[動き出したNetwork 2030の取り組みと全体像]

動き出したNetwork 2030の取り組みと全体像《前編》

― 「大容量/極小即時通信」「超ベストエフォート/高精度通信」「異種通信」への挑戦 ―
2020/06/05
(金)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

ITU-T SG13による2030年以降のネットワークを考える取り組み

 5Gの導入が世界中で行われている中、その先のネットワークの姿を見据えた取り組みをしているのは総務省だけではない。5Gの先、2030年以降のネットワークを考えるための取り組みとして、ITU-Tで行われているのが「Network 2030」という取り組みである。

 この取り組みは、ITU-Tの中で「クラウドコンピューティング、移動および次世代ネットワークを含む将来網」に関する検討を行っている研究委員会(SG:Study Group)であるITU-T SG13によって行われている。

 SG13が、2018年7月16日から27日にジュネーブでFuture networks注7と題して開催した会議においてNetwork 2030の取り組みを立ち上げ、FG NET-2030という名称のフォーカスグループ注8として活動が進められている。同フォーカスグループの議長は、ファーウェイのRichard Li(リチャード・リー)氏が務めている。

なぜ「Network 2030」が必要か

 FG NET-2030注9のWebサイトの冒頭には、「ネットワーク2030:2030年以降における、将来のデジタル社会とネットワークに向けた新たな地平線への指針」というリチャード・リー氏の言葉が紹介されている。

 同氏はITUによるインタビュー動画注10の中で、2030年以降に実現され、普及している可能性がある新しいサービスやメディアを見据えたネットワークが必要だと主張している。その中で紹介されているのが、後ほど詳しく紹介するホログラフィック通信である。

 ホログラフィ注11を使ったサービスは、KDDI注12やエリクソン注13をはじめとして、さまざまな企業が5Gのユースケースとして紹介しているが、リー氏は今後、ホログラフィを応用したサービスが産業分野だけでなく、教育分野、そしてスポーツなどのエンターテインメント分野でも活用されるようになってくる可能性を指摘している。そして、そのようなサービスが普及するためには、大容量で遅延のない通信が必要になってくるとしている。

FG NET-2030の役割と活動状況

表1 FG NET-2030のサブグループ

表1 FG NET-2030のサブグループ

出所 Network 2030をもとに筆者作成

〔1〕FG NET-2030活動のきっかけ

 大容量で遅延のない通信を実現するには、既存のネットワークの考え方や技術にとらわれない、新しい通信の仕組みを探究していく必要があると、FG NET-2030のWebサイトには示されている。ただし、そのような新しいネットワーク・アーキテクチャは、既存の仕組みとの互換性も保障しなければならない。このような点を考慮しながら、2030年以降のネットワーク・アーキテクチャや仕様、ユースケースなどを調査していくのが、FG NET-2030の役割だ。

 FG NET-2030は、現在3つのサブグループに分かれて活動が行われている(表1)。

〔2〕FG NET-2030による3つの活動レポート

 2019年11月にリスボン大学で開催された第2回 未来の通信に関するサミットにおいて、Toerless Eckert(トーレス・エッカート)氏注14が行ったプレゼンテーションによると、FG NET-2030は2019年末までに、すでに5回の全体会議を開催するなど、さまざまな活動を行ってきた。

 そのような活動の成果物(deliverable)として、2019年5月に「ネットワーク2030:2030年以降に向けた技術、アプリケーションおよび市場ドライバーの青写真」注15というホワイトペーパーを公表しているほか、2019年10月にはサブグループ2による「Network 2030のための新サービスと新機能:詳細、技術ギャップとパフォーマンス目標の分析」注16という報告書(以下「サブグループ2文書」と表記)、そして2020年1月にはサブグループ1による「Network 2030のための代表的なユースケースと主なネットワーク要件」注17という技術レポートが公表されている。

 なお、新しいネットワーク・アーキテクチャの検討ということで6Gとの関係が気になるところだが、その点についてはホワイトペーパーにおいてNetwork 2030は固定網に関する技術であると前置きしたうえで、「Network 2030の文脈において開発されたプロトコルやメカニズムを含む新しいネットワーキング・パラダイムは、今後10年間に固定/移動体ネットワークの融合が進む中で、適切な場合には、将来の6Gネットワーク環境にも適用される可能性がある」と記されている。

 以降では、これら3つのレポートに加え、先に紹介したエッカート氏のプレゼンテーション資料をもとに、Network 2030の全体像を見ていく。


▼ 注7
https://www.itu.int/en/events/pages/Event-Details.aspx?eventid=16715参照。

▼ 注8
フォーカスグループ:時限的グループ。ITU-Tの正式な研究委員会(SG)で標準化の審議を進める前に、市場ニーズをタイムリーに捉え、迅速な検討を行うための仕組み。

▼ 注9
https://www.itu.int/en/ITU-T/focusgroups/net2030/Pages/default.aspx参照

▼ 注10
ITU INTERVIEW Dr. Richard Li, Huawei, Chairman of the ITU-T FG on Network 2030

▼ 注11
ホログラフィ:光の回折と干渉を利用して立体画像(映像)を記録したり、3次元像に再生したりする技術。

▼ 注12
「映像×5G」でデジタルトランスフォーメーションを加速 法人向け5G対応ソリューションの提供開始

▼ 注13
3Dホログラフィック通信の実現を後押しする5G

▼ 注14
Toerless Eckert氏:Futurewei Technologies(ファーウェイUSA R&D組織)のDistinguished Engineer(特にすぐれた業績のエンジニアに送られる称号)。

▼ 注15
https://www.itu.int/en/ITU-T/focusgroups/net2030/Documents/White_Paper.pdf

▼ 注16
https://www.itu.int/en/ITU-T/focusgroups/net2030/Documents/Deliverable_NET2030.pdf

▼ 注17
https://www.itu.int/pub/T-FG-NET2030-2020-SUB.G1

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