モバイル関連技術がSDGsに与える影響
このようなモバイル関連技術の発展がSDGsにもたらすものは何だろうか。GSMAはモバイル業界がSDGsに及ぼす影響を分析し、その結果を「2019 Mobile Industry Impact Report: Sustainable Development Goals注5」(2019年9月公表)としてまとめている。
このレポートによると、モバイル業界自体によるSDGsの取り組みも重要であるものの、図1でも示されていたように、最新のモバイル関連技術が他の産業分野で活用されることによって、SDGsの目標達成に貢献できる可能性があることを示している。例えばSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に関して、モバイル関連技術を使うことで表1のようなサービスを実現することができるとしている。
サービス名 | サービス概要 |
Smart traffic management (スマートな交通量管理) |
センサー等を使って交通量を監視・効率化し、渋滞などを緩和 |
Smart urban lighting (スマートな都市照明) |
街灯などの街に設置されている照明を必要な時だけ点灯 |
Smart Parking (スマートな駐車) |
空いている駐車場を効率的に探す支援 |
Smart logistic (スマートな物流) |
物流のルートや積み荷の管理や効率化 |
Building energy management systems (ビルエネルギー管理システム) |
ビルのエネルギー使用の監視と管理の自動化 |
Remote working (リモートワーキング) |
通勤や移動が不要な働き方の実現 |
Sharing economy (シェアリングエコノミー) |
自動車や自転車などをシェアすることによる資源利用の効率化 |
Smart grids (スマートグリッド) |
電気の発電や配電の管理や監視の効率化 |
Connected health (コネクテッド・ヘルス) |
遠隔の患者等の健康状態の監視 |
Precision agriculture (精密農業) |
農作物の生育状況の監視と肥料や水やりの最適化 |
出所 「2019 Mobile Industry Impact Report: Sustainable Development Goals」をもとに筆者作成
SDGsに関するモバイルの影響スコア
「2019 Mobile Industry Impact Report: Sustainable Development Goals」では、このような取り組みが、SDGsの目標達成にどの程度貢献しているのかをSDG mobile impact scores(持続可能な開発目標に関するモバイルの影響スコア)という指標を定めて定量的に示している。これによって現在の取り組み状況を正確に把握し、今後のさらなる取り組みを促すことを目指している。このSDG mobile impact scoresの最新版(2018年版の評価)を示したものが図2である。
図2 SDG mobile impact scores 2018年版の評価
出所 「2019 Mobile Industry Impact Report: Sustainable Development Goals 」21ページhttps://www.gsmaintelligence.com/research/2019/09/2019-mobile-industry-impact-report-sustainability-development-goals/809/
図2は、時計の12時にあたる部分から目標1「貧困をなくそう」が始まり、表2に示す17の目標を時計回りに配置し、それぞれのスコア(評価点)を示している。
目標 | 概要 |
目標1 | 貧困をなくそう |
目標2 | 飢餓をゼロに |
目標3 | すべての人に健康と福祉を |
目標4 | 質の高い教育をみんなに |
目標5 | ジェンダー平等を実現しよう |
目標6 | 安全な水とトイレを世界中に |
目標7 | エネルギーをみんなに そしてクリーンに |
目標8 | 働きがいも 経済成長も |
目標9 | 産業と技術革新の基盤をつくろう |
目標10 | 人や国の不平等をなくそう |
目標11 | 住み続けられるまちづくりを |
目標12 | つくる責任 つかう責任 |
目標13 | 気候変動に具体的な対策を |
目標14 | 海の豊かさを守ろう |
目標15 | 陸の豊かさも守ろう |
目標16 | 平和と公正をすべての人に |
目標17 | パートナーシップで目標を達成しよう |
出所 「持続可能な開発目標 カラーホイールを含むSDGsロゴと17のアイコンの使用ガイドライン」をもとに筆者作成
https://www.unic.or.jp/files/SDG_Guidelines_AUG_2019_Final_ja.pdf
〔1〕5Gが貢献する「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」
SDG mobile impact scoresではモバイル業界がSDGs達成のためにできる可能性があることすべてに取り組んでいる状態を100と定義し、その達成度合いを数値化している。例えば目標1「貧困をなくそう」のスコアは39となっているが、これはモバイル業界が取り組めるすべての可能性のうち39%がすでに実現されていることを示している。
図2を見ると、もっともスコアが高い、言い換えれば目標達成に関する取り組みをもっとも積極的に行っているのが目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」であり、スコアは59となっている。これは、ここまで5Gが他の産業分野のイノベーションに貢献すると紹介してきたことにつながる。今後、5Gサービスがさまざまな産業分野で活用されることで、この目標のスコアはますます高まっていくだろう。
〔2〕「目標14:海の豊かさを守ろう」と「目標2:飢餓をゼロに」は今後更なる取り組みが必要
次いでスコアが高いのが目標4「質の高い教育をみんなに」と目標11「住み続けられるまちづくりを」で、それぞれ45となっている。他にも目標13「気候変動に具体的な対策を」(スコア44)、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や目標10「人や国の不平等をなくそう」(スコア43)などが高い達成率となっている。逆に目標14「海の豊かさを守ろう」(スコア32)、目標2「飢餓をゼロに」(スコア33)は、まだまだ更なる取り組みが必要な目標だといえる。
企業における技術を活用したSDGsへの取り組みの考え方
ここまで見てきたように、現在注目されている5GをはじめIoTなどのモバイル関連技術は、さまざまな産業に新たな可能性をもたらすだけではなく、SDGsの達成にも大きく貢献する可能性を秘めている。さらに表1で見た気候変動対策に寄与するサービス例からも明らかなように、SDGsの目標達成のために行う取り組みは、自社に新たな収益をもたらすための取り組みも兼ねている。
SDGsに関する取り組みを決して特別なものととらえるのではなく、逆に自社とは関係ないと軽んじてもいけない。「長期的な視点から世界におけるリスクを低減させる取り組みとしてとらえる」と同時に、「短中期的な視点から自社に収益をもたらす取り組みとしてもとらえる」ことで、幅広い視野をもって取り組みを続けていくことが重要である。