全国16の地域新電力と連携した実証作業
日本ガイシ株式会社と株式会社リコーの合弁会社であるNR-Power Lab株式会社(以下、NRパワーラボ)注1は、自社で開発してきた再エネ普及促進のためのVPP注2システム/サービスの社会実装に向けた実証作業(図1)を、全国の地域新電力16社(図2)と連携して行っていることを発表した(写真)。
実証は2024年4月から1年間の予定。また、この取り組みには日本最大の地域新電力の団体である、一般社団法人ローカルグッド創成支援機構〔平成26(2014)年9月3日設立〕がアドバイザーとして参加する。
写真 関係者による実証作業発表の様子(2023年12月12日)
左からNR Power Lab 株式会社 シニアエンジニア 黒田 幹朗(くろだ みきろう)氏、NR Power Lab 株式会社 代表取締役社長 中西 祐一(なかにし ゆういち)氏、恵那市 水道環境部 部長 梅村 浩三(うめむら こうぞう)氏、岩村醸造株式会社 代表取締役社長 渡會 充晃(わたらい みつてる)氏
出所 編集部撮影
図1 NRパワーラボと地域新電力との連携の概要
出所 NR Power Lab 株式会社2023年12月12日の発表資料より、「全国の地域新電力会社16社と共創を開始~VPP ・電力デジタルサービスの精緻化を目指す~」
図2 NRパワーラボと連携する全国16の地域新電力会社
出所 NR Power Lab 株式会社2023年12月12日の発表資料より、「全国の地域新電力会社16社と共創を開始~VPP ・電力デジタルサービスの精緻化を目指す~」
自社開発のVPPと電力デジタルサービスを実フィールドでテスト
現在NRパワーラボでは、分散型ID注3を活用したVPPシステムと電力デジタルサービスの開発を行っている。AIやIoTなど最新のデジタルテクノロジーを活用し、太陽光や風力など多様な電源の組み合わせに対応できるほか、制御の最適化による収益最大化やコスト低減が特徴である。
また電力デジタルサービスは、ブロックチェーン技術注4を活用して、再エネの流通経路の証明をデジタルで行う。これによって発電された再エネのトラッキング(再エネの流通経路の証明をデジタルで効率良く行う仕組み)を可能としたほか、自家消費分の電力をJ-クレジット注5として認定が受けられるシステムも実現している。
NRパワーラボでは、電力の地産地消と域内経済循環の促進をテーマに、16の地域新電力と連携することによって、これらサービスに関するユーザーニーズや課題を整理することで「技術開発と社会実装」の両輪で早期に事業化したい考えだ。
J-クレジット活用など地域新電力の事例も紹介
地域新電力は現在、日本各地に100社近くが設立されているといわれているが、発表会では、そのうちの1社で、今回の実証作業に参加する岐阜県恵那市(人口:約47,000人)の取り組みについて紹介された。
恵那市は地域新電力の恵那電力株式会社を2021年4月に設立している(図3)。図3左は恵那電力全体のシステム構成図で、小中学校や文化センターなど市内62箇所の公共施設(小・中学校、図書館、老人養護施設など)と民間企業1社(明知ガイシ大久手工場)に電力を供給している。
恵那電力は複数の発電所をもっているが、そのうちの吉田発電所には、太陽光発電施設(300kW)と蓄電池〔日本ガイシのNAS電池で1,200kWh(200kW)。100世帯分の電力が提供可能〕が設置されている。
この吉田発電所では、停電時には自営線ではなく、中部電力パワーグリッドの既存の配電線を利用して開閉器を使い、ある一定のエリア(例:住民の緊急避難所)を「コミュニティごとにバックアップできるマイクログリッドを構築できる」ようなコンセプトを採用している。
さらに恵那電力では、IHIの協力を得て、再エネの環境価値をJ-クレジット化しており、その活用事例として同市内で創業236年の歴史〔創業1787年(江戸時代 天明7年)〕をもつ岩村醸造株式会社の例が紹介された(図4)。同社では、日本酒の生産過程で使用する電気から排出されるCO2を、このJ-クレジットでオフセット(相殺。埋め合わせること)している。そこで生産された日本酒(ブランド例:女城主)はカーボンオフセット商品として一般販売されているほか、ふるさと納税の返礼品ともなっている。これにより「恵那市が目指しているゼロカーボンシティ注6実現に貢献したい」と岩村醸造の渡會(わたらい)代表取締役は述べた。
NRパワーラボでは、各地域のこうした特色や状況からニーズを詳細にすくい上げ、開発の精緻化を進めていきたいとしている。
図3 恵那市の取り組み
出所 NR Power Lab 株式会社2023年12月12日発表資料より、「全国の地域新電力会社16社と共創を開始~VPP ・電力デジタルサービスの精緻化を目指す~」
図4 岩村醸造が販売しているカーボンオフセット商品
出所 NR Power Lab 株式会社2023年12月12日発表資料より、「全国の地域新電力会社16社と共創を開始~VPP ・電力デジタルサービスの精緻化を目指す~」
注1:NR-Power Lab株式会社:Nは日本ガイシ、Rはリコーの頭文字。事業開始は2023年2月1日。本社は名古屋市、従業員数18名(2023年12月現在)。
注2:VPP:Virtual Power Plant、バーチャルパワープラント。仮想発電所。再エネ発電や蓄電池など分散された発電設備を1つの発電所のようにまとめ、電力需給のバランスをとる仕組み。
注3:分散型ID:Decentralized Identity、分散型識別子。ブロックチェーン技術などを活用して個人(または法人や機器)が主体となってIDを管理する技術。個人がパーソナル・データのアクセスを制御しながら、デジタル世界の様々な人やサービスや機器と安全にコミュニケーションすることが可能になる。
https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/release/2023/pdf/0809_1.pdf
注4:ブロックチェーン技術:分散型台帳技術。ブロックと呼ばれる単位でデータを鎖(チェーン)状に連結して保管する技術。不正利用やデータ改ざんが非常に困難なため、金融取引履歴など気密性や透明性が求められるデータ管理に利用される。
注5:J-クレジット: 再エネ活用や省エネ設備の導入などによってCO2などの排出削減量をクレジットとして国が認証する制度。適切な森林管理によるCO2などの吸収量も該当する。
注6:ゼロカーボンシティ: 2050年二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むことを表明した地方公共団体。全国で991自治体が表明している(2023年9月29日現在)。
参考サイト
※参考資料
NR Power Lab 株式会社2023年12月12日発表資料、「全国の地域新電力会社16社と共創を開始~VPP ・電力デジタルサービスの精緻化を目指す~」
NEWS 2023.12.12
NR-Power Lab、全国16社の地域新電力と連携し、電力の地産地消と域内経済循環の促進に向け共創を開始
~VPPシステムと電力デジタルサービスの精緻化を目指す~
NR Power Lab 株式会社 「開発と実装の時間軸を近づけ、脱炭素にスピード感を。全国16社の地域新電力会社と連携し、電力の地産地消と域内経済循環の促進に向け共創を開始」
https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/release/2023/pdf/0809_1.pdf