キャリアのおサイフケータイ・ビジネスの好例「DCMX」
おサイフケータイは、公共交通や電子マネー/クレジット決済の分野で社会インフラになりつつあるFeliCaを携帯電話が取り込むことで、ネット・サービスとリアル・サービスのシームレスな連携を実現する。リアル・ビジネスでの応用性が高く、携帯電話業界の市場規模と影響力を拡大するうえで極めて重要なものだ。
しかし、その一方で、おサイフケータイがキャリアの基本ビジネスである「利用料収入」を底上げできるかというと、その答えはNoだ。おサイフケータイが行う非接触IC通信は課金の対象ではなく、最初に必要なICアプリのダウンロードも1回だけ。オンラインでの電子マネー・チャージや利用履歴の確認など、通信を使ったサービスではパケット料金が発生するが、日常的なメールやコンテンツの利用、音楽配信などに比べれば、その通信量は微々たるものだ。おサイフケータイはARPU(Average Revenue Per User、顧客平均単価)向上には、ほとんど貢献しない。
では、キャリアはおサイフケータイでどのように儲けるのか。そのわかりやすい答えが、NTTドコモが注力するクレジット決済ビジネスへの取り組みだ。
ドコモは、三井住友カードとともに、FeliCaを使ったクレジット決済サービス「iD」を推進。iDのプラットフォーム上で、自らがクレジット・カード発行会社(イシュア)になる「DCMX」、「DCMX mini」をスタートした。これまでの携帯電話ビジネスとは別に、クレジット・カード・ビジネスによる手数料収入を収益の柱に育てようとしている。
図3 NTTドコモのDCMXサービスのイメージ(NTTドコモ)
[出典] http://www.nttdocomo.co.jp/service/dcmx/index.html
日本のクレジット・カード市場は現在、約27兆円の規模があるが、これは個人消費の総計のうちの約9%にすぎない。これをアメリカと同じ約24%まで伸ばせれば、45兆円の新たな市場が生まれる。FeliCaを使った電子マネーやクレジット決済サービスは、すべてこの未開拓の「キャッシュレス市場」の開拓を目指している。ドコモがイシュアになって狙うのも、まさにこのマーケットだ。
しかもドコモは、DCMX / DCMX miniのビジネスにおいて、携帯電話ビジネスで獲得した約5,000万人の顧客基盤を最大限に活かしている。
とくにDCMX miniは、毎月の与信枠は1万円と小さいものの、12歳以上でドコモのおサイフケータイ・ユーザーであれば利用可能だ(※1)。利用料金は毎月の携帯電話料金に合算されて請求される。
(※1ドコモの利用料金を銀行引き落としかドコモのクレジットカードで支払い、所定の審査で問題が確認されないことが条件になる。DCMX miniでも信用履歴に問題があると、利用できないケースがある。)
携帯電話のコンテンツ購入のような気軽さで、クレジット決済サービスを利用できるのがポイントだ。このような少額クレジット決済のビジネスを展開できるのは、ドコモが携帯電話ビジネスでの顧客情報を保有し、料金回収のスキームを持つからだ。
ほかにも、ドコモのおサイフケータイはすべて、DCMXのICアプリがインストールされており、DCMX / DCMX miniともに簡単な手順でオンライン申し込みができるようになっている。ユーザーの獲得やサポートは、全国1,400ヶ所以上のドコモショップが担当するなど、携帯電話ビジネスとの連携は密接だ。
これらが奏功した結果、DCMX / DCMX miniは、サービス開始から3ヶ月で約50万人のユーザーを獲得した。これは異例のスピードである。ドコモ・ユーザーの顧客基盤の大きさを考えれば、ドコモがおサイフケータイ上で行うクレジット決済ビジネスは、今後、同社のビジネスの柱として成長する可能性が高いだろう。
FeliCaの広がりがおサイフケータイの追い風
現在、決済と公共交通の分野を両軸に、FeliCaは急速に広まっている。FeliCaカードまで含めれば、関連サービスの利用者は3,000万人を軽く超えており、日本においてFeliCaが社会インフラになるのは確実だ。
おサイフケータイは、この普及したFeliCaのインフラの上で、携帯電話の通信機能を付加価値としたサービスを展開できる。とくに今後急速に広がるFeliCa決済市場と、携帯電話の技術やサービスをどう連携させるかは、非常に重要なテーマになるだろう。
例えば、携帯電話のGPS機能を使った位置情報サービスや広告と、おサイフケータイのFeliCa決済を組み合わせれば、ノンストップで情報と購買を結びつける新たなマーケティングが構築できそうだ。
携帯電話が搭載する技術や機能と、おサイフケータイのFeliCaを使った諸サービスをどのように結びつけてビジネスとするか。これは今後の携帯電話ビジネスの中で、重要な視点になると思う。
用語解説
BREW:Binary Runtime Environment for Wireless、ブリュー。クアルコム社が開発した携帯電話向けのソフトウェア・プラットフォーム。