[標準化動向]

802.11n(無線LAN)の標準化動向(1):ユーザー実効速度100Mbpsを目指して

2006/07/13
(木)
SmartGridニューズレター編集部

802.11nの標準化は、2007年中を予定

こ のように設立されたTGnは、TGn SyncとWWiSE(WorldWide Spectrum Efficiency)の2つの陣営に分かれて対立が続くなど、紆余曲折はあったものの、2005年10月に、まとめ役ともいえる802.11nの推進組 織「EWC」(Enhanced Wireless Consortium、当初27社)が、TGn SyncとWWiSE からなるジョイント・プロポーザル・チーム(JPチーム)に仕様を提案した。

このJPチームは、これを採用し、簡単な修正を加筆した後、1 月のIEEE 802.11WGミーティングで提案。IEEE 802.11WGは、全会一致で802.11nのドラフト案として採用した。IEEE 802.11WGでは、EWC案をベースにしてドラフト1.0を作成し、5月のミーティングで投票にかけた。

しかし、このドラフト1.0に は、大小合わせて1万件以上に及ぶコメント(修正提案)が出され、参加者の75%の支持を得られなかった。ただし、そのうち3分の2くらいは重複した質問 (コメント)のため、実際には3000件程度のコメントであった。また、大半はエディトリアル(編集上)に対するコメントであり、802.11nのコア技 術にインパクトを与えるようなテクニカルなコメントはなかった。

このようなことは、標準化作業のプロセスではよくあることである。例えば 802.11aの標準化の際には、ドラフト10まで審議され承認された経緯がある。このようなことから、今後、802.11nの場合もドラフト10程度ま で改定が進む可能性もある。参加者の75%の賛成が得られるとワーキング・グループ(WG)としての審議を終了し、上部組織のIEEE-SA(スポンサー バロットを行う)にコマを進めることになる。

一般に、標準化のプロセスでは、後半になってくると、技術的な仕様はほぼ固まり、エディトリア ルなものが論議の中心になるため、標準規格が承認される半年くらい前には、各社から例えば、「802.11nドラフトx.y準拠」(x.y:版数)という ような製品が市場に出始めることが予想される。

現在(2006年7月時点)発表レベルでは、すでにベルキン社、バッファロー社、ネットギア社の3社がドラフト1.0準拠の製品を発表している。

現在の予定では、IEEE-SAでのスポンサー・バロットが2007年3月となっており、この投票をクリアすれば、標準化はほぼ完了したことになる。

802.11nの技術的特徴

図2 に示すように、従来の802.11a/b/gなどの標準が、物理層(PHY)で11Mbpsや54Mbpsの伝送速度の規格であるのとは異なり、 802.11nは、ユーザーの使用環境に近いMAC-SAPレベル(SAP:Service Access Point、サービス・アクセス点)で100Mbps以上の実効伝送速度を目標にしている。

図2
図2 802.11nのMAC-SAPでの高速な伝送速度の実現 (クリックで拡大)

こ れは、物理層(PHY)レベルに換算すると140Mbps以上(オプションで物理層最大600Mbps)の伝送速度に相当する。このため、物理層だけでな くMAC層も含めて、総合的に多くの新しい高速化技術が考えられている。次に、802.11nの技術的特長をまとめて示す。

  1. 従来の802.11a/b/gとの互換性を実現する
     
  2. 5GHz帯ならびに2.4 GHz帯を使用する
     
  3. OFDMに加えてMIMO(Multiple Input Multiple Output、多入力・多出力)を使用する
  4. 従来1チャネルの周波数帯域幅は「20MHz幅」であったが、これを40MHz幅に拡張することによって、MIMOの多重化に加えて、1チャネルの広帯域かからも高速化を実現する
  5. 以上のことから、アクセス・ポイントは802.11a/b/gなどの20MHzを運用しながら、40MHz幅のシステムとも通信できるようにする

(つづく)

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