3.5G(第3.5世代)の潮流
日本でも、"3G(第3世代)の次のステップ"の動きが本格的になってきた。メガビット(Mbps)クラスのスピードを実現する、いわゆる3.5G(第3.5世代)の潮流である。
この分野ではCDMA 2000 「1x EV-DO」をいち早く導入したKDDIのauが、CDMA 1X WINとして順調に利用者数を拡大している。最大2.4Mbpsのスピードと周波数利用効率の高さを背景に、定額制と高速通信を前提とする多様なデータ通信サービスを展開。結果としてauは、そのブランド・イメージにおいて先進性を維持し続けている。
N902iX HIGH SPEED
W-CDMAを採用するNTTドコモとボーダフォン(2006年10月1日よりソフトバンクモバイルに名称変更)も、3G高速技術すなわち3.5Gの市場投入に動き出した。周知のとおり、ここで使われるのは「HSDPA」という最新規格である。
その最初のモデルは、2006年5月11日にNTTドコモが発表した「N902iX HIGH SPEED」だ。HSDPA対応エリアでは最大3.6Mbpsの高速データ通信が可能になり、それ以外のエリアでは従来のFOMAネットワークが利用可能である。N902iX HIGH SPEEDの仕様は、今後のNTTドコモのハイエンド・モデルのひな形にもなっている。NTTドコモでは今年度内にHSDPA対応エリアを、人口カバー率70%にまで拡大する予定だ。
高速・大容量化を生かす「演出と管理」
【1】高速化・大容量化は目的地ではなく、出発地
技術の視点では、高速化や通信容量の拡大はまっすぐな正義である。より速く、効率を高めて大容量通信を実現する。それは正しい。
しかし、"ビジネス"の視座では、高速化・大容量化は目的地ではなく、出発地でしかない。特にビジネスが複雑化し、電波という有限かつ共有資産の上でサービスを展開する携帯電話の世界では、高速データ通信の使い道をユーザーに"真っ白なキャンバス"としてそのまま手渡すわけにはいかないのが実情だ。
高速・大容量化したインフラの上に、どのようなサービスを配置し、収益とユーザーの利益を向上させるか。携帯電話ビジネスにとって技術の進歩は、ジグソーパズルの拡大に似ている。
高速・大容量化の取り組みで先行するauでは、3Gから3.5Gへのシフトにあたり、自らが主導して新たなコンテンツ・サービス分野を増やす施策をとっている。インターネットや従来の携帯電話コンテンツ・ビジネスのように、新たなニーズの誕生と拡大をユーザーとコンテンツ・プロバイダ任せにするのではなく、auが積極的に道筋をつけながらコントロールする姿勢だ。
着うたフルなど音楽分野を筆頭に、GPSナビゲーション、映像配信、電子ブックやeコマースへの取り組みなど、どれもが「定額制・大容量通信」の恩恵を受けながら新しいビジネスと収益を生み出し、一方でデータ・サイズや通信量を厳密にコントロールすることで"インフラを使いすぎない"ことへの腐心が見られる。
例えばauでは、「着うたフル」のデータ・サイズへの規制や、EZチャンネルの配信時間帯をトラフィックの少ない早朝に行うなどのコントロールが行われている。また、BREWアプリも1日あたりの通信量が定められており、他社と違ってフリーウェアのフルブラウザなどは認めていない(auが許可するフルブラウザは純正のPCサイトビューワーのみ)。このように、定額制の普及を促進しながら、auの"目の届かない"ところで通信を大量に使うコンテンツやサービスが現れないように、コントロールしているのである。