[特集]

対談:デジタル放送を語る(1):デジタル化の実現:放送の歴史を変えたMPEG-2

2006/09/21
(木)
SmartGridニューズレター編集部

本格的なデジタル放送時代を迎えた今日、その現状と課題について、中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 羽鳥光俊教授と、NHK放送技術研究所 谷岡健吉 所長に対談を行っていただきました。これから週1回、4週連続でお届けします。第一回目は、これまであまり語られてこなかった、放送のデジタル化という歴史的事件の背景を存分に語っていただきました。
羽鳥教授は、放送、画像圧縮、通信の分野の第一人者として先進的な業績を重ね、映像情報メディア学会会長、電子情報通信学会会長などを歴任、現在、電波監理審議会会長/(社)情報通信技術委員会(TTC) 理事長としてご活躍中です。谷岡所長は、現在、ユビキスタス環境における放送受信用フレキシブル・ディスプレイをはじめ、IPマルチキャスト放送、次世代のスーパー・ハイビジョンの研究・開発を進める研究所の責任者として、また、夜間の災害報道などに威力を発揮するHARPカメラ(電子のなだれ現象を利用して、少ない照明でもきれいに撮れる超高感度カメラ)の撮像管の発明者として著名な研究者でもあります。(文中、敬称略、司会:インプレスR&D 標準技術編集部)

羽鳥光俊 vs  谷岡健吉

中央大学 羽鳥光俊教授 VS NHK放送技術研究所 谷岡健吉所長

 

放送側から見たインターネット

—最初に、放送と通信の融合についてはインターネットなど通信の側からの意見は多いのですが、放送分野のリーダー的存在である羽鳥先生からは、インターネットはどう見えるのでしょうか?

羽鳥 この問題については、私自身、郵政省・総務省の研究会のメンバーとして取り組んできた経緯もございますので、少し長くなりますが、私のほうで整理してみましょう。

放送とインターネットについては、「ストリーミング技術等の新技術を用いたコンテンツ流用ビジネスに関する研究会」(通信政策局政策課、平成11年10月~平成12年6月)において「いわゆるインターネット放送」の政策の研究が行われました。

「中間とりまとめ」をまとめたうえで、「放送政策研究会」(情報通信政策局放送政策課、塩野宏座長、平成12年5月~平成15年2月)に引き継がれました。「放送政策研究会」は、平成13年12月に、「NHKの経営形態は民営化や独立行政法人化は不適当」、「NHKのインターネットの高度利用サービスは、民業を優先するため、3年ほど我慢することが適当」という内容を含む「第一次報告書」をまとめました。

その「3年」が経過したことから、「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」(情報通信政策局放送政策課、平成16年7月~、同じく塩野宏座長)において政策の研究が行われる予定でしたが、NHKの不祥事と時期が重なり、冷静な議論が困難と考え、研究が見送られ、まもなくまとめられる「報告書」では言及されないこととなりました。

すなわち、「放送政策研究会」当時の放送と通信(インターネット)をめぐる議論は、かなり本質的な内容が含まれていたのです。

—ずいぶん長い研究会でしたね!

羽鳥光俊

羽鳥 当時は、インターネットはブロードバンド時代への移行期にありまして、これらのブロードバンド技術およびサービスの動向や、さらに今後、デジタル化が進んでいく放送サービスとの関係を含めて、国民の情報入手の手段がどのような形になっていくのか、当時は、必ずしも、十分には見通せない状況でした。

例えば、ADSLについても、日本でADSLのサービスが開始されたのは2000年12月で、当初の伝送速度は1.5Mbps(現在は54Mbps)でした。今日のように、FTTHも実用化され、日本のブロードバンドが、世界一安く高速に提供されることなど、まだ、予想もできない時代でした。

—その当時、NHKはインターネットに対してどのように対応していたのですか?

