Network 2030の全体像:「大容量/極小即時通信」「超ベストエフォート/高精度通信」「異種通信」
エッカート氏は、Network 2030で扱う分野の全体像を、図4のように示している。
図4 Network 2030の全体像
出所 “Network 2030: Focus Group at ITU-T for SG13”, Toerless.Eckert, Distinguished Engineer(2019年11月27日)をもとに編集部で作成
サブグループ2文書では、図4のような内容を検討している背景として、マルチメディアの進化によって、リー氏のインタビューにあったホログラフィック通信(3D立体映像通信)やテレハプティクス(tele-haptics、触覚情報の通信)のように情報量が多く、没入感があり、インタラクティブなアプリケーションが登場してくると予想している。
そのようなアプリケーションに対応するために、Network 2030ではベストエフォートを超えて(Beyond Best Effort)、高精度(High-Precision)な通信が必要になってくるとしている。
Network 2030の3つの基盤サービス
マルチメディア化が進むアプリケーションへの要求に応えるため、Network 2030はそのサービスを、①基盤サービス(foundational services)と②複合サービス(compound services)に分類している。
基盤サービスとは、それ以上分解できない基本的なサービスであり、複合サービスとは基盤サービスを組み合わせたサービスである。サブグループ2文書では、それぞれのサービスの例として表2に示すものを紹介している。
3つの基盤サービスとはどのようなものか
〔1〕インタイム・オンタイム・サービス
表2に示す基盤サービスの最初の「インタイム・オンタイム・サービス」は、Network 2030で利用されるアプリケーションの性質に大きくかかわっている。
表2 Network 2030のサービス分類
出所 “Representative use cases and key network requirements for Network 2030”をもとに筆者作成
例えば、触覚情報(冷たい、かたい、ざらざらしているなどの情報)を送るアプリケーションでは、触覚のフィードバックに基づいて機械類を遠隔操作することなどが想定されているが、触覚情報の遅延(レイテンシー)が大きければ、正確な操作を行うことができなくなる。あるいは産業用ロボットの自動化で使われる通信を考えたとき、パケットの遅延が大きい場合はもちろん、想定しているよりも早くパケットを受信してしまっても問題が生じる可能性がある。
そのため、Network 2030では「インタイム・サービス」と「オンタイム・サービス」という考え方でパケットの遅延を正確にコントロールすることを目指している。
Network 2030では「遅延(レイテンシー)」を、「パケットが送信者によって送信されてから、パケットがネットワークを越えて受信者によって受信されるまでの経過時間」と定義している。その上で、「インタイム・サービス」とは、定められた遅延を超えずにパケットを配信するサービスのことを指している。
一方、「オンタイム・サービス」とは、定められた時間枠内でのパケットの到着を保証するサービスのことである(図5)。
図5 インタイム・サービスとオンタイム・サービスの違い
出所 “Representative use cases and key network requirements for Network 2030”
〔2〕協調サービス
基盤サービスの2つ目である「協調サービス」についてサブグループ2文書では、バーチャルオーケストラによるコンサートの例を紹介している。
世界中の別々の場所にいる演奏者の等身大のホログラム(3D映像)が、ステージ上でアンサンブルをするという設定だ。ステージ上には指揮者がいて、その指揮によってさまざまな場所にいる演奏者が演奏をする。
このとき、指揮者の指示は離れた演奏者に同じように届かなければならないし、演奏者は同じテンポで演奏をしなければならない。このような状況で活用されるのが「協調サービス」である。
時間や順序、アプリケーションによって定義された特性などの相互に絡み合う制約を踏まえて、複数のデータの流れを協調する。
〔3〕定性通信サービス
基盤サービスの3つ目の「定性通信サービス」については、エッカート氏は「定量通信(Quantitative Communication)サービス」と比較して紹介している。
現在の「定量通信サービス」では、送信者が送ったものと同じものを受信者が受け取ることになっており、パケットロスなどが生じた場合は、それを再送していた。
一方、「定性通信サービス」では、パケット内のペイロード(情報)に想定的な優先順位づけをし、必要に応じてネットワーク側で優先度の低いペイロードを選択的に廃棄することを可能にしている。このようにして、再送の必要性を最小限に抑えることで、アプリケーションにとって重要なデータを配信できるようにするものである。
ITU-Tでは、このような3つの基盤サービスを組み合わせて、表2で紹介した複合サービスのほか、次号で紹介するさまざまなユースケースの検討が進んでいる。
なお、FG NET2030の第7回目の全体会議は2020年6月15日から19日に東京で開催される予定だったが、新型コロナの影響もあり、オンラインでの開催に変更されている注18。
東京での開催が中止になったのは残念だが、高度なネットワークの重要性が高まっている今、オンラインの全体会議においてどのような議論が行われるのか期待したい。
(後編につづく)
筆者Profile
新井 宏征(あらい ひろゆき)
株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオプランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。
インプレスSmartGrid ニューズレター コントリビューティングエディター。