[標準化動向]

802.11n(無線LAN)の標準化動向(3):600Mbpsを実現する物理層の仕組み(後編)

2006/10/02
(月)
SmartGridニューズレター編集部

802.11nは、物理層で最大600Mbpsを実現する規格である。これを実現する技術としてMIMOやOFDMが注目され、また、20MHz幅と40MHz幅の周波数帯域幅の使い分け技術も重要となっている。さらに、アンテナの数やモデムの数ではなく、「空間ストリーム数」というパラメータが、重要な基準となってきている。ここでは、前回に引き続き物理層の後編として、802.11nの物理層(PHY:Physical Layer)の技術的な特徴を解説する。

802.11nにおける周波数領域の柔軟な使い方

前回は、物理層のデジタル変調方式として、11nでも使用されているOFDM変調の仕組みを簡単に説明したが、復習するとOFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波分割多重)とは、高速に送信されるデジタル・データ信号を高品質に伝送する技術の一つである。

【1】802.11nとOFDM

前回説明したように、OFDMはマルチキャリア(複数のキャリア)によって高速化を実現する方式である。高速なデータ信号を一つだけの周波数(シングル・キャリア)に乗せて送信する場合、電波(周波数)が干渉などによって歪(ひずみ)を受けると、もとの信号(データ)を復元しにくくなってしまう。

そのため、これを回避し、効率よく高速なデータ信号を送るために、お互いに干渉しあわない複数の並列なキャリア(マルチキャリア)に乗せて変調し、干渉に強くする。マルチキャリアを構成する1つ1つのキャリアはサブキャリアといわれる。

そこで今回は、11nでこのようなOFDMの性質を利用して、どのように高速化を実現しているか、周波数はどのように使用されているかなどを中心に説明する。具体的には、OFDMのマルチキャリアを構成するサブキャリアは、具体的に何本使用されているのか、どのような使用上のルールがあるかなどを含めて、11nの周波数帯域の柔軟な使い分けについて説明する。

【2】周波数帯域を使い分ける方法

802.11nで、周波数帯域を使い分ける方法については、

(1) 802.11a/gなどで使用されているレガシー・モード

(2) レガシー・モードを改良したハイ・スループット・モード(20MHz)

(3) ハイ・スループット・モード(40MHz)

(4) レガシーの2チャネル配置モード
(40MHzの上側波帯(Upper)モードと下側波帯(Lower)モードがある)

の4種類がある(図1)

図1 周波数ドメイン上の柔軟性
図1 周波数ドメイン上の柔軟性(クリックで拡大)

<1>レガシー・モードとは?

このモードは、従来の規格との相互接続性を維持するために必要なモードである。802.11a/gなどのレガシー・モードの場合、OFDMによるデジタル変調では、図1(1)に示すように、20MHz幅の1チャネルの帯域に最大52本のサブキャリア(SC:Sub Carrier)を使用し、最大54Mbpsの伝送速度を実現している。

ただ、52本のうち4本はモデムの同期用に使用されるため、ユーザー情報としては48本が割り当てられている。すなわち48本のサブキャリアを使用してユーザー情報を並列に処理しているので、1本のサブキャリアは、1.2 Mbps(=54Mbps÷48本)の伝送速度でユーザー・データを運んでいることになる。

なお、無線LANに割り当てられている周波数について、日本の場合は、802.11a には5.15~5.35GHz帯に200MHz幅の周波数が割り当てられ、この幅の中に8チャネルが位置づけられている。

<2>ハイ・スループット・モードとは?

802.11nとして基本モードで、MIMOなど高速化を行う場合はすべてこのモードで運用する。このハイ・スループット・モードでは、無線技術の向上によってレガシー・モードのOFDMの細部のパラメータが改良され、よりハイ・スループット(高実効速度)が実現されている。

このモードでは、図1(2)に示すように、周波数軸上には、20MHz幅に、レガシー・モードよりも4本多い56本のサブキャリアが配置できるようになり、さらに高速なデータ信号を送信できるようになっている。

また、このハイ・スループット・モードで、20MHz幅の2倍の40 MHz幅を使用して運用する場合は、図1(2)に示すように、基本的に図1(2)の20 MHz幅ハイ・スループット・モードを2つ並べて使用する。ただし、112本(=56本×2)ではなく、2本多い114本(=57本×2)のサブキャリアを使用する。

2本多い理由は、OFDMでは、データ復調時に問題となる、受信機のDCオフセット(※1 欄外の用語解説参照)の影響を軽減するために、センター周波数(センター用サブキャリア)は使用しないルールになっている。

今まで使用していなかった20MHz帯域でのセンター周波数は、40MHzで2つ並べた場合はセンター周波数ではなくなるために、ユーザー情報としてさらに使用することができるため、それぞれに1本サブキャリアを追加できることになる。よって実際には、

114本=112本(信号用サブキャリア)+2本(センター用サブキャリア)

ということになる。

この40 MHz幅のハイ・スループット・モードの環境で、802.11a/gなどの20MHz幅のレガシー・モードを混在させて動作させる場合は、114本のサブキャリアうち図1(3)の左半分の20MHz幅(56本のサブキャリア)か、右半分の20MHz幅(56本のサブキャリア)のどちらか片側を使用して運用することになる。すなわち、図1(4)に示す40 MHz幅のLowerモード、あるいは図1(5)に示す40 MHz幅のUpperモードを使って運用することになる。

40MHz幅で運用の場合は、必ずアクセス・ポイント(AP)と端末は、Infraモード(※2 用語解説)での「主」「従」の関係の下で運用されていることに注目する必要がある。

主となるアクセス・ポイントは、40MHzチャネルのなかの一方の20MHzを常用チャネルとしてCommonチャネルと定義する。このCommonチャネルを使って、11nのみならず11a/gにも解読できる11a/g運用時と同じビーコン信号(基準信号。802.11nの情報も付加している)を流し、従となる端末はこれを受信し、その指令に従って帰属することになる。

このとき、20MHz幅対応の端末は、そのままCommonチャネルを使ってアクセス・ポイントと通信する。40MHz幅対応の端末は、ビーコンで指示されているExtensionチャネルにより、40MHzに拡張したときにLower側か、Upper側かをアクセス・ポイントがビーコン信号にExtensionチャネルを指示して制御する。

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