羽鳥 NHKは、すでに、2000年(平成12年12月)から、放送された番組の一部を、インターネットによって一般視聴者に対し提供していました。例えば、NHKはBSデータ放送の文字ニュースや選挙の開票速報、あるいはテレビ放送のニュース番組で使用されたものなどを提供していました。

こうした背景の下に、放送法上、NHKがインターネットを使用して、放送された番組などを、国民に提供することについて、さまざまな意見が出されました。

例えば、NHKがインターネットで情報提供することに賛成する立場からは、まず、インターネットを活用することは、放送を補完するうえでも意義あることであること、また、受信料を有効に活用する面からも望ましいという意見が出されました。

さらに、NHKが保有しているコンテンツ(番組)を、インターネット上に流通させ、活用していくことは、日本のIT社会の発展にとって不可欠であるなど、の意見が出されました。

一方、反対する立場からは、NHKの本来の使命は、電波を使って放送することだけであり、インターネットなど他のメディア(ADSLや光ファイバなど)を使って情報提供することは目的としていないのではないか。

また、多数のプロバイダ(ISP)が競っているインターネット市場に、NHKが参入する必然性はないのではないか。さらに、税制面などにおいて優遇措置を受けているNHKが、インターネットや携帯電話に、情報提供を行うことは、公正な競争を行ううえからも、問題があるのではないか、ということなどが指摘されました。

—賛否両論ということですね?

羽鳥 そうですね。そこで、NHKによるインターネット利用は、災害情報およびテロ活動などのリスク(危機)管理に関する情報や、選挙情報、国際情報発信(外国語放送によるもの)などのように、社会的に、あらゆるメディアを通じて国民にできる限り速く、しかも的確に提供されることが求められる分野や、国際的に相互理解を促進する上で求められる分野については、積極的に提供していくことが適当と考えられる、ということになっています。

一方、これら以外の分野については、NHKは、受信料を主たる財源とする公共放送事業体であるため、提供する情報の形態や財源の在り方などについて、改めて検討し、整理することが必要であるということになったのです。これには3年程度の準備期間が必要と思われましたので、先ほどのように、NHKに3年程度待ってくださいと申し上げることになったのです。

その後、竹中平蔵 総務相主催の「通信・放送の在り方に関する懇談会」(2006年1月から6月にかけて14回開催)がスタートしたこともあり、「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」での「研究」は見送られました。

この竹中懇談会以降の動きについては、最近(2006年9月1日付)、総務省から「通信・放送分野の改革に関する工程プログラムについて」が発表されました。その中では、「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」に基づいて通信・放送分野の改革を推進するために、2010年までに取り組むべき具体的な施策として、2008年からNHK番組アーカイブの配信などを含む内容が、表1のようにまとめられています。

したがって、今後、放送とインターネットの発展のために、いろいろな業界とのコンセンサスをつくりながら、この分野でNHKがリーダーシップを取ってくれることを期待しています。

表1 総務省「通信・放送分野の改革に関する工程プログラム」(参考。2006年9月1日)※総務省資料より作成
表1 総務省「通信・放送分野の改革に関する工程プログラム」(参考。2006年9月1日)※総務省資料より作成) (クリックで拡大)

—谷岡さん、放送研究者のお立場からインターネットはどのように見えるネットワークなのでしょうか。

谷岡健吉

谷岡 そうですね、インターネットというのは、今では、もう当たり前のように小学生から高齢者まで、誰でも使って、そこから多くの情報を得るようになっています。つまり、とても情報を得やすいネットワークとなっています。

しかし、私どもは、放送という立場なわけですので、情報の中身について、インターネットと異なる面があります。とくに、公共放送ですので、情報が溢れる、氾濫する時代であっても、常に信頼できる情報を流していくことが、NHKの一番大事なところだと思っています。

ですから、情報を獲得する方法については、世の中にいろんな方法がありますが、放送によって信頼できるニュースなどをリアルタイム(瞬時)に知ることができる、あるいは人々に感動できるような音楽番組やドラマ、教育番組などを提供するように心がけています。

例えば、緊急災害時の報道に関して、正確な情報を瞬時に得ることができるように情報を提供していくのが、いわゆる放送、とくに公共放送の役割だと思っております。

羽鳥 そのとおりですね。報道の内容に信頼性が高いというのは、公共放送、そして、民放を含めた放送の大きな使命であると思っています。

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