[クローズアップ]

電力供給システムを進化させる米国PRATEXO(プラテクソ)社の「エッジマイクロクラウド」

― 地域マイクログリッドでの活用に期待 ―
2023/02/07
(火)
SmartGridニューズレター編集部

日新システムズ 竹内 嘉一氏に聞く

地域マイクログリッドのプラットフォームとして期待

 日新システムズは、エネルギー事業者向け電力供給システムなどの事業展開を行っているソリューションベンダだ。今回、PRATEXOの日本展開にあたっていち早くアライアンスを申し出ている。「Mathieu氏から熱いオファーをいただき、いろいろ調べていくうちに当社の事業との親和性を強く感じました」と、代表取締役社長 竹内 嘉一氏はPRATEXOの第一印象を語る。
 日新システムズでは、エリアアグリゲーション注10や離島のマイクログリッド注11化の事業を進めている。同社は、電力供給を巡る環境変化により、地域マイクログリッド注12(図6)の構築は避けられないと見ており、その次のステップとして必要となるのが、マイクログリッド内での電力融通になると竹内氏は考えている。「それによって電力需給の最適化、効率化が一気に進みます。その課金システムとしてブロックチェーン技術の活用が進められていますが、私はエッジマイクロクラウドにも可能性があると考えています」(竹内氏)。
 マイクログリッド内の各戸で、どの世帯がどれくらい電力を供給したか、使用したか、それをエッジクラウドシステムで検出し、管理や課金を行うというアイデアだ。

株式会社日新システムズ 代表取締役社長 竹内 嘉一(たけうち よしかず) 氏

株式会社日新システムズ 代表取締役社長
竹内 嘉一(たけうち よしかず) 氏

図6 地域の系統線を活用したエネルギー面的利用システム(地域マイクログリッド)の概要(資源エネルギー庁)

図1 Googleの温室効果ガス削減方法の変遷

出所 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/04_06.pdf

電力供給システム全体の安定化、レジリエンス向上に期待

 日新システムズはエッジコンピューティングに長年携わってきた経験からその必要性を実感し、PRATEXO同様にエッジ部分でのAI活用や、より効率的なデータ活用の技術を開発してきた。ただそのアプローチは異なっており、「我々はエッジの自律分散運用で課題を解決しようとしていましたが、PRATEXOはクラウドの技術をエッジ部分に導入する、つまりエッジのデータを束ねて対応範囲を広げたり、AI化などを進めていこうという発想で、そこに我々は興味をもちました」(竹内氏)。
 日新システムズでは、現在、沖縄県宮古島市の宮古島でエリアアグリゲーションを展開している注13(図7)が、その際、ある程度のエリアに区切って電力需給を管理・運用していく必要がある。そのためのシステムとして、PRATEXO社のエッジマイクロクラウドがフィットすると期待している。エッジノードからの情報をマイクロクラウドに束ねることで、一般的なクラウドコンピューティングに近い各種処理や管理が行えるためだ。
 電力供給システムは低圧・高圧・特別高圧注14と階層に分かれているが、エッジマイクロクラウドであればそれら階層ごとに管理が可能となる。
さらに大きなメリットとして竹内氏は、エッジマイクロクラウドにおけるデータ処理のレイテンシーの低さを挙げる。非常に高いデータ処理のリアルタイム性により、電力供給システム全体の運用に優れた安定性、信頼性が確保できる。さらに系統の安定化など、地域全体のレジリエンス向上を図ることができる。

図7 日新システムズで導入された宮古島実証事業でのエリアアグリゲーションシステム

図7 日新システムズで導入された宮古島実証事業でのエリアアグリゲーションシステム

出所 https://www.co-nss.co.jp/press/20210901.php

電力供給システムのパッケージ化、新たなサービス提供も進行中

 日新システムズでは、沖縄地区の離島において地域マイクログリッド展開で得た知見をもとに、電力供給システムのパッケージ化を進めている。その際、従来からのアプリケーションのほか、エッジマイクロクラウドによる新サービスを加え、地域マイクログリッドシステムの価値を高めようとしている。このパッケージは今年春から実証実験をスタートし、国内の実績を増やしていく予定で、これにより沖縄地区以外での離島や山間部などで、地域の電力会社とともにビジネスを広げていくほか、海外への展開も視野に入れている。
 「さらに、地域の新電力や自治体の新電力などにも注力していこうと考えています。燃料費高騰などの逆風の中でも商談数は増えており、今後のビジネスの進展に期待しています」と竹内氏は語っている。

企業Profile

PRATEXO(プラテクソ)

2019年、NASA(米国の航空宇宙局)やPayPal(ペイパル)などで大規模ソフトウェア開発などを担当してきたスタッフにより設立。独自開発のエッジマイクロクラウドをプラットフォームに、Dresser(米国ドレッサー)、Halliburton(米国ハリバートン)、 GE(米国ゼネラル・エレクトリック)など電力・エネルギー関連機器のグローバル企業でCTOを歴任した技術者が開発した電力ソリューションなどを提供している。米国、スウェーデンなどに6拠点を展開。社名は「縁、端(エッジ、ボーダー)」周辺での活動を表すラテン語「praetexo」に由来している。

PRATEXO

株式会社日新システムズ

1984年、日本における重電8社の1つである日新電機において、ソフトウェア開発やシステム設計を行う会社として設立。エネルギーソリューション、IoTソリューション、エンジニアリングサービスを展開している。2016年より宮古島市島嶼型(とうしょがた)スマートコミュニティ実証事業において、電力需給制御に必要なクラウドシステムおよび屋外で使用できるゲートウェイの技術開発を行っている。

日新システムズ


▼ 注10
エリアアグリゲーション:蓄電池、エコ給湯機、EV充電器など複数のエネルギーリソースを有効活用するための電力需給制御システム。エリアアグリゲーションは株式会社ネクステムズの商標。

▼ 注11
マイクログリッド:Microgrid、小規模電力網。エネルギー供給源と消費施設を一定の範囲に限定し、エネルギーを地産地消する仕組み。

▼ 注12
地域マイクログリッド:政府は、2020~2022年度の3カ年計画で「系統線による地域マイクログリッド」の構築支援事業を開始している。マイクログリッドは、再エネの主力電源時代の重要な「分散型エネルギープラットフォーム」として、電力供給システムのレジリエンス強化の面からも期待されている。

▼ 注13
https://www.co-nss.co.jp/press/20210901.php
https://www.co-nss.co.jp/press/20220331.php

▼ 注14
低圧・高圧・特別高圧:電気設備基準における送電電圧の規格。低圧は主に一般家庭向け(直流750V以下、交流600V以下)、高圧は主にビルや工場向け(直流750V超~7000V以下、交流600V超~7000V以下)、特別高圧は大量の電力を使用する施設向け(直流・交流7000V超)。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...