[スペシャルインタビュー]

ソフトバンク先端技術研究所 所長 湧川隆次氏に聞く! 「AI-RANアライアンス」で6G革命を推進し、ビジネスを変革する!

2024/05/17
(金)

GPUの大容量/高効率処理も考慮した、新たな電力消費の指標が必要

編集部 昨今のカーボンニュートラルの観点から、AI処理によって増大する電力消費が気になりますが、その点に関してはどのようにお考えでしょうか。

湧川 はい。GPUを搭載したサーバは大量に電力を消費しますので、それは重要な課題です。そこで、その指標を検討する必要があると考えています。
 例えば、GPUを搭載しないサーバと高速なGPUを搭載したサーバを比較すると、当然前者のサーバは電力消費に関しては優位ですが、AIの計算処理量は限られてしまいます。一方、GPUは消費電力は大きいのですが、大量のAI計算処理に対応できます。
 今回、私達が提案しているAI-RANを使った基地局のソフトウェアでもAI同様な計算処理が必要となります。そのため、100局分の基地局を提供するのに、GPUなしのサーバは50台必要なところをGPUサーバであれば1台で対応できるかもしれません注10。GPUなしの場合は1サーバあたり2局、GPUありの場合は1サーバあたり100局処理できることになります。1台のサーバで見ると消費電力に差が大きいですが、基地局を提供する全体のコストでみると差が縮まります。
 こうした両者の効率を比較するには、1台の無線基地局を動かすためにかかる消費電力を使えば正しい比較になると考えています。上記の例でいえば、GPUなしの場合は1サーバで2局しか処理できないためサーバの消費電力の半分がそれになります。GPUありのサーバの場合は、サーバの消費電力の100分の1がそれにあたります。
 GPUの有無でサーバの特性や処理性能が大きく変わるので、消費電力などの議論は利用目的をきちんと理解したうえで比較をしていかないと間違った判断をする可能性があります。

AIを社会のすみずみに浸透させる。それがテレコム企業の役割だ!

編集部 AI-RANアライアンスで、現在、国際標準化を目指すテーマなどはありますか。

湧川 私はAI-RANは、あくまでも新しい技術研究領域だと規定しています。したがって、AI-RANアライアンス内では主に技術開発を行い、標準化が必要となった際は既存の標準化団体にお任せしたいと考えています。
 今後はGSMA注11をはじめO-RANアライアンス、3GPP注12などとも関係を築き、連携を深めていきます。また、AI-RANアライアンスの参加メンバーは他の標準化団体にも加入していることが多いので、連携は容易に進むと考えています。

編集部 最後に、AI-RANによって通信業界はどのように変わるのか、また社会全体にどのようなインパクトを与えるのかなど、お聞かせください。

湧川 AIを、今後さまざまな人の社会活動に広く浸透させていこうとすると、新たな技術やシステムが必要となってきます。日本には日本社会に適合したAIも必要となるでしょうし、セキュリティなども国内向けに考える必要もありそうです。また技術的には、AI処理をデバイスに組み込もうとすると多くのGPUが必要となるため、価格や消費電力などの面からどんどんハードルが高くなってしまいます。
 それらを考慮しながら、どのようなネットワークやシステムを構築すべきか、そこはまだ誰も考えていませんし、何も論議されていません。これから、AIを正しく使えるように展開し、アクセスできるような環境の構築をこのAI-RANアライアンスで論議し、具体化していきたいと考えています。
 それが進めば、社会の人々の生活がきっと予想よりも数倍早く快適になるはずです。AIで多くの人に期待されているのは、学術的な領域だけでなく、ビジネスや生活に直結する身近なところだと思うので、だからこそ私たちのようなテレコム企業ががんばらないといけない。そのような決意をもって、このAI-RANアライアンスの各活動を進め、AI-RAN技術の実用化を加速させていきたいと思っています(図8)。

編集部 ありがとうございました。

図8 AI-RANアライアンスの活動内容

出所 ソフトバンク先端技術研究所、「AI-RANアライアンスに関するご説明」

《コラム》GMSA主催の国際モバイル産業見本市「MWC Barcelona 2024」

 モバイル関連の展示会としては世界最大級である「GSMA MWC※1Barcelona 2024」が、2024年2月26日から29日までスペイン・バルセロナで開催された※2。主催者のGSMAの発表によれば、今年は205の国と地域からの参加があり、出展社数は2,700社以上、総来場者数は10万1,000人以上を記録した。日本からはNTTドコモやKDDI、楽天グループ、NEC、富士通などが出展。
 今年の話題はAI、5G/5G-Advanced、6Gなどで、中でもAIの活用が注目された。今回のソフトバンクによるAI-RANアライアンス設立の発表はその潮流の1つで、モバイル業界の歴史に新たな1ページを加えた。

※1  MWC:Mobile World Congress、国際モバイル産業見本市
※2  https://www.mwcbarcelona.com/

図 「MWC DAILY NEWS」(2024年2月26日月曜日)の一面に掲載されたAI-RAN設立の記事(下段)

MWCでは開催期間中毎朝、「MWC DAILY NEWS」が会場の至るところで配布される。AI-RANアライアンス設立の発表は、“業界大手がAI RANの推進に結集”という見出しで掲載された。
出所 GSMA、“THE OFFICIAL NEWSPAPER OF MWC BARCELONA 2024”

◎プロフィール(敬称略)

湧川 隆次

湧川 隆次(わきかわ りゅうじ)

ソフトバンク株式会社 執行役員、先端技術研究所 所長

政策・メディア博士(慶應義塾大学・2004年取得)。2013年よりソフトバンクモバイルに入社。日米で活動し、2016年より現職。先端技術研究所を率いて、5G/6G、自動運転、HAPS、AI、量子技術など、ソフトバンクの新規技術検証や新規事業開発を担当。 主な著書として『アンワイアード デジタル社会基盤としての6Gへ』『ITの正体(共著)』(いずれもインプレスR&D)、インプレス標準教科書シリーズ『モバイルIP教科書』『続・5G教科書(共著)』(いずれもインプレス)などがある。

撮影 松本 裕之


注10:ここでの数字は、あくまでも例。
注11:GSMA:GSM(Global System for Mobile Communications)Association。第2世代携帯電話(2G)の標準規格の1つであるGSM方式の携帯電話システムの標準化を目指して、1995に設立された世界最大のモバイル通信事業者の業界団体。
注12:3GPP:3rd Generation Partnership Project。第3世代移動通信システム(3G)の国際標準仕様を策定することを目的として、1998年12月に設立された
国際標準化組織。当初は3Gであったが、その後4G(LTE)や5Gの標準仕様なども策定している。

参考

ソフトバンク株式会社、ソフトバンク 先端技術研究所、プレスリリース 2024.02.26 「AI-RAN アライアンス設立」

AI-RANが起こす6G革命、AI時代を切り拓く新しいビジネスプラットフォームへの挑戦

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