[特別レポート]

5Gの次を見据えた世界の最新6G戦略

― 積極的に展開する日米欧の取り組み ―
2021/04/11
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

日本における6Gの取り組み

 日本の総務省を中心として公表された「推進戦略」は、日本としての6Gに関連する今後の取り組みの方向性を示している。

 これによると、6Gの導入が見込まれる2030年頃の社会像は、サイバー(仮想)空間とリアル(現実)空間が一体化する世界(CPS:Cyber Physical System)が進展すると想定している。

 この社会では、現実世界のデータがサイバー空間で分析され、その分析結果を現実世界へフィードバックして新たな価値が創造され、それによって介護や医療、産業などの社会課題が解決される。これは、Society 5.0のコンセプトが実現された世界であり、この実現のために、6Gを中心とする情報通信ネットワーク基盤が活用されることを想定している。

 「推進戦略」では、Beyond 5Gで活用する技術として仮想化による汎用機器(ホワイトボックス)注4の活用などにも触れながら、Beyond 5Gに求められる機能として、図4に示すようなものを挙げている。

図4 総務省が掲げる6G(Beyond 5G)に求められる機能

図4 総務省が掲げる6G(Beyond 5G)に求められる機能

出所 Beyond 5G推進戦略(概要)

 このうち図4の上部に示す「超高速・大容量」「超低遅延」「超多数同時接続」の3機能は、既存の5Gの特徴をさらに高度化させたものである。Beyond 5Gは、これ以外にさらに「自律性」「拡張性」「超安全・信頼性」「超低消費電力」といった特徴を追加することを掲げている。

 また「推進戦略」では、単にこのような機能を実現する移動通信システムを実現するだけではなく、Beyond 5Gのインフラを構成するハードウェアおよびソフトウェアの世界市場において、市場シェアの3割程度を獲得するなど、野心的な目標を掲げている。この目標を達成するために示されているのが、図5に示す「Beyond 5G推進戦略ロードマップ」である。

図5 Beyond 5G推進戦略ロードマップ

図5 Beyond 5G推進戦略ロードマップ

出所 総務省、「Beyond 5G推進戦略」、令和2(2020)年6月30日

6Gの導入時期:2030年頃を想定した3つの戦略

 総務省の推進戦略では、2030年頃に6Gの導入が見込まれるという想定で、そこまでの約10年間を、大きく2つのフェーズに分けている。

〔1〕前半:先行的取組フェーズ

 前半は「先行的取組フェーズ」(2021〜2025年)と呼び、ここで集中的な取り組みを行い、「Beyond 5G ready」な(5Gの浸透が済み、将来の6Gまで見据えた)環境づくりに向けた成功のモデルケースを多数創出すると定めている。この結果を、2025年に開催される大阪・関西万博において「Beyond 5G readyショーケース」として公表し、その後の取り組みのグローバル展開を加速させるきっかけとすることを目論んでいる。

〔2〕後半:取組の加速化フェーズ

 後半のフェーズを「取組の加速化フェーズ」(2025〜2030年)と呼んでいる。このフェーズでの取り組みは、①世界市場に向けた取り組み、②世界のノウハウを日本に呼び込むこと、の両方を目指すという意味合いで「双方向性を持ったグローバル戦略」と呼んでいる。

〔3〕3つの戦略に基づく具体的な取り組み

 これらの大まかなスケジュールをもとに、具体的な取り組みを次の3つに分解し、それぞれ具体的なロードマップを示している。

  1. 研究開発結果を3GPPやITUなどでの国際標準に反映させることを目標とした「知財・標準化戦略」
  2. 図4で掲げた機能を実現するうえで中核となり得る、技術の研究開発に取り組む「研究開発戦略」
  3. あらゆる人が必要なリテラシーを備え、Society 5.0の恩恵を十分に享受できる環境である、Beyond 5G readyな環境を早期に実現するための「展開戦略」

〔4〕Beyond 5G 新経営戦略センターを設置

 このようなロードマップにしたがって戦略を進めていくため、先述したBeyond 5G推進コンソーシアムと同時にBeyond 5G 新経営戦略センターを立ち上げ、具体的な活動支援などを進めていく。

 日本では総務省のほか、経済産業省が「ポスト5G」と呼ぶ、5G以降の移動通信システムなどで使われる半導体などの関連技術の開発を推進するための取り組みとして、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」注5を進めている。

米国における6Gの取り組み

 米国ではワシントンD.C.に本部を置くATIS(アティス。Alliance for Telecommunications Industry Solutions、電気通信標準化連合)による6Gの取り組みが動き始めている。

〔1〕Next G Allianceを設置

 そのきっかけは、ATISが2020年5月20日公表したプレスリリース注6による行動の呼びかけ(Call to Action)である。このリリースでは、6G開発のタイムラインはすでに始まっているとして、6Gにおける米国のリーダーシップを促進するために、政府や学術機関、産業界の垣根を越えたコラボレーションが必要だと主張した。

 その後、同年10月13日にはこの呼びかけを踏まえた取り組みとしてNext G Allianceを設立したプレスリリース注7を発表している。Next G Allianceは、5Gの進化と6Gの開発の両方に取り組んでいくことを目的として立ち上げられた(図6)。

図6 Next G AllianceのWebサイト

図6 Next G AllianceのWebサイト

出所 https://nextgalliance.org/

〔2〕Next G Allianceの3つの戦略アクション

 Next G Allianceは、具体的な戦略アクションとして、当面は次の3つに焦点を当てて取り組む。

  1. 米国としての6Gロードマップを策定し、5Gと6Gの双方における研究開発や標準化、製造、採用におけるグローバルリーダーとなる。
  2. 米国のテクノロジー業界を6G以降のリーダーシップを発揮するための中核的な優先事項を元に連携させ、政府の政策や資金調達に影響を与える。
  3. 早期に着手する行動や戦略を特定、定義することで、5Gと6G技術の迅速な商用化を促進し、国内外における広範囲な普及を推進する。

 Next G Allianceの設立メンバーには、AT&T、T-モバイル、ベライゾンといった通信キャリアのほか、シスコ、エリクソン、ノキアといった通信機器メーカー、そしてアップルやグーグル、マイクロソフト、フェイスブック、デル、HP、インテル、クアルコムなどのも参加している。

 これらの企業は、Next G Allianceにおける3種類のメンバーシップのうち、「フルメンバー」(正会員)の資格が与えられている。同団体は、先に紹介したとおり、米国の政策に影響を与えることを目的としているため、連邦政府との契約を禁じられている組織は正会員として加入することはできない。日本からはNTTドコモとNEC、シャープが「コントリビューティング・メンバー」として参加している。


▼ 注4
ホワイトボックス:White Box。OSなどのソフトウェアを含まず、ハードウェアだけで提供される機器のこと。

▼ 注5
https://www.meti.go.jp/press/2020/02/20210205005/20210205005-1.pdf

▼ 注6
ATIS Issues a Call to Action to Promote U.S. 6G Leadership

▼ 注7
ATIS Launches Next G Alliance to Advance North American Leadership in 6G

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