[動き出したNetwork 2030の取り組みと全体像]

動き出したNetwork 2030の取り組みと全体像《後編》

― 7つの代表的なユースケースと「ホログラフィック通信」「触覚通信」「デジタルツイン」 ―
2020/07/11
(土)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

本誌6月号の前編では、ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)が、2030年以降の新しいネットワークの姿を考える「Network 2030」の検討を「FG NET-2030」(注1)で開始したことについて解説し、Network 2030のサービス分類には、基盤サービスと複合サービスの2種類があり、それぞれ表1のようなサービスを想定していることを紹介した。
今回は、Network 2030の代表的なユースケースを整理しながら、ホログラフィック通信や医療の遠隔手術などが実現可能な触覚通信、デジタルツインを活用したデジタルツインシティなどを紹介する。

 表1は、ITU-T SG13(第13研究委員会)の中のフォーカスグループ「FG NET-2030」内で、Network 2030の機能と技術を検討しているサブグループ2が、2019年10月に公開した成果物「Network 2030のための新サービスと新機能:詳細、技術ギャップとパフォーマンス目標の分析」注2(以下、サブグループ2文書と表記)で紹介された分類である。

表1 Network 2030のサービス分類

表1 Network 2030のサービス分類

出所 “New Services and Capabilities for Network 2030: Description, Technical Gap and Performance Target Analysis”をもとに筆者作成

Network 2030の代表的なユースケース一覧

 FG NET-2030では、ユースケースと要件を検討している「サブグループ1」が2020年1月に公開した「Network 2030の代表的なユースケースと主なネットワーク要件」注3(以下、「サブグループ1文書」と表記)において、Network 2030の重要な要件を検討するために、表2に示す代表的なユースケースとして、7つを取り上げている。

表2 Network 2030の代表的なユースケース

表2 Network 2030の代表的なユースケース

出所 “Representative use cases and key network requirements for Network 2030”をもとに筆者作成

 ここでは、両方の資料に共通している「ホログラフィック通信」と「触覚通信」について解説する。

 さらに、サブグループ1文書に含まれている残り5つのユースケースのうち、日本でもイメージしやすい「デジタルツイン」について紹介する。

ホログラフィック通信:3次元の映像を記録・再生する技術

〔1〕総務省の技術ロードマップ

 「ホログラフィック通信」とは、ホログラフィ技術注4を活用し、3次元の映像を記録・再生する技術である。サブグループ2文書でも「スター・ウォーズ」や「マイノリティ・レポート」などの映画で登場すると紹介されているように、次世代コミュニケーション手段の例として、フィクションなどでも紹介されることが多い技術である。

 総務省が2020年1月に公開した「ワイヤレス分野の技術ロードマップ注5」によれば、「ホログラム技術とは、光の波長程度の微細な干渉縞にコヒーレント(波動が互いに干渉しあう性質)な光(例:レーザー光)を照射し、回折した光の干渉によって3次元映像を記録・再生する技術」だと定義されている。

 そのうえで、この技術を用いると、3D眼鏡などの特殊器具も必要なく、しかも目の疲労をともなわずに3次元映像を自然に見られるようになる。

 図1に示す総務省の技術ロードマップでは、ホログラム技術は、2030年前半にかけては「超高精細映像システム」や「AR/VR等を活用した映像視聴システム」などに活用され、それ以降は「3次元映像システム」や「遠隔医療システム」で活用されることが期待されており、2040年代の中頃にかけて進化していく技術だと見なされている。

図1 ホログラムを含む映像伝送分野のロードマップ

図1 ホログラムを含む映像伝送分野のロードマップ

出所 ワイヤレス分野の技術ロードマップ

〔2〕ホログラフィ技術の進化と用途の拡大

 同技術ロードマップで紹介されている以外の活用分野として、サブグループ2文書によれば、今後、ホログラフィ技術の進化によって、遠隔でのトラブルシューティングや機械などの修理のためのアプリケーションでの活用のほか、教育目的のために利用される可能性があることを指摘している。

 このようなホログラムを活用したサービスは、すでに5Gでもサービスの実現が期待されているほか、いくつかのサービスが実際に提供されている。しかし、FG NET-2030においては、特に高度に没入型(Immersive)のARやVRのデータを伝送する場合、遅延(レイテンシー)と帯域幅の点から、既存のネットワークではホログラフィック通信を行うには十分ではないとしており、Network 2030の必要性を主張している。


▼ 注1
FG NET-2030:Focus Group NET-2030。NET-2030(Network 2030)を検討する時限的グループ。Network 2030は、10年後の2030年を見据えて、ITU-Tが目指す固定網に関する次世代ネットワーク技術(光ネットワーク)。

▼ 注2
New Services and Capabilities for Network 2030: Description, Technical Gap and Performance Target Analysis

▼ 注3
Representative use cases and key network requirements for Network 2030

▼ 注4
「ホログラフィ」や「ホログラム」等の表記については、開発者やサービスによって表記のゆれがあるが、本稿では後述する定義なども参考にし、「ホログラム」は3Dで表示される物体のこと、「ホログラフィ」はホログラムをつくる技術のこと、という定義を採用する。ただし、引用する文書については、引用元の表記に従う。
ホログラムの定義:<光は「波」の一種で高速通信に使われているが,日常生活にあふれている光にも膨大な情報が含まれている.この情報を,写真のフィルムなど感光性の媒体に,干渉現象を使って完全に近いかたちで記録する技術がホログラフィーである。またホログラムとは,ホログラフィーで光の情報を記録した感光媒体を指し,技術の名前であるホログラフィーとは区別して用いる.>(出所:「ホログラムとは何ですか?」NTT技術ジャーナル2004 vol.16 No.6

▼ 注5
https://www.soumu.go.jp/main_content/000669891.pdf 参照。

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