[特別レポート]

需給調整市場/特定計量制度を見据えビジネス化に進むVPP

― NTTスマイルエナジーがVPP構築実証の成果を発表 ―
2020/11/07
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

2016〜2020年度の5カ年計画で推進されているVPP構築実証事業(注1)は、2020年度に最終年度を迎えている。これと連動して電動車(EV/PHEV)の普及を背景に、2020〜2022年度の3カ年計画で、ダイナミックプライシング(時間帯別料金)による電動車用蓄電池に関する充電シフト(注2)の実証事業も推進されている。
ここでは、初年度(2016年度)から同実証事業に参加しているNTTスマイルエナジー(NSE、表1)の取締役 価値づくり本部長 川村 暢(かわむら とおる)氏の講演「家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」(2020年9月11日、[関西]スマートエネルギーWeek 2020)をベースに、同社の実証成果を中心にレポートする。
2021年度の需給調整市場の創設や2022年度の特定計量制度の施行を見据えて、VPP実証事業がいよいよビジネス化に向かって動き出してきた。

NTTスマイルエナジーのビジネス展開

表1 NTTスマイルエナジー(NSE)のプロフィール

表1 NTTスマイルエナジー(NSE)のプロフィール

出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」(2020年9月11日)をもとに編集部で作成

〔1〕シェア65%を占める太陽光発電遠隔監視サービス「エコめがね」

 NTTスマイルエナジーは、2011年3月11日に発生した東日本大震災直後の2011年6月に、脱炭素化を目指し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)が普及していくことを予測して、NTT西日本とオムロンの合弁会社として約10名で設立された。

 同社の最初の事業は、低圧太陽光発電の遠隔監視サービス「エコめがね」注3で、現在、この「エコめがね」は、市場の過半数を超える65%のシェアを獲得している(図1)。

図1 NTTスマイルエナジーの「エコめがね」の普及状況(2020年7月現在)

図1 NTTスマイルエナジーの「エコめがね」の普及状況(2020年7月現在)

出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日

 エコメガネは、

  1. 全国約7.2万カ所の太陽光発電とつながっており、
  2. その総発電容量は、2.26GW(図1、226万kWは原子力発電約2基分)、
  3. 総発電量は、2,560GWh/年(2019年の実績)注4
  4. 連携する販売パートナーは、B2B2Xモデル注5をベースに約3,200社、

となっている。

〔2〕IoTとエネルギーを連携させて脱炭素化

 NTTスマイルエナジーは、図2に示すように、エコめがねをベースにIoTとエネルギーを連携させて、多彩なサービスを提供している。例えば、学校PV注6や、家庭向けPPA注7をはじめ、家庭などに急速に普及し始めている蓄電池の遠隔制御やAI制御などによって、今後、「VPP/ちくでんエコめがね」「法人向け蓄電付きPPA」などのサービスを強化していく。これらによって、顧客の脱炭素化(パリ協定の実現)をサポートしている。

図2 脱炭素化を目指すNTTスマイルエナジーの事業展開

図2 脱炭素化を目指すNTTスマイルエナジーの事業展開

出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日

VPP構築実証事業とNTTスマイルエナジーの役割

 NTTスマイルエナジーが5年間のVPP構築実証事業で展開している、家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業と同社の位置づけを見てみよう。

〔1〕関西VPPプロジェクトにおけるNSEの位置づけ

 2020年度のVPP構築実証事業のVPPアグリゲーター事業(B事業といわれる)は、10個のプロジェクトに総数111社が採択され注8たが、NTTスマイルエナジーは、関西VPPプロジェクトのリソースアグリゲーター(RA)として所属している。

 図3は、総勢29社で構成される関西VPPプロジェクト(うちRAは17社、残り12社は実証協力者)で、NTTスマイルエナジーは、図3の桃色の枠に位置づけられる。

  1. アグリゲーションコーディネーター(AC)である関西電力は、送配電事業者などと電力の需給調整量の取引を行う。同時に需給調整用の電力をRA(NSE)から調達する。
  2. ACから指示を受け、それに応動するのがRAのNTTスマイルエナジーである。同社は、図3に示すように、契約している敷設済みの家庭用蓄電池約2,000台(調整力:約4.0MW注9)を、ゲートウェイ(GW:接続装置)を介して、高速に蓄電池の群制御(充放電の制御)を行い、AC(関西電力)からの指示に応動して制御可能な電力量(この場合、家庭用蓄電池の制御量)を伝える。

図3 関西VPPプロジェクトにおけるNTTスマイルエナジーの役割

図3 関西VPPプロジェクトにおけるNTTスマイルエナジーの役割

出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日

表2 図3に登場する用語解説

表2 図3に登場する用語解説

DR:Demand Response、電力の需要側応答。電力の供給状況に応じて、アグリゲーターが需要家側(家庭)の電力需要(消費パターン)を変化させるよう要請する取り組み。
出所 各種資料をもとに編集部で作成


▼ 注1
VPP構築実証事業:政府の補助金によって2016〜2020年度の5カ年間行われている、需要家側のエネルギーリソースを活用した実証事業。総予算229億円で、2020年度はその最終年度となる。
本誌2020年5月号の特集「VPP実証事業の成果と展望」参照。

▼ 注2
電動車(EV/PHEV)の充電シフト:電動車の充電タイミングを、電気料金の高い時間帯から安い時間帯に誘導(ピークシフト)すること。

▼ 注3
エコめがね:スマートフォンやパソコンなどによって発電情報を確認できる、クラウドサーバを利用した太陽光発電遠隔監視サービス。具体的には発電量、消費量などの電力情報の見える化(「見える」)をはじめ、発電状況の診断やアラートメールによる発電状況の見守り(「見守る」)などが可能となる。

▼ 注4
https://www.eco-megane.jp/

▼ 注5
B2B2Xモデル:Business to Business to Xモデル。NTTスマイルエナジー(B:パートナー)⇒ 顧客層をもつサービス提供者(B:メインプレーヤー。ミドルBともいわれる)⇒ X(エンドユーザー:個人・企業)」という流れでサービスを提供するビジネスモデル。NTTスマイルエナジーはメインプレーヤーではなく、あくまでもメインプレーヤーのパートナーとなる。

▼ 注6
学校PV:PVはPhotovoltaicの略で学校向け太陽光発電のこと。太陽光発電はイニシャルコストが高いので、その導入費用をNTTスマイルエナジーが負担して、イニシャルコストゼロで学校の屋上に太陽光パネルを設置するサービス。

▼ 注7
PPA:Power Purchase Agreement、需要家と発電事業者の間で締結する、電力購入契約のこと。需要家の屋根上に第三者が太陽光発電設備を設置し、電力を供給することから第三者所有モデルとも呼ばれる。NTTスマイルエナジーは、2020年5月11日から、独立型店舗等をもつ法人向けに蓄電池付き太陽光発電設備を無償設置し、電力を供給するPPAモデルの提供を開始した。
https://nttse.com/pressrelease/2020/05-11/1654

▼ 注8
2020年度のVPP構築実証事業には、A事業(VPP基盤整備事業)、B事業(VPPアグリゲーション事業)、C事業(リソース導入促進事業)という3つの事業がある。

▼ 注9
1台の定格入出力は2〜4kWなので、例えば1台が2kWとすると、約2,000台×2kW=約4,000kW=約4MWとなる。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...