[特集]

対談:デジタル放送を語る(2):デジタル化で、放送の何が変わったのか?

2006/09/29
(金)
SmartGridニューズレター編集部

日本の放送機器産業を世界のトップレベルへ

—アナログのミューズ方式というのは、結局は何をもたらしたのでしょうか?

対談風景

谷岡 ミューズ・ハイビジョンは普及できなくて、今はデジタル・ハイビジョンの時代になっています。しかし、歴史的な制約の中で、当時のベストの技術でできたアナログ・ハイビジョンのミューズを開発できたということは、ハイビジョンの基礎技術を開発したという点でとても重要なことでした。

例えば、局内のスタジオ機器をはじめ、ハイビジョン用のカメラ、家庭用のディスプレイ(テレビ)などの技術を進歩させるうえで、非常に役立ったわけです。とくにスタジオ機器やハイビジョン用のカメラなどは、日本の製品が世界の市場でも一番高いシェアをもって普及している状況となっています。

ミューズ方式でハイビジョン放送を早く始めていたからこそ、そういった技術が開発されたのですが、どうしても焦点は、デジタル・ハイビジョン放送のほうに行ってしまって、ミューズは何だったのかといわれてしまいます。しかし、トータルの歴史的な立場で見たときに、ミューズがあったからこそ、デジタル・ハイビジョンを早く立ち上げることができたと思っています。

羽鳥 私もそう思います。先ほど、アナログ方式かデジタル方式かということについて、賛成だ、反対だという論議をしていたときに、ある新聞社の人がね、ミューズ・ハイビジョンという、アナログ方式をやっていたのは、間違いだったとは思わないのですか、と聞かれました。

そのとき、どんでもないことだといいましたよ。やっぱりね、あのミューズのハイビジョンがなかったら、こんなにデジタル・ハイビジョンがうまくいかなかったことは、関係者はみんなわかっていることなのです。

ミューズによるハイビジョンは、デジタル化への前座かもしれない、露払いかもしれなかったけれど、あの当時、NHKがハイビジョン(HDTV)を標準化したいといって、強力に推進したからこそ、ハイビジョンというスタンダードができ、ミューズ・ハイビジョン放送が実用化され、これが、現在の日本の放送機器産業を世界のトップレベルに押し上げているのです。

▽つづきはこちら から
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/list/82

 

用語解説

OFDM
OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波分割多重)とは、最近、無線LANやWiMAXなどでも、使われるようになった変調技術の1つで、電波によって高速に送信されるデジタル・データ信号を高品質に伝送する方式である。

OFDMの原理を簡単に説明すると、送信する高速なデータ信号を一つの周波数(シングル・キャリア)ではなく、それぞれが直交した複数のキャリア(マルチキャリアという。マルチキャリアを構成する1つ1つのキャリアをサブキャリアという)に分けて送信するデジタル変調方式である。

すなわち、高速なデータを複数の各サブキャリアに分散させて乗せ、並列に多重化して送信する変調方式である。このとき数学的な手法で、各サブキャリアが干渉しあわないようにすることで(これを直交という)、受信した後に、お互いにきれいに分離し、データをきれいに取り出せるような仕組みになっている。

プロフィール

羽鳥光俊氏

羽鳥 光俊

中央大学 理工学部 教授
電波監理審議会 会長
情報通信技術委員会(TTC) 理事長

略歴
1963年 東京大学 工学部 電気工学科卒業
1968年 東京大学 大学院 工学系研究科 博士課程終了、工学博士
1969年 東京大学 工学部 助教授
1986年 東京大学 工学部 教授(1999年 東京大学 名誉教授)
1999年 学術情報センター 教授
2000年 国立情報学研究所 教授(2004年 国立情報学研究所 名誉教授)
2004年より現職(中央大学 理工学部 教授)
この間、主に、通信工学〔移動通信(IMT-2000、ITS、無線LAN)、光無線通信、FTTH、電波干渉に強い通信方式〕、放送工学(放送のデジタル化、置局、著作権処理と著作権制御、画像の帯域圧縮符号化、通信と放送の融合)などの研究に従事。


 

谷岡健吉氏

谷岡 健吉

NHK放送技術研究所 所長

略歴
昭和41年4月 NHK入局、昭和51年 NHK総合技術研究所(現・放送技術研究所)映像管班に異動。平成12年 放送技術研究所(撮像デバイス) 部長、平成18年 放送技術研究所長。昭和57年 テレビジョン学会鈴木記念賞受賞、平成3年 新技術開発財団 市村学術賞受賞、平成5年 高柳記念財団 高柳記念奨励賞受賞、平成6年 大河内記念会 大河内記念技術賞受賞、平成8年 全国発明表彰 恩賜発明賞受賞。工学博士。 昭和23年2月14日生(高知市)。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...