グローバルリスク報告書で指摘された気候変動リスク
毎年1月に、スイスのダボスで開催される世界経済フォーラムの年次大会(通称:ダボス会議)注2では、2006年以降、世界における主なリスク(例:異常気象やサイバー攻撃など)を取り上げた「グローバルリスク報告書(Global Risk Report)」を発表している。
同レポートでは発生の可能性の高さと影響の大きさに分け、各年の上位5位のグローバルリスクを時系列に並べている(図1)。
図1 グローバルリスクの展望の変遷(2009年〜2019年)
これを見ると、10年前頃には資産価格の崩壊などの経済面のリスクに注目が集まっていたが、ここ数年は主要な財産やインフラなどが被害を受けたり、人命が失われるリスクとなったりする「異常気象」や「気候変動の緩和・適応の失敗」注3などの項目が上位にきていることがわかる。さらに2019年では、「データの不正利用または窃盗」や「サイバー攻撃」などのテクノロジー関連のリスクも、発生の可能性が高いリスクと見なされている。
COP25で行われた議論とその成果
このような世界的なリスク意識の高まりを背景にして、2019年12月2〜15日の期間に、スペインのマドリードでCOP25が開催された。UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change、国連気候変動枠組条約)が12月13日に公表した参加者リスト注4によると、今回の参加者は、196カ国・地域から2万2,354人だった。
そのCOP25では、2015年12月に採択され、2020年1月から始動するパリ協定の第6条に定められている市場メカニズム注5の実施指針の交渉が焦点の1つとなっていた。日本政府代表団が12月16日に公表した会議結果資料注6によると、小泉環境大臣をはじめとして、交渉官や専門家による交渉が行われたものの、各国の利害がかみあわず、完全な合意には至らなかったことが示されており、イギリスのグラスゴーで開催される次回のCOP26での採択に向け、日本として貢献していくことを明らかにしている。
これ以外にも、2020年2月までに国連に提出することになっている、各国の2030年までの温室効果ガス削減目標についても、可能なかぎり高い野心(Ambition)を示すことを促すにとどまっている。参考までに、現状の各国の温室効果ガス削減目標の例を表1に示す。
表1 各国の温室効果ガス削減目標
会期を延長(当初、12月2〜13日の期間を15日まで延長)して議論したにもかかわらず、大きな成果を得られなかったことを受けて、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏(Mr. Antonio Guterres)はTwitterで、「COP25の結果には失望している。国際社会は気候の危機に取り組むための緩和や適応、資金に関する野心の高まりを示す重要な機会を失った。しかし、私たちはあきらめてはいけないし、私はあきらめない」とツイートし、注目を集めた注7。
COP25でのテレフォニカの野心的な目標発表
写真1 COP25におけるテレフォニカCOO Ángel Vilá(アンケル・ヴィラ)氏による発表
出所 https://www.telefonica.com/documents/737979/145663606/foto-angelvila-telefonica.JPG/
このように、COP25は全体としては積極的な成果は見られなかったものの、スペインのマドリードに本拠地を置く通信事業者であるテレフォニカ(Telefonica)は、COP25において野心的な目標を発表した(写真1)。それは、2050年までに同社のCO2の排出量をゼロにするというものだった。
COP25が開催される直前の11月29日に発表したプレスリリース注8では、今回のCOP25において、同社はテクノロジーパートナーとしてCOP25会期中に使用するネットワークを提供することを公表したが、その中で、COP25において環境や気候変動に関する取り組みを発表することを予告していた。
会期中の12月11日に公表された同社のプレスリリース注9によると、同社のCO2排出量を2025年には現在(2019年)の半分、2030年には70%削減、そして2050年にはカーボンニュートラル注10にすると発表している。さらに2025年には同社が消費する電力の85%、2030年には100%を再生可能エネルギー(以下、再エネ)でまかなうことも発表している。
テレフォニカは、2010年頃からサステナビリティに関する取り組みを行っており、すでに欧州地域およびブラジルにおいて同社が消費する電力は、100%再エネでまかなっており、世界全体で見ても58%の電力を再エネでまかなっている。
このように、テレフォニカは自社の環境配慮に関する取り組みを野心的に行うと同時に、自社の顧客が環境配慮に関する取り組みを行う際に、ICTを活用した支援も行っていることを強調している。
▼ 注1
COP25:The 25th Session of the Conference of the Parties、国連気候変動枠組条約第25回締約国会議
▼ 注2
世界経済フォーラム:2020年1月21〜24日に開催される世界経済フォーラム年次総会は、創立50年を記念する会合となる。
▼ 注3
気候変動の緩和・適応の失敗:気候変動に対する有効な政策を、政府や企業が制定し、実施することに関連する取り組みが失敗するリスク。
▼ 注4
Conference of the Parties Twenty-fifth session List of participants
▼ 注5
「市場メカニズム」とは、ある国での温室効果ガスの排出削減分を別の国の削減実績に排出権として参入できる仕組みのこと。詳細は「パリ協定の概要(仮訳)」の第6条部分を参照のこと。
▼ 注6
国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25) 結果
▼ 注7
https://twitter.com/antonioguterres/status/1206199048660611073参照。
▼ 注8
Telefonica supports COP25 as a technology partner | News Detail | News | Press Office | Telefonica
▼ 注9
Telefonica will be CO2 neutral by 2050 | News Detail | News | Press Office | Telefonica
▼ 注10
カーボンニュートラル(Carbon Neutral):直訳すると炭素中立。企業の事業活動や国民の日常生活などから排出される二酸化炭素と、植物等で吸収されるCO2の量を同じ量にする(すなわち、±0にする)こと。これによってCO2の排出量を実質的にゼロにする考え方。