[スペシャルインタビュー]

ソフトバンク先端技術研究所 所長 湧川隆次氏に聞く! 「AI-RANアライアンス」で6G革命を推進し、ビジネスを変革する!

2024/05/17
(金)

編集部 AI-RANアライアンスに参加しているメンバーを教えてください。

湧川 当初はソフトバンクと、半導体IPプロバイダ注4のArm、AIコンピューティングのNVIDIAの3社で研究や議論をスタートし、構想がある程度固まったところで他の企業にお声がけしました。
 このアライアンスでまずやりたかったのは、無線をAIで高度化していくことですが、それには無線機器ベンダの存在が不可欠です。そこでまず無線機器ベンダとしてNokia、Ericsson、Samsung Electronics という業界屈指の企業に参加していただきました。また、無線にAIを適用する技術を開発している米国のDeepSig注5というスタートアップにも参加をお願いしました。
 また、このアライアンスではAI関連のサービス提供を視野に入れています。今この分野を牽引しているNVIDIAのほか、現在はAIのリーディングカンパニーとなったMicrosoft、そしてAIを提供するクラウドコンピューティングで世界トップシェアを誇るAWSもメンバーです。そして移動通信事業者として、私達ソフトバンクとT-Mobile。この2社は世界の移動通信事業者の中でもAI化をいち早く推進しており、特に当社は代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川 潤一(みやかわ じゅんいち)が「ソフトバンクはAIの会社に変わる」と表明しているほどです(図2)。

編集部 そのほか、アカデミア(大学などの学術研究機関)の参加についてはいかがでしょうか。

湧川 はい。アカデミアからノースイースタン大学(Northeastern University、所在地:マサチューセッツ州ボストン市)と東京大学が参加しています(図2参照)。ノースイースタン大学はvRAN関連の研究開発をしている技術者には広く知られた存在で、米国政府のvRANに関する国家プロジェクトにも参画しています。また、今回日本のアカデミアの代表格である東京大学にも参加していただきました。AIがどこまで無線に効果を発揮するか、アカデミアの力も借りて検証や実証を進めていきます。

図2 AI-RANアライアンスの組織構成

出所 ソフトバンク先端技術研究所、「AI-RANアライアンスに関するご説明」

編集部 AI-RANアライアンスのメンバーを今後、増やしていく予定はありますか。

湧川 AI-RANアライアンスはオープンなアライアンスですので、他の企業やアカデミアもご興味があればぜひ参加いただきたいです。今回、MWCで展示したアライアンスのコンセプトには、日本をはじめさまざまな企業の方に関心をもっていただいたので、新たな参加を期待しています注6

AIで通信容量が130%に! やらないわけにはいかない「AI for RAN」

編集部 AI-RANアライアンスでは、「AI for RAN」「AI and RAN」「AI on RAN」という3つのテーマが設定され、それぞれに関して研究開発に取り組まれるそうですが、その目的や内容を教えてください(図3、前出の表1、図2を参照)。
 まず「AI for RAN」についてお願いします。

図3 AI-RANアライアンスの3つの技術領域

出所 ソフトバンク先端技術研究所、「AI-RANアライアンスに関するご説明」

湧川 「AI for RAN」は、このアライアンスを立ち上げたときに一番やってみたいと思ったテーマで、無線機の性能をAIで“爆発的に向上させる(爆上げする)”ものです。
 1つの例をご説明します。無線通信では音声や画像の信号処理を行いますが、電波の干渉や遅延などで信号が壊れることがよくあり、再送信や輻輳(ふくそう。通信の混雑)などが通信効率に悪影響を及ぼします。その原因となる「通信の途中で発生する送信信号の乱れ」を、AIで推測し、きれいな信号に復元できるのではないかと考えました。
 そのヒントになったのは映像分野における超解像技術です。例えば、デジタル処理で映像のピクセル(画像を構成する画素)が不足している場合に、HD映像(ハイビジョン映像。低解像度の映像)を4K映像にアップサンプリングする(高解像度の映像にする)際、中間的なピクセルをデジタル処理で補完して高解像度の映像を作っていきます。通信でもこれと同様に、信号の乱れをAIで推測することで、適切に信号を復元できるのではないかと考えたのです(図4)。
 実際に信号を復元するテスト通信を行ったところ、図5に示すように、スループット(通信回線のデータ転送量)が30%増という画期的な結果が得られました(図5)。スループット30%増ということは、つまり無線通信インフラのキャパシティ(容量)が30%も上がるということなのです。
 そうなればインフラ整備のコストが大幅に削減でき、設備投資の効率も上がります。北米では周波数はオークション制(入札制)なので、何兆円というコストをかけて通信の周波数を確保しており、そこで1つの周波数の通信効率が30%向上するとなると、投資回収率なども大きく変わってきます。

図4  AIチャンネル補完:AI画像処理における超解像技術と信号補完は類似

出所 ソフトバンク先端技術研究所、「AI-RANアライアンスに関するご説明」より一部日本語化して掲載

図5 従来システムとAIチャネル補完システムと比較したテスト通信結果

画面の左側の数字はAIによるスループット(実効速度)改善率を示したもので、右側の波形はSNR(Signal to Noise Ratio、信号対雑音比)を比較したもの。青色の波形が従来のSNRで緑色がAIを用いた際のSNR。AIによってスループットが30%増、SNRが5dB増(1.78倍)と、いずれも従来システムを上回った結果が出た。
出所 ソフトバンク先端技術研究所、提供資料


注4:半導体IPプロバイダ:半導体のCPUやメモリ、信号処理回路など集積回路を構成する各機能ブロックを半導体IP(Intellectual Property、半導体の設計資産)といい、その設計を担当する事業者のことを半導体IPプロバイダという。IP(Intellectual Property)とは、もともとは特許などの知的財産権を意味する用語として使用されている。
注5:DeepSig:DeepSig Inc. 機械学習を使用した無線通信のための革新的なソフトウェアソリューションを開発しているスタートアップ。本社は米国バージニア州アーリントンで、2016年に設立。
注6:AI-RANアライアンスへは、以下から参加申し込みができる。
https://ai-ran.org/engage/membership-application/

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