[標準化動向]

802.11n(無線LAN)の標準化動向(1):ユーザー実効速度100Mbpsを目指して

2006/07/13
(木)
SmartGridニューズレター編集部

大きなワイヤレス・ブロードバンド化の波を背景に、ユーザーの利用環境に近いところで100Mbps以上の高速無線 LANの標準化を目指して、802.11n(TGn:タスク・グループn)の標準化活動が活発化している。ここでは第1回目として、802.11nの設立 から、802.11nが目指している標準化の技術的な特徴を解説する。

802.11WGの設立と標準化活動

無線LAN(Wireless Local Area Network)に関する標準規格を策定するIEEEの802.11WG は、1990年に設立された。図1に示すように、最初に標準化されたオリジナルの 標準規格は、802.11規格(2.4GHzのISMバンドを使用)として、いずれも100m程度の伝送距離で、伝送速度が1Mbps/2Mbpsの、

  1. DSSS方式(Direct Sequence Spread Spectrum、直接シーケンス・スペクトラム拡散方式)
  2. FHSS(Frequency Hopping Spread Spectrum、周波数ホッピング・スペクトラム拡散方式)
     
  3. IR(Infra- Red、赤外線方式)

の3 つの方式が、1997年に標準化された。この802.11規格で使用する2.4GHzのISM (Industrial Scientific Medical Band、産業科学医療用)バンドとは、電子レンジや医療用の電気メスなどに使用されている周波数帯であるところから「産業科学医療用バンド」といわれ る。

図1
図1 無線LAN(IEEE 802.11)規格の構成 (クリックで拡大)

この規格は標準化のために7年もかかってしまい、標準が策定されたときには、時代が大きく変化していた。このため、広く普及するには至らなかったが、無線LANがどのようなところで使用されるかなど、その市場性を見定めるうえで大きな役割を果たした。

その後、ワイヤレスのブロードバンド化の波を背景に、表1に示すように、802.11a(54Mbps)と802.11b(11Mbps)が同時期(1999年)に標準化され、次に802.11g(54Mbps、2003年)が標準化された。

表1
表1 無線LAN(802.11WG)の主な標準規格 (クリックで拡大)

この中で、802.11aは、ITU-Rが高速無線アクセス用に世界的に割り当てた5GHz帯を使用し、さらに高速なデジタル信号を高品質に伝送する変調 方式「OFDM」(Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波分割多重)方式を採用して、54Mbpsを実現した。また、2.4GHzを使う無線LANも、802.11aと同じ OFDMを採用し54Mbpsの802.11gの規格が作成された。

100Mbps以上の速度を目指す
TGn(タスク・グループn)の設立

以 上のような背景の下に、2002年5月、無線LANのさらなる伝送速度の向上を目指して、802.11WG内に、タスク・グループ(作業班)を立ち上げる 前のHTSG(High Throuput Study Group)というスタディ・グループ(SG:研究グループ)がスタートした。1年余の活動の後、スタディ・グループは、タスク・グループ設立のための、 PAR(Project Authrization Request、プロジェクト要求条件)を作成した。このPARには、次の5つの判断基準(Five Criteria)の作成が義務付けられている。

  1. 広い市場性はあるか(Broad Market Potential)
     
  2. 既存の標準との互換性はあるか(Compatibility)
     
  3. 明白な独自性のある技術を備えているか(Distinct Identity)
     
  4. 多くのベンダが、製品を公平に製造できる技術的な可能性はあるか(Technical Feasibility)
     
  5. 経済的な採算性はあるか(Economic Feasibility)

このPARの内容が上部組織のIEEE-SA(IEEE標準協会)で承認され、2003年9月にTGn(Task Group n、タスク・グループn)に昇格し、標準活動が開始された(n:next generation)。

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