欧州における6Gの取り組み
図7 Hexa-X(ヘキサ・エックス)における6G分野のテーマ
〔1〕「Hexa-X」注8プロジェクト:3カ年計画がスタート
欧州内での6Gの取り組みとしては、前出の図2に示したフィンランドのオウル大学(University of Oulu)が進める、6Genesisプロジェクトが知られている注9。このプロジェクトは、現在、オウル大学のほか、同じくフィンランドのアールト大学(Aalto University)なども加わった6G Flagship注10というプロジェクト名で活動が続けられている。
そのような中、EU(European Union、欧州連合)として進めている6G関連のプロジェクトが「Hexa-X」(ヘキサ・エックス)プロジェクトである。2020年12月7日に、このプロジェクト全体のコーディネートを務めるノキアと、技術マネジャー役を務めるエリクソンから、それぞれプレスリリースが発表された注11。
「Hexa-X」プロジェクトは2021年1月から開始されており、3年間の予定で進められる注12。プロジェクトメンバーは、ノキア、エリクソンに加え、インテルやシーメンスなどのほか、オレンジ(旧称:フランステレコム)やテレフォニカ(スペイン)などのキャリア、そしてフィンランドのオウル大学やアールト大学などが参加している。
同プロジェクトは、6Gのビジョンの検討などから開始し、2021年2月28日にはプロジェクトの最初の成果物として“6G Vision, use cases and key societal values ”注13(6Gのビジョン、ユースケース、そして主な社会的価値)というレポートを公表している。
〔2〕6Gの課題:6つの分野を整理
“6G Vision, use cases and key societal values ”によると、Hexa-Xが考える6Gは、総務省のBeyond 5Gで掲げられているデジタル世界と物理世界の融合に加えて、人間世界(Human World)を融合したものと定義したうえで、ビジョンを表すキーワードとして、
- 信頼性(Trustworthiness)
- 持続可能性(Sustainability)
- 包摂性(Inclusion)注14
という3つを掲げている。
さらに、同プロジェクトが取り組む6Gのリサーチ上のテーマとして、図7の6つの分野を示している。
〔3〕Hexa-Xの5つのカテゴリーとユースケース
またレポートでは、現時点で検討されているHexa-Xのユースケースとして、大きく5つのカテゴリーを特定し(表1)、具体的なユースケースが検討されている。
表1 Hexa-Xで検討されている5つのカテゴリーとユースケースの例
※1 コボット:cobot。Collaborative Robotの略で、ヒトと同じ空間で作業を行い、モノづくりなどの生産性や作業性を向上させるロボットのこと(日立総合計画研究所)
※2 プレシジョン・ヘルスケア:Precision Health Care、精密保健。人間各個人の健康は、遺伝子や環境、ライフスタイルなどを統合したものであると考え、各個人の疾病予防や健康増進のためのケアを探索すること。
出所 “6G Vision, use cases and key societal values” をもとに著者作成
Hexa-Xのビジョンや具体的な仕様は、今後もアップデートされていくとされているが、具体的なスケジュールは執筆時点では公表されていない。
中国や韓国等の取り組み
〔1〕中国でも6Gの研究開発活動が正式に始動
本稿で紹介した日米欧以外の国でも、6Gに関する取り組みは積極的に行われている。
例えば、中国は、2019年11月に科学技術部(省)が「6G技術研究開発活動始動会議」を開き、6G技術研究開発推進活動チームと全体専門家チームの設立を発表したことが報道注15されている。これによって、中国における6Gの研究開発活動が正式に始動した。
〔2〕韓国は2026年にパイロットプロジェクト開始を目指す
韓国も6Gの取り組みを積極的に行っている。スウェーデンは、科学やイノベーションに関する国際的な連携を進めるために東京やソウル、北京などの大使館に科学・イノベーションオフィス(Offices of Science and Innovation)を置いているが、そのソウルオフィスのブログ記事として、韓国の6Gの取り組みが紹介されていた注16。
その記事中にある、韓国のMSIT(Ministry of Science and ICT、科学技術情報通信部)が公表したというリンクは切れてしまっているが、記事によると、韓国は2021年からの5年間で、6G関連技術に対して1億4,200万ユーロ(約183億1,800万円、1ユーロ129円換算)を投資し、2026年には6Gのパイロットプロジェクト(試験的プロジェクト)を始める予定だ。また2028年には、最初の6Gネットワークの運用を開始し、2030年頃の商用化を狙っている。
* * *
ここまで紹介した国の取り組みとあわせて、さまざまな企業が5Gの導入と並行して、6Gの研究開発を積極的に進めている。5Gの進化とあわせて、次の10年(2030年)の新しい移動通信システムがどのようなものになっていくのか、引き続き動向を注視したい。
筆者Profile
新井 宏征(あらい ひろゆき)
株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオプランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。
インプレスSmartGrid ニューズレター コントリビューティングエディター。
▼ 注8
Hexaはギリシャ語で「6」を表す単語。
▼ 注9
2018年4月にThe Academy of Finlandが国家研究資金プログラムに指定。
▼ 注10
https://www.oulu.fi/6gflagship/
▼ 注11
・ノキアのプレスリリース。
・エリクソンのプレスリリース。
▼ 注12
https://5g-ppp.eu/hexa-x/
▼ 注13
https://hexa-x.eu/wp-content/uploads/2021/02/Hexa-X_D1.1.pdf
▼ 注14
包摂性:いかなる属性も排除されないことを意味する。
▼ 注15
中国、6G技術の研究開発を正式に始動 | SciencePortal China
▼ 注16
South Korea’s Plans for 6G | Offices of Science and Innovation