[ニュース]

次世代スマートメーターの無線標準規格が発効へ

IoTルートで水道・ガス、太陽光発電やEV充電器などの対応も可能に
2024/07/03
(水)

10年の節目を迎え、ビジネスチャンス創出も視野に

 電力スマートメーターに、水道・ガスメーターをはじめ太陽光発電やEV充電器の制御システムへの対応を可能とする「次世代スマートメーター」(図1)の新たな無線標準規格「Wi-SUN注1 enhanced HAN(Wi-SUN HANの拡張仕様)」が発効された(2024年5月16日)。これによって、各エネルギー事業者が一般家庭(需要家)などに設置した電気・ガス・水道メーターの検針作業の共同化や効率化、そこで得られた各種データを活用した新たなビジネス展開が期待されている。
 日本で2014年度から普及が始まったスマートメーターは、計量法の検定期間が10年間のため、10年目を迎える2025年度から、順次、次世代スマートメーターへの更新(置き換え)が必要となる。この新規格制定を契機として、エネルギーや脱炭素関連分野などで新たなビジネスを創出することも可能となる。

図1 次世代スマートメーターシステム(低圧)の主な標準機能

スマートメーターが計量したデータを送る通信ルートとして、上図に示すAルート、Bルート、新たなIoTルートの3つがある。
① Aルート:需要家が契約した電力会社(一般送配電事業者、小売電気事業者等)へ送る通信ルート
② Bルート:住宅(Home)等に設置されたエネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)へ送る通信ルート
③ IoTルート:電力以外のガス・水道メーターやEV充電器へ送るための通信ルート
HES:Head End System、スマートメーターやコンセントレーター(集約装置)の通信制御を行うシステム
MDMS:Meter Data Management System、メーターデータ管理システム。スマートメーターの30分値のデータ等を保管したり、スマートメーターへの遠隔負荷開閉の指示等を行ったりするシステム
出所 インプレスSmartGridニューズレター編集部「次世代スマートメーターシステムの最新動向」を一部修正

水道・ガス、太陽光発電などの「IoTルート」に対応

 現在、全国の低圧需要家(家庭用)に約8,000万台(図2)の規模で普及している電力スマートメーターは、無線通信機能も備えており、スマートグリッド時代の中核機器の1つとなっている。

図2 日本のスマートメーターの設置状況(低圧用も沖縄電力を除いてほぼ完了)

出所 資源エネルギー庁「電力小売全面自由化の進捗状況について」、2023年12月7日

 その通信用の無線標準規格として、現在「Wi-SUN HAN(Home Area Network)」(日本では920MHz帯の周波数を使用)が制定され、主に住宅やビル内に設置されたエネルギー管理システム(住宅の場合:HEMS)において、電力検針データの送信やメーターの遠隔制御に利用されている。この通信経路は「Bルート」と呼ばれている。
 一方で水道メーターやガスメーターは、各事業者が独自に検針体制を整備していたが、合理的な運用面からその検針体制を「電力スマートメーター」に一本化する要望が高まっていた。加えて2022年4月に、計量法改正に伴って事前届出制であるものの、メーターの検定が不要(例:日本電気計器検定所などの検定が不要)となる「特例計量器」の使用が解禁された注2
 この「特例計量器」は、図1に示す電力スマートメーター注3を中核(主)とし、①「Bルート」としてHEMSとの接続、②「IoTルート」としてガス・水道メーター、EV充電器、太陽光発電との接続に使用できるようになった。
 すなわち、今回発効した「Wi-SUN enhanced HAN」は、従来Bルートで使われてきたWi-SUN HANをIoTルート用に拡張・発展させた規格であり、国際無線通信規格化団体「Wi-SUNアライアンス」によって制定された規格となっている。その策定作業に携わった国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と東芝、ルネサスエレクトロニクス、アイ・エス・ビー、沖電気工業の4社が、6月12日に新規格の発効を発表した(参考サイト参照)。またこの新規格にあわせて、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)のホームネットワーク通信インタフェースの標準規格「TTC JJ-300.10注4」も改訂されている。

太陽光発電システムなどとの通信インタフェースも実装

 IoTルートの設定には、図3に示す利用イメージのように、新規格に対応した無線通信端末を搭載した「電力スマートメーター」を中核に据えて、
 (1) 水道・ガスメーターとの「共同検針」
 (2) 太陽光発電やEV充電器の各システムにおいて「特定計量」
が可能となった。水道メーターやガスメーター、太陽光発電、電気自動車(EV充電器)にはそれぞれ、無線通信端末(通信インタフェース)が搭載されており、中核となるスマートメーターと通信可能となっている。このような構成になっているため、新たな機能やサービスの追加も可能となる。
 各無線通信端末と電力スマートメーターとの通信は、Wi-SUNの通信認証規格によりセキュリティを確保。そのほか新規格では、IoTルート内で通常は電力を落としている各無線通信端末と再接続を行うための通信手順や、無線通信端末を屋外に設置しても接続できる中継機能(ゲートウェイ機能)なども備えている。

図3 新設されたIoTルートの利用イメージ

特定計量:2022年4月から開始された「特定計量制度」によって、計量法の検定を受けていないメーターでも一定の基準を満たせば電力の取引等が行うことができるようになった。このとき太陽光発電やEV充電器に使用されるメーターは「特例計量器」と呼ばれる。
出所 国立研究開発法人情報通信研究機構 プレスリリース 2024年6月12日、「国際無線通信規格Wi-SUNが採用された『IoTルート』用無線標準規格が発効」


注1:Wi-SUN:ワイサン。全世界で250社を超えるメンバーで構成されるWi-SUNアライアンス(2012年1月24日設立)がIEEE802.15.4 SUN(Smart Utility Network)規格をもとに利用モデルに応じて策定している国際無線標準規格。
注2:2022年4月に特定計量制度が始まり、計量法の検定を受けていないメーターでも、一定の基準を満たせば電力の取引等が行うことができるようになった。これは「特例計量器」と呼ばれ、ガスや水道メーターの検針、EV充電システム、太陽光発電システム等に利用できるようになった。
注3:例えば日本電気計器検定所などの検定が必要。
注4:TTC JJ-300.10:ECHONET Lite向けホームネットワーク通信インタフェース。国内の情報通信ネットワークに関する標準化を扱う一般社団法人情報通信技術委員会(TTC:Telecommunication Technology Committee)が制定するスマートメーター、家電等のホームネットワーク用通信インタフェースの標準仕様。

参考サイト

国立研究開発法人情報通信研究機構 プレスリリース 2024年6月12日
「国際無線通信規格Wi-SUNが採用された『IoTルート』用無線標準規格が発効」

株式会社東芝 ニュース 2024年6月12日
「国際無線通信規格Wi-SUNが採用された『IoTルート』用無線標準規格が発効」

ルネサスエレクトロニクス株式会社 ニュース 2024年6月12日
「国際無線通信規格Wi-SUNが採用された『IoTルート』用無線標準規格が発効」

株式会社アイ・エス・ビー お知らせ 2024年6月12日
「【連名ニュースリリース】国際無線通信規格Wi-SUNが採用された『IoTルート』用無線標準規格が発効」

沖電気工業株式会社 プレスリリース 2024年6月12日
「国際無線通信規格Wi-SUNが採用された『IoTルート』用無線標準規格が発効」

SmartGridフォーラム 2020年10月1日、「『次世代スマートメーター制度検討会』が再開へ」

SmartGridフォーラム 2020年10月1日、「次世代スマートメーターシステムの最新動向」

 

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