[特別レポート]

ファーウェイのハイブリッド蓄電システム戦略!

― AIを駆使しアーク防止機能で火災事故も防止へ ―
2021/06/04
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

パワコンの安全性を強化:直流アーク防止機能(AFCI)を搭載

〔1〕火災事故を防止するAFCI

(1)米国電気工事規程によるアーク検出/遮断器設置義務

 太陽光パネルおよびパワコンの普及に伴い、太陽光発電システムに関する火災なども含む安全性の向上が求められるようになってきた。

 例えば、米国では、店舗の屋根に設置した太陽光パネルで火災が発生したという事故が起こり訴訟問題にまで発展したため、社会的な関心が高まった。これらを背景に、米国では、パワコンの安全性を向上させるため、直流アーク防止機能(AFCI、後述)を義務付ける規程が策定された。

 具体的には、太陽光発電システムの火災事故の防止手段として、直流電路(直流電流が流れている回路)へのアーク検出/遮断器(AFCI:Arc Fault Circuit Interrupter)の設置が、NEC2011(National Electrical Code 2011、2011年版の米国電気工事規程)において義務づけられ、その試験方法として UL1699B規格が策定された注5

(2)AIを用いて蓄積した100万種超のアークパターン

 このような米国の動向を踏まえ、世界のパワコン市場で5年連続トップシェア注6を誇るファーウェイでは、日本市場においても、このAFCIを搭載したパワコンを市場に投入した。

 先述したように、ファーウェイは全世界で、出力180GW分もの大量なパワコンを出荷している。この導入実績をもとに、すでに、太陽光発電システムにおける火災の主要原因となるアーク放電(写真3)については、AIの学習機能を用いて、100万種以上のアークパターン(アーク放電の特性)をベータベースとして蓄積している。これを利用してファーウェイは、発生したアークパターンを正確に検出する技術を開発した。

写真3 アーク放電の発生原因とアークの危険性

写真3 アーク放電の発生原因とアークの危険性

出所 『HUAWEI:FusionSolar「住宅用蓄電システム」、Interop 2021』をもとに編集部で加筆修正して作成

 この技術によって、太陽光発電システムで主要な火災原因となるアーク放電を検出後、0.5秒以内にその直流アーク放電を瞬時に遮断し、安全性を向上させている。この点も、ハイブリッド型パワコン「SUN2000」の大きな特徴だ。

〔2〕AIで蓄電残量(SOC)の予測精度を向上

 さらに、ファーウェイのモジュール型蓄電システム(LUNA2000シリーズ)は、モジュールごとに電池管理ユニット(BMU)注7を搭載しており、個々のモジュールをAI管理によって個別に独立制御することで、蓄電残量(SOC:State Of Charge)の予測精度を向上させている。

 これによって、新しい電池と古い電池が共存する環境でも、効率の良い充電が可能となるとしている。

 さらに、LUNA2000シリーズでは、蓄電池筐体の内部に複数ある蓄電モジュールごとに、センサーを8個ずつ搭載して、内部の異常を常時監視し、万が一のトラブルに対応する機能も備えている。

スマートフォンから住宅全体のエネルギーを一元管理

 ファーウェイの住宅用ハイブリッド蓄電システムは、同システムを導入したスマートハウス全体のエネルギーを、スマートフォンから一元管理できるよう、太陽光発電管理ソフトウェア「FusionSolar APP」を提供している(写真4)。

写真4 スマートフォンで住宅全体のエネルギー管理

写真4 スマートフォンで住宅全体のエネルギー管理

出所 『HUAWEI:FusionSolar「住宅用蓄電システム」、Interop 2021

 FusionSolar APPは、モバイル用のAndroid/ iOSなどで動作する各種ブラウザに対応しており、写真4に示すように、屋上に設置された太陽光発電パネルの発電状況や蓄電池の蓄電状況をはじめ、住宅用の全館空調やテレビ、加湿器などの個別負荷のエネルギー管理などが可能となっている。

 さらに、投資家が投資目的で全国に展開している分散発電所(太陽光発電所等)の統括管理や、各太陽光パネルの稼働状況をリアルタイムに表示することも可能になっている。


▼ 注5
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「太陽光発電の直流電気安全のための手引きと技術情報(第2版)」(2019年4月)の36ページ参照。

・UL1699B:Standard for Photovoltaic (PV) DC Arc-Fault Circuit Protection、太陽光発電(PV)に対する直流アーク障害回路保護の標準規格(2018年8月)。
・UL:Underwriters Laboratories Inc.、米国保険業者安全試験所。UL規格はULが策定する製品安全に関する規格。
https://standardscatalog.ul.com/ProductDetail.aspx?productId=UL1699B

▼ 注6
ファーウェイ速報「太陽光パワコンの世界シェア、5年連続ファーウェイが1位に —英国調査機関Wood Mackenzie調査、2020年6月12日

▼ 注7
BMU:Battery Management Unit、電池管理ユニット。電池の各セルの電圧やモジュール温度などを測定し、電池を監視・制御(保護)する装置。各セル間の電圧バランスを維持する機能も搭載している。

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