[技術動向]

災害・有事にも活躍できるメッシュWi-Fiによる新ビジネスモデル

2015/02/12
(木)
インプレスSmartGridニューズレター コントリビューティングエディター(Contributing Editor) 大澤 智喜(おおさわ ともき)

3.11(2011年3月11日の東日本大震災)以降、災害時や有事において途絶しない、強いネットワークへの取り組みが活発化している。また、M2Mなども含むIoT(モノのインターネット)の世界も急速に広がりを見せ普及し始めている。
このような背景のもと、10年前と比較するとWi-Fiスポットは空港や観光案内所、新幹線、公共広場をはじめ多くの地点、地域でサービスが提供され、今後もますます増加すると見られている。
また、主に個人向けのブロードバンド・アクセスへの接続手段として活躍しているWi-Fiをさらに発展させ、自治体と協力してメッシュ状(網の目状)のメッシュWi-Fiを構築、すなわち「生活協同組合型ネットワーク」を構築することによって、平時には個人利用や商用利用に、災害・有事にはライフ・ライン的なネットワークとしての役割を果たすことが期待されている。ここでは、その具体的な活用例を提案し解説する。

ネットワークインフラの姿

一般に通信インフラであるネットワークは国の主導のもとに、サービスの構築が行われてきているが、ある程度成功して充実すると、固定電話回線に代表されるように、民間に移行されていく傾向にある。民間に移行されてくると独占をさけるため、自由競争がおこる、自由競争下では各企業サービス向上につとめ、インフラではきめ細やかな対応に進化していく。その傾向は、一つのサービスエリアを狭くしていき通信密度をあげ、通信容量や利便性を上げていく傾向にある。これは過去の歴史背景を見てもあきらかである。

しかし、密度を向上させる場合にインフラにかかる設備投資費用は二乗、三乗とかかってきてしまう。そうすると通信会社が1社で、よりきめ細やかなサービスを作ることはできなくなっている。そこで、通信の分野で民間も巻き込んだ「co-op」(cooperative:コープ)すなわち生活共同体型の展開が求められる。

例えば、通信の場合、ユーザーの増加に伴うトラフィックの増大に対応するため「基地局の鉄塔が足りなくなったので、民間所有のビルの屋上を借りて電波を供給する」というような例に代表されるように、インフラはある一定までは国が主導で進めるが、それ以降は生活者が資源を提供しつつ発展させていく傾向がある。今後、通信インフラを発展させていくには、このような「co-op」生活共同体型としての在り方の展開が必要と思われる。

災害時の通信インフラ

先の3.11の震災時では、電話通話(有線・無線)に代表される“回線交換システム”(いわゆる一般家庭の電話サービスや携帯電話サービス)は上手く機能しなかった(注:一部の公衆電話回線は機能した)。一方、ベストエフォートなデータ通信(インターネット)は機能し、SMS(ショートメッセージ)やメールが通るなど、災害・有事の際に“つながる”重要な役割を果たした。これにはスマートフォンの普及も大きな要因でもある。

本来であれば、インフラのオペレータであるキャリア(通信事業者)や総務省が責務として、災害・有事に時にも落ちない(途絶しない)サービスを提供するトップダウンでの努力も必要であるが、そのためには多大で大規模な設備投資が必要となる。しかし一方、多大な投資を行った通信設備は災害・有事の状況下では、大規模であるが故に、設備の所在するビルや電波鉄塔の倒壊とともに致命的なダメージを受ける可能性も高くなり、これによって通信の切断が予測されるのである。

自衛のための自治体ネットワーク

〔1〕「co-op」生活共同体型ネットワークによる解決
そこで、ボトムアップ的な視点から、その解決方法を模索してみると、Wi-Fiが有効であり大きな可能性が期待される。今日Wi-Fiは、キャリアにおいてもモバイル通信網において増大するトラフィックに対処するため、そのトラフィックの一部を無線LAN(Wi-Fi)を利用して逃がす(迂回させる)「Wi-Fiオフロード」の利用を前提とするようになってきている。これは、まさに前述した「co-op」型のネットワークを運用している具体例である。端末と接続されるアクセスポイント(以下:AP:Access Point)は一般家庭であればすでに1世帯につき1台程度、設置されており、商業施設やオフィスビル空港などに至っては複数台の設置がなされている。

〔2〕メッシュネットワークで広がりをつくる
そこで、この「co-op」型のネットワークをさらに発展させ、自治体が主導となり、自衛のための「自営ネットワーク」を地域社会や住民と一体になって、共同投資、運用することによって新たな可能性が期待できる。これは、災害・有事の際の救助の前提となる「助けられる人から助ける」と言う思想が、「つながる人(物)からつないで行く」と言う今までには無かった視点からの災害・有事ネットワークの考え方であり、ベストエフォート型のネットワーク(インターネット)の技術とは非常に相性が良い。これは、各個人や企業が所有するWi-FiのAPの機能やソフトを変更することによって実現できる。すなわち、災害・有事の際は生きている「AP」に地域の生存者が接続して通信しあう、さらに生きている「AP同士」が通信を行って通信地域を拡大していくような、メッシュネットワークで広がりをつくる。このような仕組みによって、スマートフォンやパソコンをもっている地域の生存者間でコミュニティが形成される。これに伝言版機能をもたせれば家族・友人・会社組織/学校などの安否確認に役立ち、生存者に安心感を与えることができる。

さらに、学校や役所など耐震性が高い災害対策本部や避難場所に指定される施設にハブ(拠点)を設けて、通信されているトラフィック情報を吸い上げ、やり取りされるキーワードを解析して、被害状況の把握や救援物資の配給などの活動を支援することも可能となる。

分散的でアドホック的(臨機応変的)に端末同士を確実につなげていくことによって、情報が錯綜する状況下でもさまざまメリットを享受できるようになる。

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