[特集]

対談:デジタル放送を語る(2):デジタル化で、放送の何が変わったのか?

2006/09/29
(金)
SmartGridニューズレター編集部

—具体的に、欧州や米国のデジタル放送サービスの状況はいかがでしたか?

谷岡 デジタル放送サービスへの取り組みにつきましては、欧米は日本よりも早く、英国では1996年に、DAB(Digital Audio Broadcasting)という地上デジタルの音声放送が始まっていますし、1998年にはデジタル・テレビ放送の規格DVB(Digital Video Broadcasting)による地上デジタル・テレビ放送サービスが始まっています。

それから、米国に関しても、1998年から米国のデジタル・テレビ放送方式の標準であるATSC(Advanced Television Systems Committee)方式によるサービスが始まっていますね。

日本は、BSデジタル放送サービスが2000年12月ですし、地上デジタル放送サービスは2003年12月ということですので、欧米に比べて遅いような感じはしますけれども、このような3方式が出揃った今になって考えてみると、日本のデジタル方式が一番よいのではないかと、自負しています。

—羽鳥先生、日本のデジタル方式が一番良かったとのことですが、どこのあたりが良かったのですか?

羽鳥光俊

羽鳥 今、谷岡さんがおっしゃられたのは、日本の地上デジタル・テレビ放送がOFDM(直交周波数分割多重、欄外の用語解説参照)という変調方式を使って、1チャンネル(6MHz幅)を13セグメントに分割して柔軟に番組編成ができるようにした、いわゆるセグメント方式を取られたことをおっしゃっていると思います。あのセグメント方式は大変素晴らしい方式だと思っています。

また、放送のデジタル化について、どこがデジタル化されたのかというご質問がありましたが、具体的には電波の使い方のところがポイントです。すなわち電波に、デジタル化された映像信号を乗せて(デジタル変調して)番組を放送するところが大きく変わったところです。それまでは、電波にアナログの映像信号を乗せて(アナログ変調して)番組を放送していました。

従来のようにアナログ信号で放送する方式というのは、放送する電波に映像や音声を歪(ひず)ませる雑音が入ってしまったりすると、その雑音を消すこと(除去すること)ができない、とういう問題があるのです。

例えば、ミューズ・ハイビジョンのアナログ映像信号の上に、熱雑音信号(電子機器などの内部回路の熱によって発生する熱雑音信号)や歪(ひずみ)などが乗ってしまうと、それは取り除くことはできません。

しかし、デジタル方式でやっている、地上デジタル・テレビ放送や、今のBSデジタル放送の場合は、デジタル映像信号の上に、少しくらいの雑音が乗ってしまっても、その雑音を取り除くことができるのです。

—なるほど、かなりの違いですね。

羽鳥 谷岡さんが先ほどおっしゃった、スタジオでデジタル信号処理によって、ミューズ信号を作っています、というのはね、まさにデジタル処理なのです。しかし、放送する際には、ミューズ信号をアナログ方式で送るわけです。

このとき、電波に乗ったミューズ信号に、熱雑音信号やビルなどで反射してできるゴースト信号などが加わってくると、それらを除去することはできません。ですから、映像や音声は歪(ひず)んだままとなってしまいます。

しかし、デジタル方式では、かなり大きい雑音の場合は映像が見えなくなりますが、小さい場合は雑音を取り除くことができるのです。ですから、今、放送されている地デジ(地上デジタル放送)があんなにきれい映るのは、雑音が除去されているからなのです。

谷岡 そうですね。つまり従来のアナログ方式のテレビ放送方式ですと、スタジオで見ている映像と、家庭で見ている映像は、当然のことですがかなり違っていたわけです。

すなわち、スタジオのモニターで見るとすごくきれいな映像なのですが、残念なことに、電波を通して家庭で受信して見ると、その映像にはゴーストがあったり、雑音が乗ったりしていて、映像の品質がかなり落ちてしまっています。しかし、デジタル放送方式になった現在では、もうスタジオで見ているのとほとんど区別がつかないほどきれいな、雑音のない、ゴーストのないテレビ映像をご家庭で見ることができます。

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