HVDC)

― 北海道胆振(いぶり)東部地震のブラックアウトにも60時間稼働し続けた「北海道・石狩データセンター」の教訓 ―
2019/07/01
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

地震発生時に、60時間ノンストップで稼働した非常用発電機

 これまで石狩データセンターの概要を見てきた。次に、2018年9月6日午前3時7分に発生した震度7という大型の北海道胆振東部地震の際に、石狩データセンターがノンストップで稼働した状況を紹介しよう。

 「日本は非常に地震が多い国ですが、北海道は地震が少ないといわれていました。それを理由に、当社は北海道に進出したのですが、残念ながら、2018年に大きな地震がありました。実際にオフィスの本が落ちたりしましたが、ビルが耐震性であったため、ビル自体の損傷はありませんでした」(田中氏)。

〔1〕地震発生直後から非常用発電機が稼働

 北海道全域の約295万戸がブラックアウトした、北海道胆振東部地震の際の石狩データセンターの稼働状況を時系列に見てみよう(表3)。

 9月6日午前3時7分の地震発生とほぼ同時に、電力会社からのデータセンターへの系統電源がストップし、データセンター内の非常用発電機が動き出した。表3に示すように、この非常用発電機は、9月8日の午後まで60時間連続して稼働した。世界でも、60時間停止せずに非常用発電機で乗り切ることができたデータセンターというのは珍しい、といわれている。石狩データセンターの総消費電力は30メガワット(30MW=3万kW)ほどなので、すべて稼働すると非常に大きな電気を使う。

表3 地震発生時(2018年9月6日)の時系列で見たデータセンターの稼働状況

表3 地震発生時(2018年9月6日)の時系列で見たデータセンターの稼働状況

出所 2019年5月21日、田中 邦裕「第3回IEEE ICDCM(国際直流会議)における講演資料」(Plenary/Keynote Speech)をもとに編集部作成

〔2〕奇跡的にも60時間を非常用電源でバックアップ

 さくらインターネットの石狩データセンターでは、48時間の停電に備えた燃料を備蓄していたが、停電の発生した時点では復旧までの時間はわからない。石狩市役所などと連携しながら、システムをダウンさせないことを第一に対応したため、想定を超えた奇跡的な60時間もの長時間を非常用電源で稼働させ、システムダウンを回避できた。

 石狩データセンターは地震災害に対してこのような備えをして対応できたが、データセンターは常に電力供給が停止すると大変な事態を迎えてしまうという不安やリスクを抱えている。今回の地震による教訓は、今後、データセンターをどのように設計していくのかという考え方の見直しの原点にもなった。

 図7は、2号棟において地震によって商用電源がカットされ、HDVCと太陽光発電で稼働している状況を示している。図7の下部に示す非常用発電機には、燃料切れになる48時間前に、無事に給油することができた。

 「この日、北海道では全域にわたってすべての電気が止まりました。BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)では、非常時には48時間以内に追加の給油をすることになっていますが、肝心の町なかの給油所の電気もダウンしているため、オイルが汲み出せないなど、想定外のことがたくさん発生したのです」(田中氏)。

〔3〕社員も社員の家族も被災者なのだ!

 このような中で、もう1つ問題になったのが、社員の安全と仕事環境の問題である。

 「地震災害時は、当然、社員も被災者です。社員と社員の家族がデータセンターに集まって、みんなで炊き出しをしました。災害時においては設備の復旧も重要ですが、人はそれ以上に重要だということを痛感しました。実際に北海道は全域で停電していますので、社員はデータセンターにくると電気があって、水があって、お風呂に入れる、そして食事ができる。これが社員の意思疎通とデータセンター回復への大きなモチベーションにつながりました」(田中氏)。

〔4〕社員みんなで「太陽よ昇ってくれ」と、祈った

 以上が地震発生時の概要であるが、それでは実際に、直流電源はどのように災害復旧に寄与したのかを見てみよう。

 前出の図7に示すように、データセンターには太陽光発電(PV)が直接つながっている。

図7 2号棟における商用電源(系統電源)のダウンとHVDC&PVシステムの活躍

図7 2号棟における商用電源(系統電源)のダウンとHVDC&PVシステムの活躍

出所 田中 邦裕、「第3回 IEEE ICDCM(国際直流会議)」(Plenary/ Keynote Speech)講演資料より、2019年5月21日、編集部撮影

 「北海道では全域にわたって停電(ブラックアウト)が発生しましが、各地の太陽光発電が系統連系されたのは一番最後でした。これは、いかにDC(直流)マイクログリッド注8がこれから重要になるかを示唆する事件だと思っています。何があっても、翌日になったら必ず太陽が昇るはずなのに、その太陽の電気を系統電力として使えない、これが北海道の現実でした」(田中氏)。

 しかし、石狩データセンターの太陽光発電は、系統ではなくDCマイクログリッドにつながっていたので、非常時でも使うことができた(前出の図7に見るPVと直流データセンターの電源システム)。

 「非常用発電機の燃料がどんどん消費され、減少していく中で、社員みんなで、“太陽よ昇ってくれ!”と祈ったわけですけれども、無事、翌日は快晴でした。これによって、実際に非常用発電機の燃料が不足している中で、直流対応のDCサーバについては太陽光発電で給電し続けることができたのです」(田中氏)。

世界が期待する高電圧直流(HVDC)給電への道

 石狩データセンターの事例からも、高電圧直流(HVDC)という技術は、非常に将来性があるものと期待されている。パソコンやスマートフォンなどの情報端末はもちろん、データセンターのサーバも、周辺機器や半導体部品も、すべてが直流で動いている。そして今や、照明は交流の蛍光灯から直流のLEDへ、モーターは交流モーターからインバータモーターへ、さらに地下鉄や鉄道などの交通輸送分野に至るまで、電力の負荷となるさまざま機器が交流から直流へ変わり始めている。

 一方、発電技術も大きく変化している。例えば、従来は火力発電などによって、50Hzあるいは60Hzの交流電力をデータセンターに給電していたが、今や、地球温暖化対策および脱炭素社会に向けて急速に普及している太陽光発電はすべて直流で発電するため、直流給電が容易にできるようになった。発電が直流になり、送電が直流になり、そして配電が直流になって、消費が直流になる。これが当たり前の流れになり、IEC(国際電気標準会議)やIEEE(米国電気電子学会)などで国際的な標準化活動も活発になっている。

 最後に、田中氏は「HVDCに至る道には、まだまだ解決すべき課題があると思いますが、技術的にも、効果的にも、DC(直流)化は疑うべくもないものだと私は確信しています。なかでも、特にデータセンターという、非常に電力をたくさん使う、それも直流で大量の電気を使う場所が高電圧直流給電に変わっていく。技術的に非常にチャレンジングな分野ですが、今後、世界中で高電圧直流給電システムが発展し普及していくことを期待しています」と締めくくった。


▼ 注8
マイクログリッド:Microgrid。小規模発電網あるいは分散型電力網などと呼ばれる。電力の需要地内に、太陽光発電や風力発電、燃料電池などの小規模な発電施設を設置して相互に連結し、その需要地内の電力需要をまかなう小規模場電力システムのこと。電力の需要地内で、すべて直流で発電、送電、配電などを行うシステムをDCマイクログリッドと呼ぶ。HVDC(直流380V)給電方式によるデータセンターなどはその1例である。

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